第14話 早瀬さんの事情


 俺と早瀬さんは、食事をしたレストランがあるフロアから公園の方に歩いている。


「神城さん、少し長くなりますが、聞いて頂けますか」

「うん」


「少し前になりますが、中学二年が終わり三年になるまでの春休みの時です。私は先程もお話しましたが、今の高校の近くに有る嚶鳴(おうめい)女子中学の生徒でした。


 春休みなので午後からお友達と会う為に駅で待ち合わせしていました。その時、二人の男の人が私に声を掛けて来たのです。友達と待合せというのにとてもしつこく私の手を掴んで連れ去ろうとしたんです。


 その時、男の子が声を掛けたんです。『止めろよ』と。まだ小さくて男の人達から見ると子供だと思って馬鹿にしたんでしょう。


 その子を無視して私の手を掴もうとした男の手をその子は足で蹴り上げたんです。男は怒ってその子に殴りかかろうとした時、一瞬で男は倒れました。鳩尾に蹴りを入れられた様でした。


 もう一人の男も殴りかかりましたが、簡単に男の子に避けられた後、後ろに回り込まれ思い切りお尻を蹴られて、男は前にのめり込み気絶しました。多分急所を蹴られたのだと思います。


 あっという間でした。それから私の手を引いて逃げてくれたのです。私は仕方なく友達に連絡した後、家に戻りましたが、その男の子は名前だけ教えてくれました。『俺は神城雫だ』と。


 お礼を言おうとしたんですが、直ぐにどこかに行ってしまいました。


 その後連絡も出来なかったので、また会えるかもしれないと思い、お友達と一緒に何度か駅の辺りで待っていたのですが、あなたとお会い出来る事は有りませんでした。


そしてこの間に私の心の中で段々あなたの存在が大きくなって行ったのです。


 それから一年経ち今の高校に入ったら、あなたが同じクラスに居たんです。私は天啓だと思いました。


 それから少しの間、どの様な方なのかとあなたの様子を見ていましたが、明るくて友達思いの良い人だと分かるようになりました。


 もしあの時あなたが助けてくれなければ、今の私は無かったかもしれません。私は心に決めたんです。私はこの人の恋人になり、同じ大学に行って、将来はこの人に連添うと。


 神城さん。私はあなたが好きです。お付き合いして下さい。私の全てを差し上げます。あなたにはその権利があります」


「…………」


俺は何も言えなかった。覚えてないよ。一年前の事なんて。あの頃は父さんの教えで、爺さんの所に行って武術ばかり習っていたから。若菜にはテニスを真面目にやらないと言って怒られたけど。


「神城さん、いきなり色々な事を言ってしまい申し訳ありません。またゆっくりとお話しましょう」

「…………」

「綺麗な公園ですね」

「ああ」


まいったなあ。全然覚えていないよ。


「あの、もし宜しければ、私の両親と会って頂けませんか」

「えっ、それはちょっと」

重い重すぎる。


「済みません。いきなりですよね。ゆっくりとでいいです。私の事を好きになって下さい。下坂さんにも東条さんにも神城さんを譲る気はありません」


「早瀬さん、気持ちをはっきり言ってくれたのは嬉しいです。でも今は、まだその好きとかそういう気持ちは無いんです。友達なら良いんですけど」


「もちろんです。必ず私に振向かせます。だから一生懸命努力します。神城さんが私を好きになってくれるように」

「手加減お願いします」


「ふふふっ、それはだめです。下坂さんはもう手加減しないと思いますよ。昨日で彼女の気持ち分かったのでしょう」

「えっ、何で知っているの」

「ふふふっ、やっぱり。昨日下坂さんとデートすると言っていましたから多分そうなると思いました。彼女の目の前には私と東条さんというライバルがいますから」


「えーっ、かまかけたの?」

「さあ、どうでしょう」



 俺達は暖かい陽の光を浴びながらもう少しの間話してから別れた。


家に戻ると今日も今日とて自分の部屋のベッドに腰を掛けて手で頭を抱えた。


どうなっているんだ。勉強も普通、顔も普通、身長だって普通。運動だって普通。あれを除けば。でもあれは運動じゃないし。


 なんで俺なんか。若菜だってとても可愛いんだ。何回も告白されているのに。早瀬さんだってあれほどの美人だ。俺でなくったって。

 優里奈は分からなくはないけど。…………。


俺はまだ高校に入ったばかりだ。誰にも拘束は受けたくない。もっと楽しみたいんだ。良太に相談してみるか。でもどうやって。


はぁ、どうすればいいんだよ。


「お兄ちゃん、お母さんがご飯だって。はっ、どうしたの?悩みに悩んでいる顔しているよ。相談乗ろうか」

「ありがと。でもいいよ。俺が考える事だから」

「そう、じゃあ早く降りて来てね」


 明日は財布の軽いし、一人で居よう。


―――――

第7回カクヨムコン応募中。アクセスご評価頂けると大変ありがたく思います。


な、なんとこういう事だったんですね。早瀬さんの雫への思いの源は!

雫の休みも後二日ですが、果たして一人で静かにしていられるのかな?


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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