第76話 夏休みです
俺は、駅から若菜と二人で家に向っている。ついに夏休みが始まる。
「雫、明日から夏休みね。去年と同じで最初に夏休みの宿題しよ」
「そうだな」
「じゃあ、明日から朝十時に行くわ」
「えっ?!」
「何がえっよ。雫私がいないと出来ないでしょ」
「言葉が有りません」
「じゃあ、明日ね」
若菜が笑顔で家に入って行った。
「ただいま」
タッタッタッー。
「お帰りお兄ちゃん」
「花音早いな」
「うん、終わったらすぐ帰って来たからね」
靴を脱ごうとするとぎゅうと抱き着いて来た。
「どうした?」
俺の体からパッと離れて
「お兄ちゃん最近女の匂いが無いね」
「何言っているんだ。ある訳無いだろうそんなの」
「そう?前は毎日の様に違う女の匂いしていたような」
「花音!」
「ふふっ、冗談。花音嬉しいよ。生ごみの匂いないから。あっ、若菜おねえちゃんだけなら許しても良いかな」
さささーっと自分の部屋に戻って行った。
「なんだ、生ごみの匂いって?」
つい自分の体を嗅いでしまった。
夕食時、父さんが
「雫、今年はお義父さんの所いつから行くんだ?」
「七月中で夏休みの宿題終らすから、八月の一日から二週間十五日まで行こうかと思う。爺ちゃんも喜んでいた」
「そうか、それなら父さん達もお盆の墓参りで行くから合流だな」
「そうだね」
「お兄ちゃん今年は真理香さんのとこの別荘にはいかないの?」
「止める」
「ええーっ、なんで。楽しみにしていたのに」
「いいよ。爺ちゃんの所が良い」
「ぶーっ」
「はははっ、諦めなさい。その代わり父さんと一緒に行くか」
「いい。お母さんも一緒なら」
「お母さんはちょっと用事があるからだめよ」
「そうなんだ。仕方ないな。友達と考えるか」
翌日目が覚める。思い切り伸びをした。今日から夏休みだ。もう少し寝よ~。
コンコン。
コンコン。
ガチャ。
「雫、おはよう」
スーゥ、スーゥ
やっぱり、こんな事だと思って三十分前に来て見れば。
私は静かにドアを閉めてベッドに近付いた。そっと近づいて
チュッ。チュッ。チュッ。
両頬と唇にキスしちゃった。静かにベッドの上に乗って雫の体に体重を掛けない様にっと
えっ! いきなり背中に手を回されて抱かれてしまった。二人の間にはタオルケットだけ。
ぎゅーっ抱きしめられている。うーん、このままで良いか。
うん、なんとなく体の上に。ゆっくりと目を開けると……あっ、
「若菜!」
「おはよ雫。朝から私を抱きしめるなんてそんなに私の事好きなの。しちゃう?」
「な、なに言ってるんだ。朝から」
「じゃあ昼でも良いよ」
「…………」
「とにかく離れて」
ガチャ。
「お兄ちゃん、お母さんが…………。あーっまた朝から不純異性行為を。お母さんに言っちゃお」
タタタッと階段を降りて行ってしまった。
「若菜。とにかく起きるから離れて」
若菜が顔をぶーっとしながら体を離した。
着替えてから顔を洗ってダイニングに行くと母さんが、ニコニコしていた。
朝食を食べ終わると早速昼休みの宿題を始めたが、
「多い、去年と全然違う」
「当たり前よ。一年の時とは教科数が違うわ。ねえ、雫進路決めた。理系、文系どちらにするの?国立ならほぼ全教科だけど私立なら文系、理系選ばないといけない。
雫の成績なら国立に行けるわ。でも帝都大学は厳しいわ。あの二人は優秀だけど私達は違う」
「でも若菜もこの前の学期末テストで三位だったじゃないか」
「あんなの参考にならない。全然レベルが違う。もし行くならそれ相応の塾に行かないと。でもいずれにしろ二学期からは塾よ」
「なあ、若菜。俺そんなに勉強する気ないよ。別に帝都大学や有名国立に行かなくたって就職は出来るだろうし。爺ちゃんの所なら普通私立でもいいよ」
「でもお爺様の所でも私立とは言え、宗慶が最低レベルよ…………。ねえ、二人で地方国立行く。例えば地葉大学とか。これならお爺様の所も近いし」
「そうだな。夏休みの間に考えるよ」
「そうして。一緒に行こう」
ふふっ、これで良し。私も帝都大学はきつい。でも地葉大学ならもう少し頑張れば合格できそう。雫は問題ない。
この人の地頭が良いのは成績の伸びでも良く分かる。これならあの二人を外すことが出来る。あの二人は家柄帝都大学しかないはず。ふふふっ、一歩リードだわ。
「さっ、早く始めましょ。量はこなせるわ」
雫さん、どうしてるのかしら。夏休みの宿題は先に終わらせるからと言っていましたけど。そう言えばお爺様の所いつから行くのかしら。
去年は下坂さんに聞いたけど今年はもう私から聞ける関係。まだ午後八時。連絡しても大丈夫な時間。
俺は午前十時から午後六時までみっちりと若菜と宿題に取り組んだ後、食事をして自分の部屋でゴロゴロしている。
若菜は、午後六時を過ぎるとサッと帰って行った。まだ十日有るから大丈夫と言っていたが、何が大丈夫なのかな?
ブルル。ブルル。
あれっ、真理香からだ。
「もしもし」
「私、真理香です。雫さん今いいですか」
「良いけど」
「今年はお爺様の所にはいつからいつまで行くのですか」
「八月一日から十五日まで」
「えっ!そんなに長く。わ、分かりました。二週間居れる様にします」
「い、いや真理香達は九日からでいいよ。十三日にはお盆で家族も来るから」
「えっ、でも」
「真理香、少し一人にさせて。爺ちゃんの所で鍛錬しながら色々考えたい」
「色々?」
「うん、将来の事。今のままではいけないと思っている」
「……分かりました。でも私達だけで行けないのでは?」
「若菜が知っているから」
「そうですか。雫さん。行くまで宿題で忙しいとは思いますが、一日いえ半日でいいから会えないでしょうか」
「ごめん、宿題の量が多くて余裕無さそう」
「分かりました」
私は、スマホを閉じた後、言い知れぬ不安に陥った。なにこの不安な気持ちは。
雫さんは、将来を考えたいと言っていた。会うのを断られた時もいつもと違う感じでした。
将来という言葉の中に私が入っている感じがしなかった。どうしよう。困ります。これでは困ります。
その後何故か優里奈からも電話がかかって来た。爺さんの事は真理香と同じことを話したが…………。
「雫、会いたい。どうしても会いたい。お爺様の所に行く前に。お願い」
何となく目的は分かっていた。真理香の時は断ったけど。
「分かった。いつがいいの?」
「なるべく早く」
「じゃあ、明日にする。午後ならいいよ」
「ありがとう。じゃあ午後二時でいいから。私の家の有る駅に来て。迎えに行かせる」
「優里奈、迎えは止めて。歩いて行く。出ないと行かない」
「分かった。皆に言っておく」
―――――
これはこれは。
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価(★★★)頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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