第11話 若菜とお買い物
今日は、目覚ましの力を借りて早く目覚めた? まだ、七時。雫は寝ているはず。
雫とデートの日。早く行ってアイツの寝顔見るんだ。
「お母さん、おはようございます」
「あれ、昨日はよく寝ていたのに今日は早いわね。そうか。雫ちゃんとデートだものね」
「もう、そんなこと良いから、朝ごはん食べたい」
「もう出来ているわよ」
急いで朝ごはんを食べて、お化粧して、洋服は淡いイエローのスカートに白のブラウス。控えめで春っぽくこれで良い。それに白のスニーカ。
「お母さん行って来ます」
「お隣でしょ。雫ちゃんに宜しくね」
「はーい」
玄関を出て十歩も歩かずにお隣の家に。
ピンポーン。
「はーい。あら若菜ちゃん。早いわね。雫はまだ二階よ。起こしてあげて」
「はい」
雫のお母さんと私のお母さんはとても仲が良い。お腹が大きくなったのも一緒。お産をした病院も一緒。
公園デビューから始まって幼稚園、小学校、中学校とずっと一緒に行動している。だから自然と私達も仲良くなった。小学校までは一緒にお風呂にも入った。同じベッドで一緒に寝る時も有った。
でも私が女性特有の事が起こり始め、胸も大きくなり始めた小学校高学年から親に反対されそれは出来なくなった。始めは二人で随分親に抵抗したが、今から思えば可愛い年ごろだったのかな。
中学校になっても同じベッドで寝る事も有った。別に何をする訳でもない。話をして一緒にゲームをして寝る。それだけ。
でも私はそれが嬉しくて仕方なかった。いつ頃からだろうか。雫の事を意識し始めたのは。中学二年に上がった頃からだ。
テニスクラブに一緒に入ったが、雫は一生懸命やると言う訳でもなく、早く帰ったりしては、どこかに行って、怪我したりして帰って来ていた。怪我というより何かの練習で擦ったという感じだった。
私が何しているのと聞いてみると『将来自分の大切な人を守る為の準備。父さんに言われた』と言っていた。その言葉を聞いた時、私の心の何かが疼いた。
その頃からかな、何となく雫を意識し始めたのは。でも雫は私をいつまでも幼馴染としか見てくれない。
でもいいんだ。ずっと側に居て最後には一緒になれれば。だから絶対誰にも譲らない。雫が思う『将来自分の大切な人』は私なんだから。
雫の部屋は鍵がかかっていない。そっとドアを開けて中を見るとまだ寝ていた。そっと入りベッドの脇に座る。
雫の寝顔が可愛い。おでこに唇を近づけると
チュ、チュ、チュチュー。
ふふっ、起きない。唇にしたいけどそれは雫からして欲しい。だから唇は取っておくの。
左の頬をツンツン。
起きない。右の頬もツンツン。
あっ寝返った。顔を近づけて左の頬にチュ。チュ。
右の頬にチュ。チュチュ。
「うーん」
伸びをして脱力するとまた寝てしまった。もう。
仕方ない。右の耳に優しく
「起きて雫」
起きない。こうなったら。最後の手段。ブラウスの前を開けて、胸を雫の顔に押し当てた。
ぎゅー。ブラ痛いかな。でもまだ脱ぐ勇気無いし。
もう一度ぎゅー。
「うっ、うーっ」
昨日と同じような感覚。なんかとてもいい匂い。でも今日は何か固い。また妹か。良し。俺は目を瞑ったまま両手を広げるとぎゅっと抱き締めた。
「わっ、わわっ。あーん」
「えっ」
声が違う。目を開けると
「うわっ」
思い切り若菜を離すと
「ど、どうして。な、なんで。若菜がそんな恰好で」
若菜が真っ赤な顔している。
「い、いや、雫が起きないから」
直ぐに両腕で胸を追おうと後ろを向いてボタンを付けた。
「はあー。驚いたよ。どうしたの」
俺は時計を見るとまだ八時だ。
「まだ八時だよ。いくら何でも早いよ。お店開いてないだろ」
「い、いいじゃない」
なにか、おでこや頬が濡れている感じ。手で触るとなにか湿っている。
「若菜、俺が寝ている間に何かした」
「ナ、ナニモシテナイヨ」
「何で棒読みなの」
「良いから」
私はもう一度ベッドの脇に座り直すと雫に抱き着いた。
「どうしたの」
「少しだけこうさせてよ。小さい頃は良くやったでしょ」
「小さい頃って言ったって」
どうしたんだろう。高校に入ってから若菜が変わった。前はこんな事する子じゃなかったのに。
仕方なくそのままにしていると少しして離れた。
「そうだ。雫、昨日チャット送ったのに全然出なかったでしょ。なんで」
「だって、あの時は妹と会っていたし」
「会っていたって、返事くれてもいいじゃない」
「若菜は、逆の立場なら同じ事言う?」
「嫌に決まっている。いいの私だけは」
「……………」
仕方ないのかな。女の子って難しいよな。妹の花音もなんか難しくなったし。
「若菜、俺着替えるから下で待っていて」
「ここに居ても良いけど」
「だめ」
若菜が一階に降りた頃を見計らう様に
「お兄ちゃん。若菜お姉ちゃんと朝からお熱いのね」
「花音、何もしていなよ」
「してた。お兄ちゃんのば~か」
これを言うと直ぐに自分の部屋に戻って行った。
分からない。何なんだ。
部屋着に着替えた後、一階で顔を洗い、ダイニングへ。若菜がお茶を飲んで母さんと何か話している。
「雫、今日は若菜ちゃんとデートなんだって」
「デートじゃないよ。買い物に付き合うだけ」
「そういうのデートっていうのよ。若菜ちゃん可愛いから変な事にならない様にちゃんと守るのよ」
「それは分かっている」
「分かっていればいいわ。朝ごはん用意できているわ。食べなさい」
結局、俺達は九時半に家を出た。
「雫と一緒に出掛けるのって、いつ頃以来かしら。久しぶりね」
「三月末の春休みにしている。一ヶ月しか経っていないよ」
「一ヶ月も経てば、随分前の話よ」
「そうなのか。ところで今日は何処へ行くんだ」
「うーん、快速で五つ目の街」
「へっ!?」
「どうしたの」
「い、いや何でもない」
まさか、昨日妹と行った所に行くとは。何たる奇遇だ。また、あそこの公園に行かないよな?
―――――
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