第28話 夏休みの宿題
今日から夏休み。目覚ましを付けないで寝たおかげでゆっくりと目が覚める。机の上の目覚まし時計を見るとまだ八時だ。もう少し寝ていられる。
二度寝はいい。スッと眠りの中へ入り込んだ…………。うんっ?!なんだ。生暖かいものが毛布の中に居る。ソロっと毛布あげると可愛い寝顔をした妹がスヤスヤと眠っている。
いったいどうやって入ったんだ。いくら妹とはいえ、もう少し節度を持たせないと。起こそうと思ったが、思い切り嬉しそうな優しい顔をして眠っている妹を起こす気になれず、
俺もそのまま寝てしまった。
「ねえ、いつまで寝ているの」
俺の頬をツンツン突いてくる。どうせ妹がしているのだろうと思って
「花音、止めろ。寝てていいから静かに」
「えっ、花音?!」
「雫、どう言う事」
今度は肩を揺すって来た。
「えっ」
何とか強引に目を開けると……。
「若菜、どうしてここに?」
「そんな事どうでもいい。花音ちゃんと一緒に寝ていたの」
いつの間にかいなくなっている。
「いや、気の所為だ」
「どう言う意味よ」
「お兄ちゃん、どうしたの。起きた?あっ、若菜お姉ちゃん」
「花音ちゃん、雫と一緒に寝ていたの」
「えっ!ソンナコトナイデス」
「何で棒読みなのよ。雫説明して」
「いやいや、それはともかくなんで若菜がいるんだ」
「何言っているの。もう十時過ぎよ。今日から夏休みの宿題やるんでしょう」
「あっ。でもまだ十時だよ。もう少し寝かせて」
「だめ」
いきなり毛布を引きはがされた。
「起きなさい」
若菜をじっと見たが、何よという顔をされ仕方なく上半身を起こすとパジャマ替わりのTシャツを脱いだ。
「ちょ、ちょっと、何してんの」
そう言って顔を赤くして下を向くと
「いきなり裸にならないでよ」
「いや、そんなこと言ったって、ここ俺の部屋なんだけど」
「わ、分かったから。ちょっと待って」
そのまま部屋を出て行った。
何だよあいつ。
「どうしたの、若菜お姉ちゃん?」
「さあ?」
雫、いつの間にあんな男の体になったの。いきなり脱いだらびっくりしちゃうじゃない。
中学時代からすると随分変わった感じ。
ぜい肉は無かったけど、あんなに腹筋や筋肉が付いている体じゃなかった。雫の裸を見たのは去年の夏。もう一年近く見ていないから変わったんだ。でも…………なんで胸が苦しくなるのよ。
俺は着替えて一階に降りていくとダイニングで若菜が紅茶を飲んでいた。
「雫、朝ごはんどうするの?」
「食べるよ」
「じゃあ、早く食べて。夏休みの宿題早く始めよ」
そうか。そう言えば、そんな約束したな。早瀬さんの別荘に行くのは八月入ってからだ。爺ちゃんの所はその後だ。
若菜と夏休みの宿題をやり始めてか四日目。毎日ぴったりと俺の横で宿題をする若菜のお陰で六割位終わり、先が見え始めた時、俺のスマホが鳴った。早瀬さんだ。勉強中だったが、出ようとすると
「誰から」
「早瀬さんからだけど。なんだろう」
若菜が何故か俺を睨んできた。それを無視して通話にスライドすると
「もしもし、神城さんですか」
「はい」
「神城さん、今何しています。もしお時間あれば会えないかなと思いまして」
「えっと、今若菜と夏休みの主題やっています」
「えっ、下坂さんとお二人で、ですか?」
「はい」
迂闊でした。確かに下坂さんのご自宅は神城さんのお隣と聞いているけど、まさか夏休みの宿題を二人でやるという作戦に出るとは。
「あの、私も一緒に宿題したいのですけど」
「俺は良いけど。若菜にも聞いてみるよ。若菜、早瀬さんが一緒に宿題したいって」
若菜が、顔の前に腕でバッテンを作って口を膨らませている。どうしたものか。仕方なく
「済みません。もうすぐ宿題も終わるので、会うのは今度にしましょう」
若菜が顔を綻ばせて腕で頭の上で大きく丸を作っている。
「そうですか。残念です。ではまた後程」
「済みません」
それを言うと通話が切れたが後程とはどう言う意味なんだろう。
せっかく雫と二人で居れるのに早瀬さんに邪魔されてたまるものか。
昼間、真面目に宿題で頭を使っているお陰で、夜になるとビデオも見る気にならずベッドの上でゴロゴロしているとスマホが震えた。
もう十時だ。そろそろ眠ろうと思っている時間なんだけど。あれっ、早瀬さんだ。スマホの画面を通話にスライドする。
「もしもし、神城さん」
「はい、神城です」
「済みません。こんなに遅い時間に。少しお話をしたくて。昼間は下坂さんがいらしたようですので」
そうか、だから後程だったんだ。
「いいですよ」
「神城さん、夏休み、うちの別荘とお爺様の所に行く以外は何かご予定ありますか?」
「うーん、特に何も無いかな」
「そうですか。もし神城さんが良ければ二人でお会いする事出来ないでしょうか」
「良いですけど。何か用事でも」
「いえ、神城さんと二人で居れればと思いまして」
俺なんかと居て何がいいのかな。でも早瀬さんが思うならいいか。
「良いですよ」
「ありがとうございます。それでは…………」
ふふふっ、神城さんと二人で会える。チャンスです。とにかくお父様にお会いして頂いて、実績も作らないと。
下坂さんはともかく東条家は油断できない。その上東条さんは実績がもうある。あの方には負ける訳には行かない。
俺が若菜との宿題もほぼ終わる更に三日後、
今度は優里奈から連絡が来た。なんで若菜と宿題している時に来るのかな。分からん。
「雫、学校の花壇の水やり明日だけど、一応確認の為に電話入れた」
「あっ、ごめん。忘れていた。十時学校だっけ」
「うん、駅の改札で待ち合わせしない?」
「いいよ」
「じゃあ、明日ね」
「雫、東条さん何だって?」
「ああ、明日花壇の水やりの日だった。行って来る」
「花壇の水やり。そっか、雫文芸部だもんね」
もう、明日で宿題終わるからあの後は、この前出来なかった事しようと思ったのに。でも明後日がある。
「雫、じゃあ、明後日残りの宿題やろうか」
「うんいいよ」
若菜、何かおかしいな。素直過ぎる。まあ、いいか。
―――――
第7回カクヨムコン応募中。アクセスご評価頂けると大変ありがたく思います。
夏休みの宿題を二人でやる事に成功した若菜。最後の日をチャンス考えていました。しかし東条さんは一緒に花壇の水やりをチャンスと考えている様です。
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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