第83話 柚原紗友里


 紗友里が俺の家に帰って?来た。


「ただいま」

「ただいま」


ダダダッ。


「お兄ちゃんお帰り、えっ?」

「花音ちゃんでしたっけ。ただいま」

「ただいまって。どういう事?」


 あっ、母さんが来た。

「いらっしゃい紗友里ちゃん、上がって。雫も早く上がりなさい」

「はい」


 紗友里はそのままリビングに、俺は自分の部屋で着替えると手洗いとうがいをしてリビングに行った。あれっ、父さんがいる。


「どうしたの父さん、仕事は?」

「ああ、今日は紗友里ちゃんの手続きでね。会社休んだんだ」

「父さん、順番で話してくれない。紗友里が何で我が家に来ているのか?」

「そうだな、では順番で」


 ソファに父さんと母さんが座っている。反対側に紗友里と花音が俺を挟んで座っている。


「実はな、お盆の時、お義父さんの所に行っただろ。あの時頼まれたんだ。紗友里ちゃんを奈良から大竹高校に転校させるから面倒見て欲しいと」


 だからあの時爺ちゃんと父さんが奥の間に二人で行ったんだ。


「紗友里さんが転校と言っても向こうの学校の手続きやらこちらの手続きや編入試験とか色々有るが、肝心なのは住まいだ。

 まだ十七の女の子が知らない街で一人暮らすのは難しい。そこで当分の間、紗友里ちゃんを我が家に住ます事にしたんだ」


「「えーっ!!」」

花音と一緒に声を上げてしまった。


「いやいや、いきなり紗友里が我が家で一緒と言われても」

「雫様、私はお嫌なのですか?」

ちょっと寂しそうな顔をしている。


「そんな事ないけど、いきなりなんて」

「そうだよ。母さんも父さんももう少し早く教えてくれたら心の準備が出来たのに」

「それは悪かった。手続きやら何やらで忙しくてな」


 絶対嘘だ。いくらでもいうチャンスが有ったんだから。でもなんで?


「ふふっ雫様、サプライズをお願いしたのは私です。雫様の驚くお顔が見たかったので。すみません」

「ねえ、紗友里お姉ちゃん。その雫様ってどうにかならないの。他の子達は雫って呼んでいるよ」


「し、雫ですか。それは…………」

「花音、いきなり呼び名を変えるのは難しい。ゆっくりでいいじゃないか。雫もそれでいいだろう」


「まあ学校だけでも様付けは止めて欲しい。せめてさん付けとか」

「雫さん、ですか」

「それでいいよ」


「しかし、雫様と思って十七年も生きて来たのです。いきなり雫さんとは、まして呼び捨てなど滅相もありません」

「そうは言っても……。困ったな」


「お母さん、困ったと言えば紗友里お姉ちゃんの部屋どうするの?」

「二階の一番奥に客室が有るでしょ。そこを使って貰う事にしている。荷物はもう届くはずよ」

 つまり二階は、俺、花音、紗友里で使う事になる。大丈夫かな。


 それから三十分もしない内に紗友里の荷物が送られてきた。


 皆で届いた荷物を紗友里の部屋に入れ終わると、後は紗友里と花音と母さんに任せた。流石に男達は女の子の荷物の開梱を手伝う訳にはいかない。


一通り片付くと父さんが今日は寿司を頼んである。紗友里ちゃんの引っ越し祝いだと言った。

「やったあ」

 花音が思い切り喜んでいる。



 夕飯にみんなが座る。四人人掛けのテーブルだけど父さんがお誕生日席に行く事で問題なく座れた。


 食事前に紗友里が

「雫のお父様、お母様、花音ちゃんこれから宜しくお願いします。

 雫様、宜しくお願いします。妻として恥じない様に家事もお母様に教えて頂くつもりです」


「ふふっ、楽しみだわ。紗友里ちゃん宜しくね。でもライバルも多いわよ。頑張りなさい」

「はい、あの方達に雫様の隣は譲りません」


「紗友里お姉ちゃん、私がお兄ちゃんのお嫁さん候補ナンバーワンだって事忘れないでよね」

「はい、分かっております。花音ちゃん」




 次の朝、俺達は登校する為に家を出た。昨日の内に面倒が起きない様に登校時の約束事を教えてある。

 始めは拒否したが、俺が守らないと一緒に登校できないと言って、渋々納得して貰った。


「「「いってきまーす」」」

「行ってらっしゃい」

母さんが嬉しそうな顔をしている。


「雫様、嬉しいです。これから一年半ずっと側に居れます」

「ああ」

「雫様は、私が隣にいる事が嬉しくないのですか」

「いやそんな事ないけど」



そんな事を話している内に若菜が家から出て来た。

「雫おはよ」

「おはよ若菜」

「おはようございます若菜さん」

「おはよ紗友里さん」


 うっ、早くも火花が見える。そして信号でまどかが合流した。こちらも激しい目線の応酬だ。


 やがて学校のある駅に着くと若菜と優里奈が待っていた。先ほどの光景が繰り広げられている。


 結局俺の後ろには、花音と若菜、真理香と優里奈、まどかと紗友里という順で並ぶことになった。俺とは一応二メートルは離れて貰っている。


 学校が近づくにつれ視線をはっきりと感じる。男子からの妬みと嫉妬の視線、女子からは驚きと物珍しさの視線だ。登校方法変えようかな。


 花音とは下駄箱で別れた。やがて俺達の下駄箱に行くと

「雫様、私の下駄箱にこんなものが」


 メモが入っていた。当然あれだ。しかし、二日目で告白する奴がいるのか?


「これ紗友里への手紙だから、好きにすればいいよ」

「分かりました」

いきなり目の前で破りゴミ箱の中に捨てた。


 あれれっ、可哀そう。でも無理だから仕方ない。


 教室にみんなで入ると

「おっ、来た。神城大名行列」

「でも羨ましいぜ」

「いや、俺は下坂さんだけでいいんだけど」

「俺は早瀬さん」

「いやいや、やっぱり東条さんでしょう」

「でも聞いたぜ。柚原さん転入試験ほぼ満点だって」

「「「ええーっ!」」」


男子達凄い話をしているな。



 朝の喧騒が済み、午前中の授業が終わると

「雫、今日は水やりだから」

「うん」


「雫様、水やりとは?」

「俺、優里奈と一緒に文芸部に入っているんだ。だから週に何回か花壇の水やりをする」

「それでは私もお手伝いします」

「紗友里、それは出来ないわ。私と雫の部活よ」

「では、文芸部に入れば宜しいのですか」

「それは、そうだけど」

不味い、この女どこまで邪魔をする気だ。


昼食を食べ終わると

「雫行こう」

「私は、入部手続きをして来ます」


「私も部活変えようかな」

「「私も」」

まどかは女子バレー、若菜は数学、真理香は図書委員だ。



紗友里視点


 私は文芸部に入部する為、職員室に行くと取敢えず担任の先生の所に行った。何故か男性教師が私を驚いた顔で見ている。


「桃神先生、私文芸部に入りたいのですが、顧問の先生を教えて下さい」

「言ってなかったわね。私が文芸部顧問よ。嬉しいわ。柚原さんも入部してくれるなんて。さっ、ここにサインしてくれれば手続き完了よ。文芸部は美人揃いね」

「はい」


 ふふっ、これで雫様の側に居る時間が増える。でも優里奈が雫様と一緒のクラブとは!


 教えて貰った花壇に行く途中、男子が何か声を掛けて来たが、無視をした。


―――――


ますます混乱の中に。


次回をお楽しみに。


この作品と並行して下記の作品も投稿しています。読んで頂ければ幸いです。

「九条君は告白されたい。いや告白はあなたからして(旧題:告白はあなたから)」

https://kakuyomu.jp/works/16816927860661241074


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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