第39話 戻った日常と
爺ちゃんのところから戻って五日が経った。夏休みも後十日。夏休み前に言われていた早瀬さんから二人で会いたいとの連絡はない。
優里奈からも花壇の水やりの事については連絡があるが、個人的に会いたいという話はしていない。水やりの後は何もせず別れている。
聡明奏生徒会副会長からも後日連絡すると言っていたが、特にスマホには着信も無い。
俺にとっては、やっと訪れた平和な日常だ。自分の部屋で窓を開けて、ベッド上でゴロゴロしている。そうだ一人を除けばだ。もう午前十時そろそろ来るはず。
「雫、おはよう」
いきなり俺の部屋に入って来た。ノックぐらいしてくれ。
「インタフォーン鳴らなかったぞ」
「うん、玄関で花音ちゃんと会って入れて貰った」
そうか、花音、夏の後期集中とか言って塾に行くって言っていたからな。俺なんか放り投げてたけど。
若菜は、爺ちゃんの所から帰った翌日から昼前に来ては本を読んだりベッドで勝手に居眠りしたりして少し俺と話すと帰って行く。他の女の子達と会ったりしていないのだろうか。
今日も今日とて、本棚からマンガを取り出すとベッドに背中をあずけて読みだした。
「若菜、俺の所に来るのは構わないが、他の女の子とも遊ばないのか?」
「遊んでいるよ。雫の所に来た後、会ったりしている」
そういう事か。
「雫、ねえ今家の中二人だけだよね」
「そうだけど」
「私、午後から約束入っていないんだ」
「そうか」
「だからさ」
読んでいたマンガを床に置くとベッドでゴロゴロしている俺の上に跨いできた。じっと俺の顔を見ている。
サッとTシャツを脱いだ。可愛いピンクのブラが丸見えだ。
「若菜、何している!」
手を後ろに回すとブラのホックを外したようだ。ストンとブラが俺の上に落ちる。
「若菜。止めろ!」
そのまま俺に抱き着いて来た。耳元で
「雫、私ってそんなに魅力ないの。女として全く魅力ないの」
「…………」
意味は分かっているけど、出来る訳が無い。もししてしまえば彼女との今までの関係が壊れてしまう。
「雫は私を抱く事で今までの関係が壊れると思っているんでしょう。でもそんな事無いよ。こんな事いつも雫にお願いしない。
私だって思い切り恥ずかしいよ。でも東条さんも早瀬さんも居て不安なの。雫が私から離れていくことが不安なの。お願い一度でいいから。もうお願いしないから」
最後の方は涙声になっていた。
俺は、体の上に乗っている若菜をゆっくりと横にずらして今度は俺が若菜に体重を掛けない様にまたがると
「若菜、お前は女性としてとても魅力的だよ。俺だって男だ。若菜がそんなに悩んでこんな事してくれたんだからしたいよ」
「だったら」
俺はじっと若菜の顔を見ると
「だけどな。俺はお前の事が大好きで大切でずっと一生守って行かないといけない人だと思っている。だから一時の思いでお前の大切なものを貰う訳には行かないんだ」
「…………」
「若菜。待ってくれ。俺がお前にしたいと思うまで」
「雫、本当に本当に待っていたら私の大切なものを貰ってくれるの」
「若菜…………」
「雫、信じていいの。本当に信じていいのね」
「うん」
今はこう言うしかなかった。
「じゃあ、じゃあこのままでいいから私を思い切り抱きしめて」
「…………。分かったよ。でも俺の体重がお前に掛かってしまうから反対になろう」
若菜が俺の上に乗って来た。そしてそのまま俺を上に重なった。
「雫。このままにさせて」
「いいよ」
そう言って若菜の背中に手を回した。柔らかく絹の様に手触りが良かった。
ずっと、そのままにしているといつの間にか目を瞑っていた。仕方ないか。俺もそのまま目を瞑った。
胸に当たる柔らかい物がとても気になるが、若菜の体全体が乗っていると思うと複雑な気持ちだ。
二人共眠ってしまったようだ。目がゆっくりと覚めるとまだ若菜は俺の体の上で寝ていた。
「若菜、起きよ」
「うーん、あっ、寝ちゃった」
若菜が腕を立てて俺の顔をじっと見る。俺もじっと見ていると視線が少しだけ下がった。
少しそのままでいると
「どうしたの雫」
「若菜、綺麗だな」
「ばかー!」
思い切り胸を叩かれた。
「もう、見てるならしてよ」
「いやそれは」
俺の胸をドンドン叩き始めたので腕を押さえて止めると、若菜がベッドに落ちているブラをサッと取って後ろを向いた。胸にブラを当てると
「雫、ホック付けて」
「えっ!」
「してくれなかったから。この位いいでしょ」
「い、いや」
「して!」
仕方なくホックを止めた。生まれて初めてだ。若菜がこっち向くと
「ふふふっ、雫顔が真っ赤だよ」
「うるさい!」
若菜が、俺を強引に倒すとそのまま抱き着いて来た。
「もう少しこのままにさせて」
「…………」
どのくらいたったんだろう。また二人で寝てしまったようだ
「若菜、起きて」
「あっ、また寝ちゃったんだ。もう十二時だね。お昼作ろうか」
「作ってくれるの?」
「うちに来て。誰もいないから」
「分かった」
洋服を着て玄関に鍵を掛けると若菜の家に行った。と言ってもすぐ隣だけど。
手早くチャーハンと中華スープを作ってくれた。
「若菜の料理はいつも美味しいな」
「ふふっ、そうでしょう。休みの間、毎日作ってあげようか」
「いや、それは悪いよ」
「私は構わないわ。どうせ両方とも昼間は誰もいないんだし。花音ちゃんも塾でしょ」
「まっ、そうだけど。でも若菜だって都合あるだろう」
「無いよ。雫と会う以外は」
「…………そうなの?」
何となく嫌な予感。待つなんて言っていたけど。
「ふふっ、大丈夫よ。そうそうお願いはしないわ。今日は安全日だからしたかったのだけど。女性にはダメな時も有るんだからね。覚えておいて」
「えっ!」
なんか俺が若菜を襲う前提じゃないか。それはないよ。
「でも、したかったらいいよ。付けないといけないけど」
やばい、会話があっちへ流れている。
「若菜、そう言えば夏の宿題って、もうあれで良いんだっけ?」
「後は自由研究位じゃない」
「えっ、自由研究!ってなに??」
「もう、自分で課題を見つけてそれを調べるなり、考えるなりしてまとめるのよ」
「そんな事……難しいだけど」
「もう、じゃあ一緒にやろうか」
「済みません」
ふふっ、これで雫とずっと一緒に居れる。東条さんには負けないわ。早瀬さんからは一歩リードね。
この後、二人で少し遠いが川まで散歩した。若菜が腕を組んで来ている。もういいか。でも注意だけしないと。
「若菜、二人だけの時は腕を組むのは良いけど、他の人がいる時、家族でもだけど、絶対だめだからね」
「ふふっ、分かっている。でも今はいいでしょ。とても嬉しいんだ」
「そうか」
幸い、優里奈と会う事は無かった。川まで行って水面に移る景色を見ながら川べりを少し歩いてから帰った。
陽がだいぶ傾いている。
花音にもばれずに済んだようだが、何故か不機嫌な顔をしている。まあ気にしない様にしよう。
お風呂に入った後、ベッドでゴロゴロしているとスマホが震えた。画面を見ると真理香からだ。
「はい」
「雫さん、急だけど明日会えないかな?」
明日か、若菜には良太と会う事になったと言っておけばいいだろう。
「良いですよ」
「それでは、前に行ったショッピングモールのある駅に十時でいかがでしょうか」
「良いですよ」
「それでは、また明日」
俺は、直ぐに若菜に連絡を入れた。だいぶ文句を言っていたが、良太に文句を言うのは止めてくれと釘を刺しておいた。あいつとは会わないからな。
ふふっ、これで雫さんと…………。
―――――
第7回カクヨムコン応募中。アクセスご評価頂けると大変ありがたく思います。
ふーむ、なんとも。
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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