第34話 早瀬家の別荘 BBQと花火
俺の前にはBBQのセットが用意され、色々な食材が並んでいる。
鉄串に刺さった牛肉のブロック、ネギと鶏肉が交互に刺さったネギマ、骨付きラム肉、伊勢海老、アワビ、サザエ、紫ウニ、ナス、ピーマン、長ネギなどそれぞれの具材が皿に山盛りされて並んでいる。
岩場から帰った女の子達が二時間で用意した具材だ。飲み物もお茶系、柑橘系、炭酸系などが氷の入ったバケツにいっぱい入っている。
俺はというと結局何もしていない。
俺が取った伊勢海老は皆で食べるには小さいのでスープのベースとなった。サザエと紫ウニが具材になっている。
「さあ、用意出来ました。焼き始めましょう」
BBQの機材はガスと備長炭の二つが用意されている。肉系はやはり備長炭が一番だ。炭は火を起こしにくい。ここだけは俺の出番が有った。
「雫さん凄いですね。こんな事も出来るのですか」
「去年まで毎年爺ちゃんのところでやっていたからね」
「そうですか。お爺様の所に行くのも楽しみになって来ました」
「いや、あそこは…………まあ、いいです」
「皆さん、頂きましょうか」
「「「「頂きまーす」」」」
最初は海の幸から頂く、いい匂いがして堪らない。
食べては焼き、焼いては食べるという行為を五人でワイワイ言いながら食べていると早瀬さんが側に来て
「雫さん、お願いがあります。皆さんも聞いて下さい」
「なに?」
「妹さんは花音、下坂さんは若菜、東条さんは優里奈と名前呼んでいるのに、私だけ早瀬さんです。これは不公平ではないでしょうか。私も真理香と呼んで下さい」
「えっ、急に言われても」
「雫、良いんじゃない。名前呼びはちょっと気になるけど、確かに早瀬さんだけ苗字読みはおかしいよね」
まさか、下坂さんが応援してくれるとは思わなかった。私が名前呼びされるのは彼女にとってはマイナスはずなのに。
「お兄ちゃん、いいじゃない。若菜お姉ちゃん、優里奈さんなのに早瀬さんだけ苗字読みはおかしいよ」
えっ、妹さんまで。どうなっているのかしら。
「雫、私もそう思うよ」
東条さんまで。
「でも早瀬さん、これで雫に一歩近づいたとは思わないでね。あくまで雫に対してはフェアで居たいから。あなただけ苗字読みだと逆に特別扱いしているように感じるから名前呼びにして言っているだけだから」
なるほどそういう事でしたか。理由はともかく、私にとっては嬉しい事。
「皆さんもこう言っています。名前呼びして下さい。真理香って」
「い、いや急に言われても。何事も急がずゆっくりで」
「駄目です。今言ってみてください」
「うっ、真、真理香さん」
「さん付けないで下さい」
「いや取敢えずこんな所からで」
いったいなんでこうなるんだ。花音も若菜も優里奈もどうしたんだ。
「ふふふっ、いいですよ。取敢えず」
俺達はお腹いっぱいになると
「早瀬さん、花火とかしたいけど、無いよね」
「下坂さん、もちろん用意してあります」
「花火だけは小屋に入れて置く訳には行かないので、別荘の中に湿気取りと一緒に入っています。今持ってきますね」
「うわあ、嬉しいな。流石早瀬さんだ」
「東条さん、任せて下さい」
この休みで女の子達四人が随分仲良くなった気がする。俺にとっては良い事だけど。
オープンデッキの脇から浜辺に降りられる。俺達は真理香の持って来た花火を持って浜辺に降りた。
「雫さん、最初はこの打ち上げ花火で行きましょう」
「分かった」
直径五センチ位ある長さ三十センチ位の花火をしっかりと砂浜に立てると導火線に火をつけた。
ヒュルヒュルヒュルヒュル。パーン!!
夜空に高く火の玉が上がって行くと見事に大きな大輪が花開いた。
「「「「「おおーっ」」」」」
「凄ーい。お兄ちゃん、もう一回やって」
ヒュルヒュルヒュルヒュル。パーン!!
「「「「「おおーっ」」」」」
「次はこちらもやりましょう」
風除けされたロウソクの火で順番に花火に火をつける。
パチパチパチ、シュルシュルシュル。シャーッ。
色々な音を立てながら色とりどりの光が皆を照らしている。綺麗だ。
皆と少し離れて波打ち際に来ると人口の光の無い中で満天の星が輝いている。
爺ちゃんのとこの空と同じだな。天の川がはっきり見えている。
ボウとしながら空を見ていると波が打つ度に横一線に光るものがある。夜光虫だ。綺麗だな。
「お兄ちゃん。何見ているの」
「花音、海の中見てごらん。波が割れる直前に光るから」
「あっ、本当だ。有れなあに?」
「夜光虫ってやつ。夜しか見えないよ」
「ふーん」
「へーっ、雫良く知っているね」
いつの間にか若菜も側に来ていた。優里奈も真理香もいる。みんなで星空も見た。
「明日もう帰るのか」
「花音仕方ないよ。短いから楽しさも一杯なんだ」
「雫、随分知ったこと言うのね」
「雫は昔からそうよ」
「そうなんですか」
優里奈、若菜、真理香と話しかけて来た。
少しの時間、静粛が訪れる。
「そろそろ、片付けて寝ないか。今日は結構疲れた」
「そうですね。雫さん、潜水もしましたし」
俺は、今の様な状況は苦手だ。一人なら最高なんだけど。
部屋に戻った俺は、お風呂場でシャワーを浴びた後、冷蔵庫から炭酸飲料を出して、頭を拭きながら海を見た。遠くに漁火が見える。
若菜、俺の幼馴染。守る事、大切にする事だけを考えていた。そういう意味ではとても大好きで大切な人(女性)だ。でも告白された。だが俺には若菜に対して恋愛感情は無い。俺は若菜を女性として好きになれるのだろうか。
真理香。まさか爺ちゃんのとこに行く時に駅で救った女の子だとは。今では何となく思い出す。でもあの時はもっと髪の毛も短くて、イメージが違った。だから会った時、分からなかったんだ。女性としてはとても魅力あると思う。でも彼女を好きになれるのか。
優里奈。言い方悪いが体の関係だけは戻ってしまった。女性として見ている目も他の二人よりある。俺には優しくて申し分ないだろう。でも前の様な感情までは湧かなくなっている。
どうすればいいんだ。いっそあの三人から離れてしまえば…………。出来る訳ないか。
ガチャ。
ドアは鍵が締まっている。音の方を振り返ると真理香の部屋の壁の一部がドアの様に開いた。
「えっ!真理香さん。どうやって」
「ふふっ、ツインの部屋はコネクティングルームになっているのです。このドアはどちらからも開きます」
「でも、どうしていきなり」
真理香はパジャマを着ていた。こういう所は大体ジャージか普段着の軽装が寝る姿なのに。
彼女がゆっくりと近づいて来た。俺の側に来ると顔を上げてじっと見ると
「私の全てを差し上げます」
「…………」
彼女が俺の背中に手を回して来た。いきなりの事で驚いていると、目を閉じて顔を近づけて来た。
俺はゆっくりと真理香の両肩に手を置くと彼女の顔を見た。整った顔。目は大きく二重瞼。鼻はスッとして高く、唇は可愛く申し分が無かった。
ここで俺が彼女に手を出せば、色々な意味で色々な事がはっきりするだろう。
でも…………。俺には出来ない。俺は怖いんだ。この後の事が。
「雫さん?」
真理香が目を開けた。
今度は背伸びして俺の唇に自分の唇を当てて来た。少しの間そうしていると自分から離れて
「分かっています。迷いますよね。でも私はあなたを一人の男性として愛しています。お願いします。最後には私を選んで下さい」
じっと俺の目を見つめた。そしてもう一度強く俺を抱きしめると、入って来たドアから出て行った。そして鍵を閉める音がした。
「……………………」
―――――
第7回カクヨムコン応募中。アクセスご評価頂けると大変ありがたく思います。
これは、また…………。
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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