第8話 部活
GWは明日から、今日を過ごせば休みだ。最初の三日間は仕方ないが、後二日は自由に出来る。何をするかな。
今日は早瀬さん、おはようの挨拶だけで自分の席で何かやっている。良かった。
こいつは違うが。
「雫、下坂さんの部活決まったか」
「知らん、何で俺に聞くんだ。自分で聞けばいいだろう」
「いや、テニス部への入部届が出て無くてな。お前なら知っていると思ったんだが」
「なんで若菜に聞かないんだ」
「俺が聞いても教えてくれないんだ」
「ふーん。でも俺は知らない」
「ところでお前はどうするんだ」
「困っている」
「困っているって言っても今日までだぞ。明日から休みだから」
前の入口がガラガラと開いて西泉願力先生が入って来た。いつもながら眼鏡を掛けたゴリラにしか見えない。流石柔道部顧問。
「今日は部活の連絡だけだ。まだ入部届出していない奴は、今日中に出す様に」
それだけ言うと教室から出て行った。
困った。運動部系には入りたくない。かと言って冗談にも図書委員や生徒会なんてとんでもない。となると文芸委員か数学クラブ。後者は論外。では文芸委員か。でも何するんだろう。聞いてみるか。
早速一限目後の休み時間に職員室に行った。入り口に来るとやっぱり緊張する。
そっとドアを開けて、願力先生に小さな声で
「先生、文芸委員の顧問の先生ってどなたですか」
「あん、ああ文芸委員か。あそこだ桃神桃花(ももかみももか)先生だ」
「へっ、桃神桃花?!」
つい普通の声になってしまった。聞こえたのか金髪で小動物のような雰囲気のやたら胸の大きい小柄な眼鏡を掛けた女性の先生が
「な~に。私に用かしら」
俺絶対選択間違えたと思ったが遅かった。
「どうしたの」
「神城挨拶からだ」
「あっ、はい。神城雫です。文芸委員の役割を教えて貰いに」
「そう。良かったわ。入ってくれるのね。今年は誰も入部届が無くて困っていたのよ。でもさっき一人来てね。君で二人目。ふふっ、宜しくお願いね」
小さな体で目一杯近づいて、両手を胸の前で握りながら下から俺を見上げる。
う、ううっ。不味い。聞きに来ただけなのに。
「さっ、ここに名前書けば終わりよ。書いて」
「い、いや俺は…」
「何を躊躇しているの。ここ、ここに君の名前を書けば立派に文芸委員よ」
うるうるした目で上目遣いに迫って来る。この人本当に先生?金髪っていいの?
結局俺は名前を書かされ無事?文芸委員になった。役割は簡単。昼に学校で三か所ある花壇に水を上げれば良いと言う事だ。
だが、最近人手不足で水のやり手が無く、困っていたので今日だけ昼と夕方やって欲しいと頼まれた。
そんな事ならと思い簡単に安請け合いをしてしまった。
昼休み、今日も幼馴染と学年一の美少女が昼食の時間に攻めてくる。でも二人が作るお弁当は本当に美味しい。
「雫、今日は私のお弁当。食べて、食べて」
「うん、ありがとう若菜」
早瀬さんは、自分のお弁当を開けて食べ始めている。
「雫、どうしたの今日は黙ってお弁当食べているし、食べるの早いね」
「うん、今日から文芸委員になったんだ。それで昼と夕方、花壇に水をあげる事になっていて」
「文芸委員!雫が」
「驚くことはないだろう。運動部系が無しで後を考えれば、文芸委員しかない。だから早く食べないと。今日初めてだから段取り分からないし」
「そ、そっか、分かった」
雫が文芸委員とは。予測できなかった。でも考えれば分かるはず。まだ入部間に合うかな。
神城さんが文芸委員。決まっていなかったら図書委員に誘おうと思っていたのに。
「若菜、ご馳走様美味しかったよ。じゃあ俺水やりするから」
お弁当を作って貰った若菜には悪いが、俺は食べ終わると急いで校舎裏の花壇に行く事にした。あそこの横に確か小さな小屋が有って水やりの道具が入っているはずだ。
校舎裏の花壇に着くと丁度小屋から女の子が出て来た。手にホースを持っている。ホースの先端がシャワーヘッドだ。
「っ!…………」
小屋から出て来たのは、東条優里奈、俺を振った元カノだ。桃神先生が先に一人入ったと言っていたが、まさかあいつとは。
こっちに気付いた様だ。
「雫」
仕方なく、彼女に近付く。
「東条さん、あなたも文芸委員ですか」
「はい。雫も」
「ああ」
神様は俺に意地悪をしているのかと思わざるを得なかった。
今更引き返して退部届など出すわけにはいかない。一年から先生たちの心象を悪くする訳にはいかない。
「東条さん、俺がやる。どうやればいいんだ」
「私もやります。雫はホースをあそこの蛇口に付けて」
「分かった」
神様は、まだ私を見捨てなかったのね。ありがとうございます。
「どう言う事」
私達は雫が花壇の水やりとか想像出来なく、校舎の陰から見て、上手く出来なかったら面白半分でからかおうと思ってやって来た。まさか、あの子がいるなんて。
東条優里奈。雫の元カノ。別れた理由は知らない。ただ、別れた後の雫は辛そうだった。あの人だけは苦手。あの冷徹な女は人を上からしか見ない。話しかけても返事もしない。その美しさとスタイルの良さで、馬鹿な男達は告白しては断られている。
「下坂さん、あの人は」
「知らないわと言う訳には行かないわね。中学時代の雫の元カノよ」
「えっ、元カノ!」
「なに、協力して仲良くやっているのよ。雫」
―――――
第7回カクヨムコン応募中。アクセスご評価頂けると大変ありがたく思います。
神城君、恋愛の神様に弄られ始めたようです。
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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