第40話 真理香のお誘い
俺は、午前十時より三十分前に真理香と約束したショッピングモールのある駅に着いた。
彼女はまだ来ていない様だ。
いつもの様に白のTシャツとコットンパンツで改札の向かいにあるビルの前で待っていると、程なくして彼女が現れた。
今日は淡いピンクの半そでのブラウスと薄い茶のスカートだ。薄茶のかかと付サンダルを履いている。
髪の毛を一つにまとめて背中に流している。大きな目がはっきりとしていつもながらの綺麗さを見せている。周りの人が横目で見るのも分かる様な気がする。
「雫さん、待ちました?」
「いや、さっき着いたところ。まだ二十分前だよ。真理香も早いよね」
「いえ、お会いするのをこちらからお願いしたので、待たせては申し訳ないと思いまして」
育ちが良いのか、お嬢様なのか。ご両親の教育が行き届いているのか。なんかこういう所も凄いな。
「雫さん、お茶でも飲みましょうか」
「いいですよ」
近くのティルームに入ってから、別荘の事やら、爺ちゃんの所の事等話していたら十一時半になってしまった。
「雫さん、もうすぐお昼ですが、今日は私の家で私が昼食をお出ししたいと思うのですが、如何でしょうか」
「えっ、いや悪いよ。近くで食べた方が簡単だよ」
「いえ、雫さんに昼食を作りたいのです。駄目ですか」
「駄目じゃないけど」
「では、行きましょう」
別荘に行った頃から真理香は凄く積極的になった様な気がする。前からそうだったっけ?
二つほど高校のある駅の方へ戻ったところが彼女の家のある駅。そこで降りると歩いて十分程で彼女の家に着いた。
「ここが私の家です。入りましょう」
「えっ!」
でかい、二メートルはある塀がここから見ても右と左に百メートル近くある。門の前には車止めがあり、門は開いていた。
玄関まで植木や園芸植物が綺麗に配置されていてその中を通る様に石畳が有る。
「どうしたのですか」
「いや、大きいなと思って」
「ふふっ、そんな事ありませんよ。雫さんのお爺様の家と比べたらミニチュアみたいなものです」
「あそこはだって」
「そんな事どうでもいいではありませんか。どうぞこちらへ」
真理香が入って行くと玄関らしきところからお手伝いさんらしい人が二人出て来てお辞儀をしている。
「お嬢様、お帰りなさいませ」
「はい」
彼女はズンズンと進んでいく。俺はついて行くだけ。玄関を取ると真直ぐに廊下が有った。
「雫さん、上がって下さい。遠慮しなくていいですよ。自分の家だと思って頂ければ良いのです」
「いやいやそうは」
「そんな事ありません。いずれここは雫さんのものです」
「えっ?!」
「今のは冗談です。今だけですけど」
なんか意味深だな。
通されたのはキッチン。
「ダイニングで一人で待って頂くの失礼なので、ここで少しお待ちください」
そう言うと彼女はテキパキと料理を作り始めた。具材はあらかじめ仕込んであった様だ。
十分もしない内に、ハンバーグと出汁巻たまご、野菜サラダと箸置きが出来た。
「済みません。これをトレイに乗せてダイニングまで一緒に持って行って下さい」
「そんな事簡単です」
ダイニングに行くと二人で食事を始めた。
「上手い。真理香の料理美味いね。別荘の時もそうだったけど、お母さんから習ったの?」
「はい、大体は。後はお手伝いさんからです」
「お手伝いさん?」
「先ほど玄関でお会いした二人です」
「あ、ああ」
なんか、やっぱり生活レベルが違う。
「そんなに気にしないで下さい。直ぐに慣れます」
「…………」
どう言う意味?
食事を終わらせてリビングで紅茶を飲みながら二人で寛いでいるといきなり男の人が現れた。俺より少し高い。
「真理香、その人が神城総一郎さんのお孫さんか」
「はい、お父様」
「初めまして。私は真理香の父、早瀬章夫と言います」
俺もサッと立って
「神城雫です。初めまして。真理香さんには大変お世話になっております」
「うん?真理香もう彼のお世話をしているのか?」
「お父様、違います。雫さんは社交辞令をおしゃったまでです」
「はははっ、すまん。冗談だ。ところで遅くなったが、真理香が中学時代、駅で暴漢に襲われそうになった所を助けた頂きありがとう。
学校でもお荷物を一瞬にして片付けたそうだな。それと娘から総一郎さんの所に行った時の話も聞いている。
道場で師範代だそうだね。並みいる門下生を秒単位で倒したとも聞いている。その上、大猪を一撃で倒すなど人間離れしているな。
君が娘の側に居れば大変安心できる。これからも娘の事宜しく頼む。真理香、私は今から二時間程出かけて来る。家には手伝い以外誰もいない。手伝いには言い聞かせてある。真理香しっかりな。では出かけて来る」
「はい、お父様」
何か意味深な言い様だな。
真理香のお父さんが出かけた後、
「雫さん、私の部屋に行きましょうか」
「えっ、うん」
二階に上がると可愛い飾りのあるドアがあった。
「ここです。お入りください」
凄い、広いな。大きなクローゼットが四つも並んでいる。ベッドは天幕付きだ。大きな机に本棚。ソファとテーブル。二十畳位ありそうだ。俺の部屋と全く違う。俺が驚いていると
「どうかしましたか」
「いや、広いなと思って」
「そうですか。小さい時からこうなので、もし雫さんが狭い方が良いとお思いなら部屋を小さくしますが」
「えっ?いや俺には関係ない事だよね」
「いいえ、これから関係します」
「どう言う事?」
「ソファに座りましょう」
何故か並んで座った。
「雫さん、別荘での事、申し訳ございません。改めて謝罪します。その上で聞いて頂けませんでしょうか」
「なに?」
真理香が俺の事をじっと見た。
「私は、雫さんの事を愛しています。でも東条さんは既に、そして下坂さんとも親密な関係になりましたよね。私は一人残されました」
「何でそれを」
「聞いて下さい。あの方達とはこれからも良いお友達で居ようと思っています。でも私だけが…………。何も要求しません。今回だけで良いんです」
ブラウスのボタンを外していく。
「ちょ、ちょっと真理香」
全て外してブラウスを脱いだ。そして後ろに手を回すと水色のブラがストンとソファの上に落ちた。まぶしい位の素敵な肌が露わになった。
若菜の時と同じじゃないか。どうして?!
「お願いします。一度だけでいいんです。お願いします」
そう言って俺に寄りかかって来た。俺は彼女の肩に手を掛けると
「駄目だよ、こんな事」
「何故ですか。東条さんにも下坂さんにもしてあげられる事が私には出来ないのですか。そんなに私は魅力の無い女なのですか。お願いします」
涙で目元が濡れている。
どうなっているんだ。でもこのままでは
「真理香、冷静になろう」
「私は冷静です」
「真理香、君はとても素敵な人だと思っている。でもまだ友達の気持ちでしかないんだ。君の大切なものを貰うなんて資格は今の俺には無いよ。それに若菜とはしていないよ」
俺の目をじっと見ている。
真理香の肩に置いてあった俺の手を持つとゆっくりと自分の胸に触らせた。
「っ!駄目だって…………」
俺の唇を強引に塞いできた。そのまま押し倒された。
……………………。
眠ってしまったようだ。隣には彼女がいる。何も身に着けていない。ただ、俺の背中に腕を置いている。何時なんだろう。
「雫さん」
「目が覚めたの?もう帰らないと」
「ふふっ、そうですね。泊まって欲しいというのは流石に無理なお願いですね」
「それは流石に」
二人で洋服を着て一階に降りるとまだ誰も居なかった。もう二時間は過ぎている。
「駅まで送ります」
そう言って、俺の腕に腕を回して来た。
「いいの?知っている人いるんじゃない」
「構いません」
私は彼を駅まで送った後、家に帰りお父様のお部屋に行った。
「お父様、ありがとうございました」
「そうか」
ふふっ、これで三人対等です。あの二人に負けてられません。でも若菜さんとはしていないと言っていましたね。でもそんな事はもうどうでも良いです。
お父様がお許しになるとはちょっと思わなかったです。相談はしてみるものですね。
―――――
第7回カクヨムコン応募中。アクセスご評価頂けると大変ありがたく思います。
雫の二学期がいよいよ始まります。楽しみですね。
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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