第37話 爺ちゃんの所に行く 山歩きは楽しい?


 鳥の鳴き声が聞こえる。うーん。久々に動いたおかげで少しだけ体のあちこちが痛い。まあ午前中には消えるだろうけど。

 体を起こして、スマホで時間を見るとまだ六時半。でも起きるか。


 洗面所に行くと三人共起きて顔を洗っている。

「皆おはよう」

「「「…………」」」


「どうしたの。皆下を向いて」

「雫。見ないで。お化粧していない」

「雫さん。お願いします」

「雫。お願い」


「でも、三人共とても素敵だよ。そのままでいいよ」

「雫、そういう問題ではないの。女性のお化粧は一日を始める為の重要な準備なの」


「そうなの?でも俺そのままのが好きだけど」

「「「ほんと」」」


いきなりみんな顔を上げてきた。

「じゃあ、このままで良いのね」

「雫さん、宜しいのですか」

「雫、これでいい」


「良いって言っている。みんな可愛いよ」


何故か三人共顔を赤くして下を向いてしまった。分からん?



 俺達は、朝食の後少し散歩した。昨日はぐるっと回っただけなので、今日は川の方に来ている。山歩きは午後からだ。


「綺麗ですね。水が透き通って川底まで綺麗に見えます」

「この辺は工場とか生活排水がないから。山からの湧き水だけなんだ」

「へーっ、じゃあ飲めるの」

「それは止めた方がいいよ。お腹壊すから」


「雫さん、あそこにお魚が」

「ああ、あれはハヤという魚。昨日の夜、つくだ煮で出て来た奴だよ」

「そうなんですか。美味しそうに見えますね」

「早瀬さん、面白い事言いますね」

「東条さんはそう思いません?」

「少しは。でもあの岩に着いている緑の草の方も綺麗じゃない」


「優里奈、あれは川海苔。昨日の膳にやっぱりつくだ煮で出ていたよ」

「えっ、そうなの?」

「東条さんも同じですね」

「…………」


「ねえ雫、山歩きってどう言う事するの」

「山歩くだけだよ」

「でも、私達にガードを二人付けてって言ってたわよね」

「まあ、山には色々いるからね。用心の為さ」

「「「…………」」」




 俺達は昼飯を食べた後、山歩きの準備をした。一緒にいくのは、亀石さんと四人のリーダーだ。二人はアメリカ人とドイツ人だ。日本語は話せる。


 後、女の子達のガードにリーダーを二人付けて貰っている。ふたりには二メートル半の棍棒を持って貰う。


 三人共ジーンズにワークシャツと黒の運動靴だ。俺達は胴着と底の厚いたびを履いている。手には二メートル半の棍棒。


「雫様行きますか」

「行こう」


畑や田んぼの間を一キロ程歩いて山の麓に着く。


「若菜、優里奈、真理香。そこの二人の人の間を必ず歩いてね。勝手に横道にそれたりしないでね」

「分かった」

「分かりました」

「分かったわ」


亀石さんが俺の側に来て

「雫様、元気の良い方達ですね。山歩きしたいなんて」

「麓だけ歩いて貰うから。大丈夫だと思うけど」



「では、行きましょう」



 俺と亀石さんと四人のリーダーは、サッと山の中腹まで駆け上がると中腹を横に歩き出した。棍棒で下の草とか木から垂れ下がる蔦を避けながら歩く。


「さあ、私達も行きましょう。私達はこの麓の道を行くだけですから」

 

 前に男の人が棍棒を構えて持っている。何かいるのかしら。あっ、雫たちが走り出した。(若菜)

 

 凄い。雫さん、あっという間に向こうの方に行ってしまった。歩きにくそうなところなのに。(真理香)


「あの、雫たちは急に走り始めたけどどうしたんですか」

「獲物を見つけたようです。直ぐに分かります。さあ進みましょう」


 雫達が、山の中腹で何かしている。なんだろう。(優里奈)


 雫達のいる山の中腹では、


 ドドドッ、ボキッボキッ、ドドドッ。

 ドス。ガツ。ドサ。


「雫様、仕留めましたな」

「うん、少し手間取った。鈍ったかな」

「いえいえ、いつもながら凄いです。早速麓に降ろして来ましょう。お前達、下に持って行ってくれ」

「はい」


「あれ、なんか上から降りて来た」(若菜)


「仕留めたようですね」

「「「仕留めた?」」」


二人の男が棍棒にぶら下げて猪を持って来た。とても大きい。


「事務所に連絡して取りに来て貰ってくれ」

「分かりました」

「じゃあ、俺達はまた師範代の所に戻る」

あっという間に山を駆け上がって行った。


「あの、これって?」

「ああ、師範代が仕留めた猪です」

「雫が?」


「はい、師範代は素手で仕留めます。私も一度ご一緒しましたが、凄いものです。同じ人間とは思えない動きを師範代はします。道場でのあれは、師範代にとっては赤子とのお遊びですよ」

「「「えーっ」」」


 それから二時間程、私達は麓を歩いた。偶に蛇とか出て来たけど前を歩く男の人が簡単にどけてくれた。タヌキが私達をじっと見ていたりもする。


 この間に更に二匹の猪が、私達が通る道に置いてあった。死んでいるのか分からないけど外目血は出ていない。


 私達から二キロ程先に行った所で雫達は休んでいた。皆で笑っている。私が知る雫とはとても思えなかった。(若菜)



 雫さん達は、帰りも反対の山の中腹を走って行く様だ。私達は、来た道を戻って母屋に戻った。

 自分より年上の人達を率いる時のあの顔、立ち振る舞い、リーダーとしての資質だわ。やはり私の夫になる人は雫さんしかいない。早くお父様に会って貰いたい。(真理香)


 ふふっ、やはり雫は期待を裏切らないわ。中学の時、彼を初めて知った時、何か特別なものを感じた。雫は私の夫になるべき人。彼以外いない。早くお父様に合わせないと。(優里奈)



 俺達は母屋に帰って来て、爺ちゃんに今日の鍛錬の結果を見せた。


「ほほほっ、雫。一段と腕を上げたか。最初の一匹は苦労したようだが、後の三匹は一撃だな」

「爺ちゃん、まだまだだよ」

「雫様、早く教えてください。どの様に鍛錬すれば、このように強くなれるのか」

「亀石、これは真似が出来ない。雫は特別じゃからな」

「しかし、何かヒントでも」


「亀石さん、俺何も知らないよ。勝手に体が動くんだ」

「まさにそれを伝授頂きたい」

「亀石、鍛錬あるのみじゃ。雫これで麓の村の人達も喜ぶぞ。塚原これをいつもの様にな」

「ははっ、統帥。仰せの通りに」



「さてさて、如何じゃった。雫との山歩きは。楽しかったかな」

「お爺様。大変楽しかったです。ますます雫さんを好きになりました」

「早瀬さん、何を言っているの。私も楽しかったわ。雫は譲らないわ」

「ほほほっ、これはこれは」



「若菜、どうしたの」

「雫、いつもの雫じゃない。私怖い。いつもの雫が良い」

「若菜」

「ほほほっ、これはこれは」


「爺ちゃん、楽しまないでよ」

「いやいや、さすが我が孫じゃ。どのお嬢様達も雫にぴったりじゃ。早く曾孫が見たいものだ」

「「「はい!!!」」」


「へっ?!」


「はははっ、師範代のその顔初めて見ました」

「私もです。雫様の弱点ですな。はははっ」


 俺は顔を真っ赤にして二人を睨みつけた。



 イノシシ鍋は明日食べることになった。今からでは調理に間に合わないからだ。

しかし、今日は疲れた。体じゃないよ。精神的にだよ。皆の前であんなこと言われるなんて。

 どうなるの?


―――――

第7回カクヨムコン応募中。アクセスご評価頂けると大変ありがたく思います。


顔はフツメンでも体は超一流な雫。次回はどうなる事やら。


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

  

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