第35話 爺ちゃんの所に行く


 早瀬家の別荘から帰って来て五日が過ぎた。早瀬さん、いや真理香のお陰で楽しい時間を過ごす事が出来た。


 あれから優里奈と真理香には連絡を直接取っていない。若菜が色々教えてくれる。花音は塾の夏合宿とかで忙しそうだ。

 俺は、そろそろ爺ちゃんの所に行く準備をしないと。出来れば一人で行きたいものだ。


夕飯時に父さんが話しかけて来た。


「雫、爺さんの所はいつから行くんだ」

「ああ、明後日朝早く行くよ」

「そうか、雫が行ってから三日も経てばお盆に入る。俺も母さんと一緒に墓参りがてら顔を出す。実家に行くのも久々だからな」

「そうだね。墓参りの時は爺さんも俺も行くと思うから」


「ちょっと待って。お兄ちゃん。明後日から行くの?私、塾合宿終わっていないよ」

「花音は父さん達と来ればいいじゃないか」

「えーっ、でも三匹のお邪魔虫一緒に行くんでしょ」

「お邪魔虫?」

父さんの頭の上にクエスチョンマークが一杯並んでいる。


「そう、お兄ちゃんを私から奪おうとする悪の虫達だよ」

「花音、そういう言い方しては駄目だろう。海では皆にお世話になったんだから」

「でもーっ!」


「はははっ、花音はお兄ちゃん大好きだからな。まあ来年は受験だ。雫と同じ高校に入りたいならこの夏が勝負だぞ」

「分かっているけど」


 次の日、朝早く若菜がやって来た。


「雫、お爺様の所いつ行くの。あの二人からも何回も聞かれている」


 失敗した。今日から行っておけばよかった。でも若菜は場所知っているからな。

仕方ないか。


「明日からだよ。朝早く行く」

「えーっ、ちょ、ちょっと待ってよ。もっと早く教えてくれないと」

「そんな事言われても、聞いてこなかったし」

「もう、明日何時に行くの?」

「東京駅九時の電車」


「えーっ、分かった。分かった。待合せは何処に何時にする?」

「ここの駅八時で良いじゃないか」

「わ、分かったわ。確か三泊四日よね」

「うん、でもその後、父さん達がお盆で来るから実質四泊五日になる」

「えっ、おじさん達も」


 不味い、東条さんはともかく、早瀬さんは初対面のはず。ここでまたポイントを稼がれてしまう。もう、時間無いから仕方ないか。


「分かった。あの二人にも直ぐに連絡する」

「あっ、若菜。ちょっと待って。若菜知っていると思うけど短パンやスカートは行き帰りだけだよ。向こうに居る時はズボンと運動靴ね」

「うん、伝えておく」


 あーあっ、仕方ないのかな。どうにか自由にならないかな。



翌朝、最寄りの駅で三人と待合せた俺は、一緒に電車に乗った。

若菜は、短パンと水色のTシャツにオレンジ色のかかと付サンダル。

優里奈は、短パンと紺色のTシャツに赤色のかかと付サンダル。

真理香はピンクのTシャツと白のスキニーパンツに茶色のかかと付サンダル。

俺は黒のTシャツとジーンズに青色の運動靴だ。


「あの、みんな、分かっているよね。山の中だよ。その格好だと蚊とか蜂に刺されまくるよ。若菜、二人に伝えてくれた?」

「雫さん、大丈夫です。行き帰りは軽装でもう良いと聞いていますから」

「雫私も」

「それならいいんだけど」


 東京駅に行くまでの間、夏休みで通勤電車は少しすいているとはいえ、この時間はラッシュ時間だ。仕方なく、三人を女性専用車両に乗せて俺は隣の車両に乗った。

 あの三人の容姿ではどうなるか分からないという心配からだ。東京駅からは指定席なので問題ない。




 特急を降りて、普通電車に二駅乗ってそれから更に乗り換えて山の中に入っていく。終点で降りる。




「はーっ、何にもないわ」

「そうですね。コンビニもないです」

「家も無いですね」

「皆これから更に車で山の中だよ」

「「「えーっ」」」



「雫様、お久しぶりです。塚原です。総帥の言いつけでお迎えに参りました」

「あっ、塚原さん。お久しぶりです。済みません」

「「「えっ、雫様???」」」

「雫どう言う事」

「いや、どう言う事言われても」

「雫様、ご連絡の有ったお嬢様達ですね。お気に召せば良いのですが」

「どうかな?」

「「「…………」」」



車で走る事十五分、狭い山道を通ってやっと着いた。




 古いお屋敷の門の前にお爺さんと凄く強そうな男の人達が並んでいる。何このシチュエーション?早瀬さんも東条さんも目を丸くしている。



車が止まると塚原さんがドアを開けてくれた。

「爺ちゃん来たよ」

「おお、雫か久ぶりじゃのお」

「でも三月に来たじゃないか」

「もう四か月半も会っていないんだぞ。お爺ちゃんは寂しかった」


俺に抱き付きながら後ろに居る三人を見た。急に目つきが変わっている。


「そこのお嬢さん達が、雫の嫁候補か」

「いや、そうじゃな…………」

「「「はい」」」

「へっ?!」



「ほう、元気が良いのう。雫紹介してくれ」

「いいよ。一番右に居るのが早瀬真理香さん、クラスメイトです」

「早瀬真理香です。神城総一郎様には父がくれぐれも宜しくと申しておりました」

「早瀬?おう早瀬殿の所の一人娘さんか。こちらこそ宜しくと言っておいてくれ。中々の器量よしだな」


「爺ちゃん!真ん中の人がやはりクラスメイトで東条優里奈さん」

「東条優里奈です。父が宜しくと言っておりました」

「おう、東条殿の娘殿か。こちらこそ宜しくと言っておいてくれ。中々の器量よしだのう」


「爺ちゃん!そして左が幼馴染の下坂若菜さん。爺ちゃんが父さんの所に来た時に会っているでしょ」

「お爺様お久しぶりです」

「おう、あの時の元気のよい女子か。これまた器量よしだのう」


 あれ、早瀬さんと東条さん、爺ちゃん縁あったの?!


「総帥。私達も師範代にご挨拶をさせて下さい」

「「「師範代???」」」


「雫話しておらんのか」

「だって向こうの家じゃ関係ないし」



「師範代。お久しぶりです。今、百二十名の者がここで鍛錬をさせて頂いております。ここに来させたのは、国内と各国のリーダー達です」


姿勢を正して二十人位の男の人達が並んでいる。


「亀石さん、挨拶嬉しいのだけど、中じゃ駄目かな。ここじゃ、彼女達が暑いし」


「も、申し訳ございません」

「謝らなくていいから。中でね」


 なんか、学校の雫と全然違うんだけど。若菜曰く

 雫さん、凄いですわ。これだけでも早瀬産業を担う要素をお持ちです。真理香曰く

 ふふっ雫、これでお父様に会って頂ければ、何も問題ないわ。優里奈曰く



 俺達は暑い門の外から前庭を通り母屋の中座敷に通された後、亀石さんと他のリーダーから挨拶を受けた。三人はキョトンとしていたけど。

それが終わると爺ちゃんと俺と三人は奥座敷に通された。


「雫、お嬢さん達は、奥の三間で良いか。母屋の中と事務所それに道場を案内してやってくれ。それと皆にもな」

「うん、分かった」


「昼飯はまだだろう。一緒に食べるか」

「うーん、昼は俺と三人で食べるよ。後普通の食事ね」

「分かっておる。ところでだ。昼飯後に道場に顔を出すか。体が鈍っておるだろう。それとも山歩きからするか」

「そうだね。皆にも挨拶したいし。山歩きは明日にしようか」


「では、明日の夜は猪鍋だな」

「どうかなあ?」

「なあに、去年は大猪を三匹も倒したではないか。近所の人も畑が荒らされなくて助かると言っておる。遠慮なく山歩きしなさい」


「分かったけど。爺ちゃん頼みがある。どうせこの三人。山歩きと聞いてウォーキング位と思っているから、ガード二人付けてくれないかな」

「ほほほっ、そうじゃのう」


 山歩きって何? 若菜曰く

 雫が大猪倒した? 優里奈曰く

 イノシシ鍋? 真理香曰く



 この後、取敢えず母屋を案内してあげたけど、江戸時代の武家屋敷みたいなところだから三人とも目を丸くしていた。


 寝所として一人一間を用意したけど、広すぎて怖いという事で、三人で一間になった。寝る時は蚊帳を吊って貰わないと。


―――――

第7回カクヨムコン応募中。アクセスご評価頂けると大変ありがたく思います。


何か楽しそうな、怖そうな?


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

  

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