第27話 夏休みの前に


 心休まないテスト休みも終わり、今日も元気に?に登校する俺。隣にはいつもの様に若菜がいた。


「雫、夏休みのイベント、昨日決めたけど私と二人だけで遊びに行こうよ」

「まあいいけど。夏休みの宿題先に終わらせないと」

「うん、それはもう考えてある。雫と一緒に終わらせる予定」

「俺と?」

「だって、一人でやるよりいいでしょ」

「まあそうだけど」


「それでね、二人でテーマパークとか行かない」

「若菜が行きたいなら良いよ」


 若菜の言う事にはほとんど同意する。小さい頃から自然とそうなっている。彼女が横に居るのが当たり前になっているんだ。でも恋愛感情はない。

 若菜は告白してくれたけど戸惑っている。大切で守らなければいけない幼馴染なんだけど。



「今日はテストの総合成績が分かるね。中間より出来ていると良いね」

「若菜のレベルなら三人の事だから分からないよ」

「雫の事。私はどうでもいいわ。早瀬さんや東条さんには負けたくないのも正直なとこだけど」


学校の有る駅について改札を通ると例によって早瀬さんと東条さんが待っていた。

「神城さん、下坂さんおはようございます」

「雫、下坂さんおはよう」


「「おはよう早瀬さん、東条さん」」


 今日も俺の後ろを付いてくる三人の美少女達。なるべく一人で登校している風にしながら歩いていると見た事のある女性が話しかけて来た。


「神城さんおはようございます。歩きながらで良いので少しお時間頂けますか」

「いいですけど」


 生徒会副会長の聰明奏さんだ。上級生なので断る訳には行かない。後ろから刺さる視線が痛い。


「夏休みの事なのですが、休み中にお時間頂く事出来ないでしょうか」

「えっ?!」


 後ろを歩いている三人の前でまた面倒な事を言って来た。さてどうしたものか。

少し考えていると


「ちょっと待って。雫の夏休みは私達が一緒なの。生徒会副会長だからっていきなり変なこと言わないで下さい」

若菜が突っ込んで来た。


「「そうです」」

早瀬さんと東条さんも同意する。


「神城さん、この方達は?」

「彼女達は…………」

「「「恋人です」」」

「はっ?!」

「神城さんどう言う事ですか」

「うーん。そういう事だそうです」


「良く分からないですが、父が神城さんとお会いしたいと申しておりまして。お時間を頂きたいのですが」

「聰明さんのお父さんが俺と会いたい?どう言う事?」

「お会いしてから父からお聞き下さい」


「ちょっと待ってよ。いきなり現れて自分の父親と会ってくれなんて頭おかしいんじゃないの。雫に失礼じゃない」

「…………。どうも今日は良くないようですね。分かりました。また改めてご連絡します。では」


そのまま学校の方へ早足で行ってしまった。何だったんだろう?



「雫、あんなの相手にしちゃだめよ。いきなり横から泥棒猫みたいに来るんだから」

「若菜、それは言い過ぎだよ。あそこまで言うんだから何か用事が有ったんじゃないか」

「だったら、本人が雫に連絡すればいいじゃない」

「聰明さんが同じ学校だからじゃないか」

「知らない」

若菜が機嫌を悪くしたようだ。


「下坂さん。聰明奏さんは、鳳凰女子の理事長の娘さんです。何か用事が有ったのは本当ではないでしょうか」

「そうなの?」


俺はまた余分な事を抱えそうな気がした。



学校に着き、下駄箱で上履きに履き替えた後、廊下に張り出されている期末テスト結果を女子三人と一緒に見た。


「雫、凄いじゃない。十五位よ。中間より全然上がったわ」

「俺も驚いている。良太も十三位か凄いな」


東条優里奈 一位 四百九十二点

早瀬真理香 二位 四百八十七点

下坂若菜  三位 四百八十二点

川平良太 十三位 四百二十五点

神城雫  十五位 四百二十点


 母さんこれを聞いたら喜ぶな。やっぱりこの子達のお陰だ。少し考えるかな。少なくとも勉強については一緒に居て間違いなさそうだ。




 教室に入って自分の席に着くと

「おはよ雫。凄いな十五位なんて。勉強会の効果抜群じゃないか」

「おはよ良太。お前だって十三位じゃないか。凄いよ」

「ははは、雫に抜かれない様にしないと」

「そうしてくれ。俺は十分だ」


「だめですよ。神城さんには私達の上に言って貰わないといけません」

「そうだよ。雫。あなたは私達の上に居てくれないと」


いつの間にか早瀬さんと東条さんが側に居た。

「いやいやそれは無理でしょう」


「いえ、何としても学年一位を三年間の間に成し遂げて貰います」

 お父様に神城さんとの結婚を許して貰う為には、早瀬産業の頂点に立つ知識と経験が必要。この学校でトップになって頂き、同じ大学に行かないといけない。


「雫、私もそう思っているから」

 父上に雫との結婚を許して貰う為には、第十三代東条家の跡取りとして相応しい人になって貰わないといけない。最低でも私と一緒に優秀な大学に行ってもらわなければ。


 ぶるっ。寒気がする。何か二人の後ろからもやもやしたものが見えた気がする。気の所為かな。

この二人どうなっているんだろう。





そして数日後


西泉願力先生が一学期最後のHRを終わらせるとクラスに一気に解放感が広がった。


「「「「やったあ。夏休みだ」」」

「この後、カラオケ行かない」

「いいね。行こ行こ」

「じゃあ、またな」


 まあ普通はそう思うよな。俺もそう思いたい。俺の頭の中には憂鬱な事しか浮かんでこない。


「雫、夏休みどうするんだ。一緒にあそ…………」

「神城さんは私達と一緒です」

「いや、良太そんな事は無い。一緒にあそ…………」

「雫、一緒でしょ」


良太が呆れた顔をした後、憐みの目を向けながら


「雫、夏休み終わったらまた遊ぼうぜ。じゃ~な~」

「おいっ!」


 テニスの名プレイヤーの如く一瞬のダッシュで教室を後にした。机の上にうつ伏していると


「神城さん」

今度は聰明奏生徒会副会長がやって来た。


「夏休みお忙しい様なので後で連絡します。連絡先を交換して下さい」

「い、いいですけど」

「神城さん、そう言えば私も知りません。交換して下さい」


 俺のスマホには母さんと妹を除けば女性は東条優里奈と下坂若菜しかいなかったが、今日新たに二人の女性が加わった。嫌な予感しかないんだけど。


こうして俺の夏休みは始まった。



―――――

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雫の夏休み。楽しみですね。どうなる事やら。


次回をお楽しみに。

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