第16話 幼馴染は手を緩めない


GWも終わり開けて月曜日。心と体の連休のつもりが、心の重さだけが重なった連休だった。

今日もいつもの様に玄関に行き靴を履き始めると


ピンポーン


こんな早く誰だ。インターフォンのカメラで見ると、えっ、若菜。靴そのままに玄関を開けると

「雫おはよう」

「ああ、おはよう若菜。早いな」

「うん、今日から雫とこうして家から行く事にしたの」

「えっ」

「いけない?」

「い、いやいいけど」


うーん、早瀬さんの言葉が蘇って来た。『下坂さんはもう手加減しないと思いますよ』

重い。直ぐに靴を履くと若菜と一緒に家を出た。


「ふふっ、こうして一緒に家を出るなんて、一緒に住んでいるみたいね」

「若菜が迎えに来ただけじゃないか」

「いいじゃない。ねえ、手を繋いでいい」

「いや、それは駄目」

「何でよ。私もう告白したんだからいいでしょ」

「いやそういう意味じゃなくて……。とにかくもう少し待って」

「じゃあ、いずれは手を繋いで一緒に登校できるのよね」

「…………」聞こえない振りをした。


高校の最寄りの駅に着き改札を出ると

「おはようございます。神城さん、下坂さん」

「おはようございます。早瀬さん。どうしたんですか。こんな所で」

「神城さんを待っていたんです。一緒に登校しようと思って」


若菜の方を見ると不機嫌な顔で明後日の方向を見ている。

「ここは他の方の邪魔になりますので行きましょう」

「あ、ああ」


結局右に若菜、左に早瀬さんといういつかの下校時同じような雰囲気になった。

学校に近付くにつれて同じ学校の生徒の視線が集まって来る。

 当たり前だ。学年一の美少女早瀬真理香とそれを争う幼馴染下坂若菜が両隣で歩いているんだ。

 男子生徒の視線が痛い。


校門を過ぎ下駄箱に来た所でやっと三人が別々になる。俺はサッと履き替えて…………


二人は既に履き替えて待っていた。結局若菜とはクラスが違う為途中で別れたが早瀬さんとはそのままクラスに入った。

思い切り注目されている。


「「どう言う事」」

「えっ、早瀬さん神城君と付き合っているの」


早瀬さんは自分の席に俺も自分の席に着くと斜め前の良太が


「雫、朝から目立ってたな。改札から美女二人を引き連れて登校だもんな」

こいつ完全に目が笑っている。俺がどういう状況か知っているくせに。


「良太。変わってもいいぞ」

「遠慮しとく。俺は後ろから刺されたくない」

「人の事だと思って」


「川平さん。神城さんは私が守ります。後ろから刺されることは有りません」

「あっ、早瀬さん。じょ、冗談です。雫後でな」

「あっ、おい良太」

サッと前を向かれてしまった。


 勉強は好きではないが、最近は午前中の授業だけはゆっくりと進んで欲しい気がする。でもそんな時は早いものであっという間に終わってしまう。


 今日も早瀬さんと若菜が、ススッと俺の席に近くにやって来た。若菜はもう俺の席の隣にいる。

「良太一緒に食べようぜ」

「悪いな。クラブの連中と一緒だ」

 あの野郎。親友を見捨てるのか。


「神城さん、今日は私のお弁当です。食べて下さい」

「ありがとうございます。でも二人共お弁当作るのは今日までにして」

「えっ、なんで?!」

「なんで、ですか?!」


「うん、昼は三か所の花壇に水やりをしないといけないから購買でパンと買って、昼食はサッと終わらせたいんだ」

「「…………」」

「だから一緒に食べるのも今日までという事で」

「パンは何処で食べるんですか。その時だけでも一緒に食べれませんか」

うっ、突っ込んでくるな。


「いや、悪いよ。落着かないだろうし」

「「…………」」


 俺は早瀬さんが作ってくれたお弁当を食べ終わるとお礼を言って校舎裏の花壇に行った。


優里奈が先に始めている。

「優里奈遅れて悪い」

「ふふっ雫、名前で呼んでくれるのね嬉しいわ」

 しまった。昨日の今日で、つい気が緩んでいた。


「東条さん、他の二つをやって来る」


 俺は小屋からジョーロを手に持つと校門の両側にある花壇に向かった。蛇口は花壇の側に有るはずだ。


 水を撒いていると珍しいのか、偶に通る人がジロジロと見ている。少し気恥ずかしかったが、仕方なくせっせと終わらせ、小屋へ帰ろうとした矢先、東条さんがこちらに近付いて来た。


「あ、もう水を撒いてしまいましたか」

「いけなかったか」

「いえ。水撒きをする前に草取りをしたかったものですから」

「草取り?」

「はい、一ヶ月に一度は花壇の中にある草を取ってあげないといけません。後、枯れた花とか病気がちな花を見て対応する必要が有ります、まあ明日しましょう」


 そんなに色々するんだ。桃神先生簡単に水やるだけよなんて言っていたのに。甘かった。


東条さんと小屋にジョーロを仕舞い、教室に戻ると早瀬さんが近づいて来た。


「神城さん、私も明日から水撒きをお手伝いします」

「えっ、悪いからいいよ」


 不味い、水撒きは週二回あげればいい。後は、一人で昼を取りたかったんだ。チラッと東条さんの方を見ると、何となく笑っている感じがする。

 どうしよう。




―――――

第7回カクヨムコン応募中。アクセスご評価頂けると大変ありがたく思います。


まさに連休疲れ?の雫。そこに早瀬さんの水やりお手伝い宣言。雫が気を休める日はまだ先のようです。

そして、もうすぐ中間テストです。どうなる事やら。


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

 

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