第12話 若菜とお買い物その二


 なんと俺達は、昨日妹と来た街に来ていた。何か縁あるのかな。


「ねえ、駅の側に出来たビルの中で買いたい物があるの」

「いいよ」


 良かった。流石に行く所まで同じだとちょっとした事で昨日来たことがばれてしまう。

 そうなると若菜は機嫌が悪くなるのは見えている。


駅から通じる通路から建物に入った。

「七階までエレベータで上がってエスカレータで見ながらゆっくりと降りて来たい」

「いいよ」


 待つのは良かったが、四基あるエレベータは混んでいるのか中々二階に止まってくれない。混んでいる所為か素通りしてしまう。


「若菜、仕方ないからエスカレータにしようよ」

「うーん。でもそれだと何となく楽しみ減るし」

「そうか、じゃあ待つか」


 やっと乗れたエレベータはガラガラだった。どうなっているんだ。


 七階に来るとくるりとフロアを回るように見て歩く。ほとんどがブランド物だ。高校生の俺達の手が出る値段じゃない。


 それでも若菜は楽しそうに見ている。偶にお店の中に入っては何を手に取る訳でもなくするりと出てくる。


 仕方なく彼女に付き合って歩くが俺が分かる範囲の物は何も無かった。やがて有名な小物ショップの〇フトの前に来ると


「雫、ここでスマホケース買わない。お揃いの奴」

「えっ、良いけど。スマホの型同じだったっけ」

「でも見てみようよ」


 無理と思いつつお店の中へ。あれこれ探したがそもそも型が違うスマホのケースにそんな多様性が有るはずもなく、結局買わず仕舞い。

「やっぱりなかったな」

「いいの、いいの」


 二階のフロアまで見終わると

「雫お腹空いた」

スマホで時間を見ると十一時三十分を過ぎていた。


「そうだな。朝早かったし。何を食べようか」

スマホで現在位置から値段指定で検索すると


「やっぱり〇ックかな。この辺はちょっと郊外のファミレスが無いから仕方ないね。若菜ここでいいか」

「いいよ」

「じゃあ、行こうか」


入ったお店は昨日行った所には近いが別のビルに入っていた。良かった。


「雫、カウンターで良いかな」

「うん、いいよ。何が良い俺が買って来るよ」

「じゃあ、ポテトとホットミルク」

「えっ、それだけ」

「うん」


育ち盛りなのに良いのかな。俺はビッグだよなやっぱり。


 トレイに注文した物を乗せて若菜の所に戻って来たが、昨日の様な事は無かった。また有ったら堪らない。

「はい、買って来たよ」

「ありがと」


食べ始めながら若菜がガラスに映る俺の顔を見ながら

「雫、今日私と居て楽しい?」

「なんだよ、いきなり。どうしたの」

前はこんなこと言わなかった。ほんとどうしたんだろう。


「答えて」

「楽しいと言うか、昔から若菜はいつも側にいたから。いるのが当たり前というか。今日だって側に居る。そんな感じ」

「うーん。答えになっていない。ねえ、雫は私の事大切?」

「大切だよ。大切な幼馴染だよ」

「ずっとそう思う?」

「ああ、ずっとだ。若菜は俺にとってずっと大切にする人だよ」

「ほんとう。嬉しい」


 やっぱり雫は私が一番大切な人なんだ。将来も大切にしてくれるんだ。ちょっと寄りかかってみようかな。


「どしたの?寄りかかったりして」

「こうして居たいだけ」


 やっぱりおかしい。聞いてみようかな。でもなあ、女の子って難しい。変なこと言って若菜を怒らせても仕方ないし、このままにしてようか。


若菜が俺の肩から頭を外すと

「映画見に行こっか」

「買い物は?」

「いいよ。また今度にする」


昨日と同じように駅の反対側にある映画館が入っているビルについた。

「何見るの?」

「あれ」


 指を差したのは、有名な若手俳優と女優が出ている恋愛物だ。お腹が満たされているので特に何も買わずに館内に入った。


えっ、映画が始まって十五分位して最初の山場らしき場面になると若菜がいきなり俺の手を掴んで来た。

 彼女の顔を見るとスクリーンを見ている。場面に感激したのか、それならいいか。彼女の手は小さく柔らかい。握ったら壊れそうだな。


 そのまま掴まれていた手が、映画の終盤で更に強く握って来た。感激しているのかな。

俺にはそこまで感激するという程でもないのだけど。




ふふふっ、映画を理由にして雫の手を握っちゃった。嫌じゃなさそうだからこのままにしておこう。


 雫の手はいつもごつごつしている。男の人ってみんなこんな感じなのかな。でもテニスやっている男の子って、手は大きいけど柔らかそうに見えるけど。


 この後誘ってみようかな。でも順番あるし。恋人関係にならないと。まずそっちからだよね。でもふふふっ、順番逆にして既成事実からってのも有るかな。


映画が終わると三時半を過ぎた所だった。

「雫、この後どうしようか」

「買い物しなくていいの」

「うん、でも帰るの早いでしょ。ちょっと歩かない」

「まだ早いし、いいよ」

「じゃあこっち」



 こっちの方だったんだけどな。違ったかな。

「若菜、何処に行くつもり。飲食店やビルばかりだよ。散歩って感じじゃないよね。この辺」

「あっ、有った。雫あそこ」

「へっ?!あそこって、あれだよね。ラブ〇」

「一度入ってみたかったんだ」

「い、いやいや。喫茶店じゃないんだから」

「ええーっ、雫とならいいよ」


どうしたんだよ。



「若菜、どうしたの。高校入ってからおかしいよ。こんな事する子じゃなかったでしょ」

「雫、私だって女の子よ。興味あるわ。雫は私じゃ嫌なの」

「そういう意味じゃなくて、何かこう急に何か急いでいる様な。俺とお前は幼馴染だよ。急がなくてもいいじゃないか」

「それって、その時が来たら此処に連れて行ってくれるって事」

「いやいや、そういう事じゃなくて。とにかく今日はもう帰ろう」


若菜が急に悲しそうな顔して目に涙を浮かべている。


「嫌だ。嫌だよ。もっと雫と一緒に居たい。ここに来るのだって一生懸命勇気を出したんだよ。雫の事好きなんだから、いいでしょ。もっと一緒に居たい!」

「若菜…………」


「雫は私の事嫌い?」

「そんな訳ないじゃないか」

「じゃあ好き、女の子として」

「急に言われても分からないよ。でもお前が大切な幼馴染だと言う事は本当だ」

「幼馴染を女の子に変えてくれないの」


これでは埒が明かない。仕方ないか。でもなぁ。

「若菜。俺はお前の事を大切な人だと思っている。でもまだ恋愛とかそういうのは無いんだ。生まれた時から一緒だから。これで今は勘弁してくれ」


 彼女が俺の顔をじっと見ている目に溜まった涙はそのままだ。俺はポケットからハンカチを出すと彼女の下瞼に近付けてそっと拭いてあげた。


いきなり俺の胸に抱き着いて来た。

「ちょ、ちょっと。皆見ている」

「いい。ちょっとだけ」


周りの人が見ている。笑っている人、怪訝な顔の人、そして

「へーっ、昼間っからラブ〇の前でイチャイチャかよ。いいねえ」等と言う人も。

流石に恥ずかしい。


「雫、帰ろっか」

「ああ」


 俺達はそのまま家に帰ったが、距離が有ったので、結局家に着いたのは五時半を過ぎていた。自分の部屋に入るとベッドの上に腰掛けた。


 若菜の奴、俺にそんな感情持っていたのか。いつ頃なのかな。だから高校に入ってから急に態度がおかしくなったのか。でも俺はあいつに恋愛感情はない。大切な幼馴染だけど。どうしたものか。


―――――

第7回カクヨムコン応募中。アクセスご評価頂けると大変ありがたく思います。


遂に若菜が雫に告白。でも彼はその感情は持っていなかった。これからどうなるのかな。この二人。


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。



 

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