第107話 ガレット、食べたいな!②

 そんなわけで、お昼は目玉焼きとベーコンが入ったガレットだった。クレープみたいな薄い生地に、よく焼いたベーコンと半熟の目玉焼きが乗っていて、野菜が添えられていた。


「すごい! これが蕎麦粉から作れるの?」

 楓は目を丸くした。

 朝は麺だったのに!

「おいしい! ガレットもおいしいよ、パパ!」

「そうでしょう、そうでしょう!」

 彩香は自慢げに言い、おいしそうにガレットを食べた。

「ねえ、ママ、おいしいって幸せだね!」

「そうだね」


 弘樹は嬉しそうにみんなを見た。ルーと透は黙っていたけれど、やっぱりおいしそうに食べていた。こういうの、いいな、と弘樹は思う。

 おいしいものを作る。そして、みんなで食卓を囲む。

 家族といっしょに食事をするって、それだけで幸せなんだ。

 いろいろなことがあるけれど、こうして食卓を囲んでおいしいものを食べて、出来る限り明るい気持ちで乗り越えていきたい。

 弘樹は、ピンクちゃんの話を思い返し、そんなふうに考えた。


 僕たちがこの世界に来たとき、いったいどうなるんだろうかと思った。

 でも、彩香が明るく元気でいてくれて、僕はほんとうに救われたんだ。もとの世界に帰れないかと落ち込んだこともあったけれど、いつの間にか自由に日本に行けるようになって。


 彩香と楓はそっくりだ。元気で明るく前向きだ。

 ときどき、びっくりするようなお願いをされるけれど、でも、そういうのがきっといいところなんだろうな。

 透は透でおもしろい。

 弘樹は透が何をつくっているのか、なんとなく分かるような気がしていた。

 ピンクちゃんの話は真剣に考えなくてはいけないことだと、分かっていた。だけど、深刻にはならずに一つずつ解決していきたい。


 弘樹はルーと目があった。

 ルーも不思議な存在だ。すっかりうちに馴染んでいて、なくてはならない存在になっている。そして、ピンクちゃんたちドラゴンもペガくんも。みんな、僕の家族なんだ、と弘樹は思った。人間とか人狼とかドラゴンとかペガサスとか、関係なく。


 自分の意志で来たわけではないけれど、僕はアルニタスが好きだ。

 そして今は、自分の意志でアルニタスにいる。

 みんなが笑顔でいるといい。

 弘樹は強くそう思った。そして、みんながガレットを食べ終わったタイミングで言った。


「ところでさ、そろそろ大事な話をしない?」

 彩香は食器を下げながら「そうね。お茶を飲みながら話しましょう」と言った。

「楓。だいたいのところはピンクちゃんから聞いているんだけどね。楓の口から、話してくれる?」

「うん!」

 楓は真剣な顔で頷いた。それから、「ママ! あたし、牛乳がいい!」と言って、みんなを笑わせた。透は小さな声で「ぼくはつめたいおみず」と言った。彩香はにっこりと笑って言った。


「分かったわ! 準備するから待っててね」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る