第36話 爺ちゃんの所に行く 道場で体慣らし


 母屋の案内が終わった後、少し早いが昼食を取ることにした。玄関の上り土間の横にある食事処だ。


 女の子達は着替えた後、玄関の上りに来て貰った。何故か三人共お揃いのジーンズに長袖のワークシャツを腕まくりしている。


「なんか三人共一緒だね」

「うん、昨日雫からここに来る事教えて貰った後、三人で急いで買いに行ったんだ。別々に選ぶの面倒だから一緒にしようってことで」

「雫、どうこの格好。あまり着た事無いから」

「優里奈。全然似合っているよ」

「雫さん、私は」

「うん、真理香も似合っている」

 ふふっ、さんついていない。


「皆、少し早いけど昼食にしよう。それから少しこの周りを散歩してから事務所と道場に行く」

「「「分かりました」」」



 食事処では既に四人分の膳が用意されていた。山の幸を使った料理だ。膳の上には、川魚の煮物、山菜の天ぷら、山菜のお浸し、漬物が乗っていた。ご飯とお味噌汁は、横のジャーと保温器に入れられている。


「雫、私達何かお手伝いしなくていいのかな」

「若菜、大丈夫だよ。ここは建物の管理、食事や洗濯は全部爺ちゃんの会社の人がやってくれる。後で事務所に挨拶に行っておこう」

「分かった」


 一週間前に海の幸をお腹一杯食べた後だけに、今度は山の幸というのはちょっと贅沢な気分だ。


若菜が食べながら聞いて来た。

「さっき、亀石さんが道場には百二十名いるって言っていたけど、その人達は何処に寝泊まりしているの?」

「道場脇に宿泊施設があるんだ。そこで炊事、洗濯、掃除全て自分達でやる事になっている」

「自分達で?」

「そう、心身の鍛錬は武術だけじゃないから」

「へーっ、雫もそうしてたの」

「俺は、爺ちゃんの孫だからここで寝泊まりしていた」

「そうなんだ」


 俺達は食事後、散歩の前に事務所に挨拶に行った。事務所だけでも二百坪の土地に三階建て建物。屋根の上にはアンテナがいくつか立っている。


 俺はドアを開けると入って奥の方に座っているさっき駅まで迎えに来てくれた塚原さんに声を掛けた。


「塚原さん、三人に事務所案内したいんだけど」

「雫様、分かりました。私が案内しましょう」

「済みません」

「いえ、大切な事ですから」

 三人を手招きして呼ぶと


「今から事務所内を案内してもらうから。塚原さんお願いします」

「分かりました。まずここですが、約八十名の事務員が働いています。総務や経理、人事などの担当者です。他に国内事務所や国外にある拠点との連絡です。ここは見てもつまらないですね。二階に行きましょう」


入口まで戻ると階段を上がった。

「ここは大会議室が一つ、中会議室が二つ、小会議室が三つ有り、来訪者との会議や社内会議に使います。中には全て八十インチディスプレイが設置されておりまして、二十四時間各事務所、拠点と繋ぐことが出来ます。次行きましょう」


また、階段を上がった。

「三階はサーバールームです。入る事は出来ませんが、我が社の色々な情報の中枢です。ご質問有りますか?」


「「「…………」」」


 凄い、単純に事務所だと思っていたけど、情報ビルだわ。真理香曰く

 雫の事知っているつもりだったけど、お爺様の所は、全然知らなかったわ。若菜曰く

 我が家と同じ感じ。でも凄い。優里奈曰く


「塚原さん、ありがとう」

「雫様、礼には及びません。お嬢様達、何か分からない事あればこの塚原に遠慮なく聞いて下さい」

「「「ありがとうございます」」」


「じゃあ、みんな、事務所はこれで終わりにして、散歩に行こうか」

「「「はい」」」


 俺はこの後、母屋と建物の周りを一通り案内した。山と川。それに畑と田んぼしかないけど三人は興味深そうに見ていた。


「雫、これじゃあ、夜になったら真っ暗ね」

「若菜、大丈夫だよ。歩道には照明がつく様になっているからそんなに暗くない」


「雫さん、ここにはいくつの時から来ているんですか」

「うーん、最初は父さんに連れられてだから四才位かな」


「雫、お母様も武術なさるの」

「爺ちゃんの子供だからね。多少は出来るよ。護身ぐらいには」

「そうなの。日本風の美しいお母様という感じでとてもそんな風に見えないわ」

「はははっ、小さい頃怒ると怖かったよ。今は怒らないけど」


「じゃあ、お父様も」

「父さんは、こういうのは苦手みたい。父さんの頭は仕事だけだからね。そろそろ道場に行こうか。詰まらないかも知れないけどちょっと我慢して見てて」

「うん」

「はい」

「分かったわ」


 俺は、道場の端にあるガラス張りの休憩室に三人を案内すると、着替える為に更衣室に行った。


「あれ、雫、青い胴着来ている。帯が黒色よ」

「わーっ、やっぱり雫さんかっこいいですわ」

「ふふっ、雫だもの」


 俺は、準備運動の後、亀石さんと軽く受け身や打ち込みの練習をした後、組手をする事にした。

「師範代、二名から参りますか」

「そうだね、軽く流そう」


「おい、そこの二人。師範代と稽古だ」

「えっ、二人だけですか」

「そうだ。防具は付けていいぞ」


 もう一対一はしない。相手にならないからだ。二人同時に掛かって貰う。間を取り構えた後、スッと間を詰め、右ひじで右に居る男の脇腹を打つと左足を軸にして右後ろ回し蹴りで左隣の男を蹴った。

 二人が一瞬ひるんだすきに正拳の二連打を二人に打ち、それで終わり。五秒と掛かっていない。


「師範代、見事です。次、そこの三人」

「亀石さん。三人になると加減が難しくなるよ」

「構いません。防具を付けさせます」


 今度は三人と対峙。右の男に一気に間を詰めて蹴りを入れて倒した後、その回転で真ん中の男の首後ろに蹴り入れた。

 三人目は流石に後ろに下がったので間合いができた。一瞬で男の頭の上に飛ぶとそのまま膝で顔面を蹴った。十秒も掛かっていない。


「雫って、あんな人間なの」

「雫さん、凄いです」

「ふふっ、雫はあんなものではないわ。まだ手を抜いているわ」

「「手を抜いている」」



「流石です。師範代」

「亀石さん、一対一でやる」

「滅相もありません。まだ死にたくないですから」

「じゃあ、四分の一位で」

「駄目です。師範代の正拳は飛び掛かる猪のあばらを折って心臓を止めるほどの力が有ります。四分の一でも恐ろしいです」

「いや、あの時はちょっと」



「では、棒術に変えましょう」

「そうだね」



「雫、オリンピック出たら優勝出来るんじゃない」

「下坂さん、それは出来ないわ」

「東条さん、なに知った振りして」

「雫はIOCから危険人物とみなされているの。犯罪ではないわよ。強すぎて出場を断られたの」

「「えーっ!!」」

「何でそんなこと知っているの?」

「それは秘密です」


 それにしても雫の組手を始めて見たけど、こんなに強いなんて。お父様、なんていうかしら。楽しみだわ。



 俺達は、道場から帰った後、ゆっくりとお風呂に入り夕食を迎えた。爺ちゃんと一緒だ。


「雫、道場ではどうだった。明日の山歩きに体慣らしにはなったか」

「うーん、少しだけ。やっぱり山歩きの方が鍛錬になるよ」

「そうか、そうか。亀石が驚いていたぞ。普段練習もしない師範代がなぜあんなに強さを維持できるのかと」

「さあ、俺も知らないけど」


「お爺様、雫が私を暴漢から救ってくれた時も一瞬でした。相手は三人だったんですけど」

「ふふふっ、東条優里奈さんかな。雫は一般人相手では十分の一も力を出しておらんよ。真面目にやったら死んでしまうからのう」

「爺ちゃん、言わなくていいから!」


「そうか?、いずれお前に連添う女性達だろう。少しは知って貰った方が良いのではないか」

「まだいいから。その話も」


 これはチャンスね。お爺様にもアピールした方がよいかも。 若菜曰く

 ここはお爺様にしっかりと私を覚えて貰わないといけないですわ。 真理香曰く

 雫の強さは知っている。お爺様に私も知って貰わないと。 優里奈曰く



 これは明日が楽しみじゃ。このお嬢さん達、雫を見てどう思うかのう?


―――――

第7回カクヨムコン応募中。アクセスご評価頂けると大変ありがたく思います。


またまた、明日も何か楽しそうな、怖そうな?


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

  

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