第15話 川面にて
GWも後一日
昨日は一日中家でゴロゴロしていた。出る気になれなかった。
明日から学校だ。少しは体を動かした方が良いか。今何時だ。手を伸ばして机の上にある目覚まし兼用の時計を見る。もう九時か。そろそろ起きるか。
パジャマ姿のまま、一階に降りていくと母さんと父さんがコーヒーを飲んでのんびりと話していた。
「おはよう」
「「おはよう雫」」
「ご飯食べる」
「後で良い」
「片付かないから食べて」
「分かった」
仕方なくせっせと顔を洗い部屋着に着替えてからダイニングに行くとテーブルに朝食が用意されていた。
「雫、爺さんと話した時、お前の事言っていたぞ。四月に入ってから一回も遊びに来ていないから偶には顔を見せに来てくれと」
「うん、その内。今はまだ高校入ったばかりだし、落着いたら顔出すよ」
「そうか。そうしてやってくれ。爺さんが後を継いでくれたらなと言っていたがな。まあ冗談半分だろうが」
「そうだね。それもいいかも」
「「えっ!」」
「まあ、考えてみるよ。そう言えば花音いないけど」
「ああ、朝から友達と遊ぶからってさっき出て行った」
「ふうん」
俺は朝ごはんを食べ終わると俺は自室に戻った。
机の椅子に座る気にもならず、ベッドに腰掛けた。参ったな。明日から学校だというのに。どんな顔して二人に会えばいいんだ。
気分変えた方が良いかな。部屋に閉じ籠っていても仕方ない。
ふう、久々に来たな。
ここは俺の家から五キロ程離れているこの辺では最も大きな川だ。本当は隣駅まで行けばすぐの場所だが、歩くことにした。
のんびりと川伝いにある遊歩道を歩く。偶に川の岸辺に行ってボケっとすると少し気分が晴れて来た。来て良かったな。
「雫」
忘れる事の無い声に振向くと
「優里奈。なんでここに」
「雫こそなんで」
「散歩だよ」
「そう私も散歩よ」
そう言えば、優里奈の家はこの近くだった。忘れていた。
「ここに座っていい」
「ここは公の場所だよ。俺が何をいう事も出来ないさ」
「ありがとう。変わらないね」
「…………」
座って芝生の上に置いてあった手に優里奈が自分の手を重ねて来る。一瞬避けようとしたが、掴んで来た。
「少しで良いからこのままで。いつもながら手が固いわね。続けているの伯父様の所」
「いや、四月からは行っていない。遊びに来いと言われている」
「そう。雫強いものね。伯父様も期待しているんじゃないの」
「君には関係ない事だ」
「ごめんなさい」
「ここ懐かしいわね。雫とお付き合いするようになって初めて来た場所よ。覚えている」
「ああ」
「不思議ね。あなただとなんでも素直に話すことが出来る」
「最近はどうなんだ」
「中学校の時より良くなったけど、上手くいかないわ。今のクラスでもそうよ。あの時はいつも側に雫が居てくれたから他の人とも話すことが出来たけど」
「そうか」
「雫、いつでもいいのよ。もしあなたが私を必要としているなら」
「…………」
あの時の記憶が蘇って来た。家族がいない俺の部屋での事が。
「そろそろ帰るよ。優里奈送って行く」
まだ、陽は高く気持ちの良い風が柔らかく吹いていたが、これ以上話していると昔の事を思い出してくる。思い出したくない記憶もある。
「じゃあ、近くまで」
恋人の関係に戻れなくても友達の関係までは戻れた。手を触っても許しくれる。こうして送ってもくれる。あの時の優しさと変わらない。
急いではいけない。ゆっくりと元の関係に戻ればいい。私を知っているのは雫だけ。
彼女の家は歩いて川辺から二キロ位だ。確かに散歩には良い距離なのだろう。言葉は少ないが他愛無い会話をしている内に彼女の家に着いた。
「寄って行く」
「止めておくよ」
「そう」
「じゃあ、明日学校で」
そう言って彼女が家の門をくぐると中に入って行った。いつ見ても大きな家だ。門から玄関は見えない。
帰るか。結局悩みを一つ増やしただけだったな。
「ただいま」
「お帰り。さっき若菜ちゃんが来たわよ。出かけていると言ったら、分かりましたと言って帰ったけど」
「そう」
何だろう。何か用事あったのかな?
―――――
第7回カクヨムコン応募中。アクセスご評価頂けると大変ありがたく思います。
雫にとっては悩み事だけが多くなったGW。明日から学校です。どうなる事やら。
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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