第61話 バレンタインデー
若菜のバレンタインチョコ
ふふっ、これで良いわ。雫には、もう何年もあげている。小学校の時はお母さんと一緒に作って、中学校の時は一人で作った。あいつの好みは十分分かっている。どんな形がいいかも。
今までは私だけが雫にチョコをあげていた。でも今年は早瀬さんや東条さんそれに琴平さんもいる。もしかしたら他の女の子も。
だから絶対雫が美味しいって言ってくれる味と形にした。ラッピングも好みにして。あいつは自分では分かっていないけどどんな入れ物に入れたら嬉しいかも知っている。
これであの三人や他の人と差をつけられる。明日が楽しみだな。
真理香のバレンタインチョコ
これで完璧だわ。難しい所はパティシエに手伝って貰ったけど、私の彼への思いは表せたはず。
下坂さんは、幼い時から雫さんにチョコをあげていたはず。好みも十分に分かっている。
東条さんはお付き合いがある分、彼の深い部分でも好みを知っているかもしれない。二人共強敵だけど負けないわ。
初めてあげる人が雫さんで良かった。私の大事なものも隠し味で入れたし。明日これを渡して食べて貰えば、あの二人より私を振り向いてくれるはず。
優里奈のバレンタインチョコ
雫の好みは分かっている。去年はあげれなかったけど、今年はあげれる。味は問題ない。形も彼好み。どんなラッピングが好きかだって分かる。
下坂さんは幼馴染。昔からあげていたに違いない。早瀬さんは、今年からだけど彼女には家を利用して有能はパティシエが指導するはず。
強敵だけどこの勝負譲る訳には行かないわ。それに私の大切な物も隠し味にしているし。
のんびりな雫
時間が経つのが遅く感じる一月も終わり、二月も半ばになった。二月まで来れば来月は三月。春の足音が聞こえてくる。何となくウキウキする季節が来る。
だがその前に世の中の一大イベントがある。
そうバレンタインデーだ。世の中の独身男性が心わくわくする日。去年までチョコを貰えたのは若菜だけ。今年も若菜はくれるだろうけど真理香と優里奈はどうかな。
俺も男だもの欲しいよね。
「雫おはよ」
「おはよ若菜」
いつもの様に俺が出る時間に若菜も家を出て来る。隣同士だから昔から一緒だ。
若菜からくれる気配がない。いつも朝くれるのに?何気ないいつもの会話だけ。あれっ若菜くれないのかな?
気が付くと学校のある駅について真理香と優里奈も合流した。でも誰も…………。まあ後からかな?
教室に近付くと早速賑やかな風景が有った。教室内で渡す者、廊下に出て渡す者。色々だ。俺が席に着くと
「神城君、おはよ。これ」
クラスの女の子が可愛くラッピングされたチョコをくれた。ツインテールの目がぱっちりした可愛い子。こんな子いたっけ?
「ありがとう」
嬉しそうな顔して自分の席に戻って行った。でもあの子名前なんて言うんだ?
チラッと見ると良太も徳山も女の子から受け取っている。まああの二人はモテるからな。
あっ真理香が来た。
「雫さん、手作りです。雫さんの為に一生懸命作りました。貰って下さい」
「ありがとう真理香」
「ふふっ、嬉しです」
雫さんにあげる事が出来た。一番ではあげれなかったけど。でもあの子も彼を好きだったとは。
その後も名前の知らない女の子三人から貰った。今度名前覚えよ。
一限目と二限目の中休み
「神城君、これ。手作りじゃないけど君の為に一生懸命選んだんだ」
「ありがとう琴平さん、嬉しいよ」
「ふふっ、そう言ってくれると嬉しいな」
少しでも彼が私に向いていてくれればいい。今は急ぐ事ないわ。
二限目と三限目の中休み
「神城君、これ」
「えっ、聰明先輩」
「い、一応。義理より上だから。貰って」
「は、はい」
「また、生徒会手伝ってね。じゃあね」
義理より上ってなんだろう?
まさか、聰明奏から雫さんに渡すとは。真理香曰く
なんで聰明奏が。不味いな。優里奈曰く
ありゃ、生徒会副会長までかい。これは大変だな。待っているだけじゃ駄目かも。琴平さん曰く
優里奈から貰えると思ったのにな。でも放課後まで時間あるし。
昼になるといつもの様に若菜、真理香、優里奈で昼食を食べた。今日は優里奈のお弁当だ。
「雫、今日は水やりだから。早く食べて行こう」
「うん、分かっている」
冬でも二週間に一回は水やりしないといけない。
水やりを終えてホースをリールに巻くとジョーロと一緒に小屋に仕舞うだけだ。
「優里奈やっておくから、先に戻っていいよ」
「ううん、一緒で良い」
一通り小屋の中に片付けると
「雫、これ。皆の前で渡すの恥ずかしくて。雫の為に作ったの」
「ありがとう優里奈。嬉しいよ」
優里奈は俺の背中に腕を回すとそっと唇を合わせて来た。
そのままにしていると
「久しぶりね。こうしていると心が温まる」
「優里奈、行かないと」
「もうちょっとだけ」
優里奈に抱き着かれると俺も嬉しくなる。若菜とも真理香とも違う感覚。でもどうしてなのかな?
結局午後の授業ぎりぎりになってしまった。
放課後になり帰ろうとすると良太と徳山の机の上にはチョコの山が有った。流石にモテるなと思いながら帰ろうとすると
「雫、一緒に帰ろ」
若菜がやって来た。チョコくれないのかな。
いつもの様に駅まで三人で帰ってそれから若菜と二人になる。家の有る駅の改札を出て少し行くと
「雫、これ。手作りなんだ」
可愛くラッピングされた紙袋をくれた。俺の好みだ。
「ごめんね。本当は一番に渡したかったんだけど。朝はいつもの調子だし。学校の中はね。だから今。遅れてごめん」
「若菜、ありがとう嬉しいよ。一番目に食べるね」
「ふふっ、ありがとう」
やっとくれた。あれっ、なんで若菜からチョコレート貰うの待っていたんだろう?
俺ってやっぱり若菜の事、でも優里奈も。分かんないや。
「どうしたの雫。急に黙って?」
「いや、何でもない。若菜からのチョコが嬉しいなと思ってさ」
急に俺の顔を見ると
「本当?まあいいやそうしておく」
「ただいま」
「お帰りお兄ちゃん。あれ、それチョコレート。凄ーい花音に見せて」
「おい、中は開けるなよ」
「はーい」
あっという間に俺の手からチョコレートの入った袋を持って行ってしまった。
俺は自分の部屋で部屋着に着替えてから手を洗い、ダイニングに行くとテーブルの上に貰ったチョコが広げられていた。
「お兄ちゃん凄いね。九つも有るよ。でもこの五つは別格だね。気合が入っている。若菜お姉ちゃん、真理香さん、優里奈さん、初詣で会った人。でももう一つは?」
「学校の生徒会副会長の聰明奏先輩」
「え、えーっ、お兄ちゃんそんなところまで手を出しているの」
「人聞き悪いこと言うな」
「でもこんなに食べたら太るな」
「じゃあ、他の四つ貰ってあげるよ。市販だけど義理チョコでもなさそうだよ。ものが良いもの。美味しそう」
「待て、中見てからでないと失礼だろ。それからだよ」
九つ全部に添え書きが入っていた。参ったな。こういう時どうすればいいんだろう。あの五人はともかく、名前も知らなかった四人。添え書きには書いてあるけど。
「お兄ちゃん何考えているの?」
「花音、これどうすればいい」
添え書きを見せた。
「何々、神城君好きです。前から好きでした。出来ればお付き合いしたいです。ありゃー。これ告白じゃん。まあホワイトデーで返事しないとねー。他の三つも同じ?」
「うん」
「まったく、お兄ちゃんは女たらしなんだから。そうだ、この五人もホワイトデーで決着付けたら。皆断って私を選ぶって選択もあるよ」
「花音それは無い」
明日良太に聞いてみるか。
翌日、教室に入ると一番で良太に声を掛けた。
「良太、ちょっといいか」
「何だ雫」
俺は良太を廊下に呼び出して
「なあ、これどうすればいい。去年まで若菜からしか貰えなかったから。お前なら毎年色々な人から貰っているから分かるかなと思ってさ」
「雫次第だよ。返事するのもしないのも。だって断る以外ないだろう。まさか受ける訳にも行かないだろう。それにホワイトデーがある。そん時すればいいんじゃないか」
「そうかホワイトデーか」
教室に戻ると昨日チョコをくれた女の子から視線を送られている。仕方なくニコッとすると喜んでいた。
雫さんが、他の女の子から明らかに本命とわかるチョコを貰っていました。まさかとは思いますがここはしっかりとしないと。トンビに油揚げを……という諺もあります。
雫だから心配ないと思うけど、まさか琴平さんの他に四人も雫を狙っている子が居たとは。しかも聰明奏まで。油断できないわね。
―――――
雫に取って初めての経験どうしますかね。
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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