第77話 夏休みですその二
今日も午前十時には若菜が来ている。夏休みの宿題の為だ。
「雫、ここは午後からにしよう」
「若菜、午後から用事がある」
「えっ?!用事って?」
「……若菜との約束だから言うけど。優里奈と会う」
「…………!そ、そう。分かった。じゃあ明日今日の分も頑張らないとね。私じゃあ帰るね」
「…………」
なんか不安。昨日は大学の事とか二人で話して安心していたけど。優里奈さんは元カノ。でも因りをを戻して来た。
雫も彼女に対しては少し思いが大きいのがわかる。雫が今夏の宿題中だという事は皆分かっているはず。なのに。
若菜は気を悪くしたかもしれないけど。優里奈のお願いは断れない。自分でもそれが何か分かっている。
今日は歩いて優里奈の家に来た。俺が門の側まで歩いて行くと、この暑いのにスーツを着てネクタイを締めサングラスを掛けた男の人が、俺を認めたのか、少しお辞儀をしながら俺を見ている。
「中にお入りください」
「ありがとうございます」
門から玄関まで少しある。我が家とは大違いだ。まあ比較する必要もないけど。
「あっ、雫」
玄関で優里奈が待っていた。
「優里奈、来たよ」
「入って」
優里奈の家は大きい。昔の武家屋敷の様だ。実際そうだけど。玄関を上がるとそのまま優里奈の部屋に連れて行かれた。いつもながら広いな。
「雫座って。今冷たい物持ってくる」
「うん」
流石に俺も喉が渇いていた。
「お待たせ」
優里奈が俺の前に冷たそうな少し泡の立っている水を出した。レモン水に弱炭酸水を入れた水だ。
「ふう、助かった。暑かったから」
「ふふっ、そうね。でもこの中は涼しいわよ」
「そうだね」
「ねえ、雫。今日来て貰った理由言わなくてもいいよね」
俺は無言で頷いた。
……………………。
もうお父様には言ってある。一回で上手くいくかなんて経験ないから知らないけど。
「優里奈、あれを」
「今日は大丈夫。思い切り出して」
違う、いつもと全く違う。なにこれ。凄い。
寝てしまった。目を開けると雫が隣で寝ていた。三回もしてくれた。これなら大丈夫なはず。
「あっ、優里奈」
私が唇で言葉を塞ぐと…………。ふふっ、もう一度してくれた。
私はしっかりとして貰った後、雫の首に手を回しながら
「雫、大学は一緒に行こう。そしてその後もずっと側に居たい。お願い」
「……優里奈。今度爺さんの所に行った時、一人で考えたい。将来の事。だからそれまで待って」
「うん、でも最後は私を選んでくれると嬉しい」
「…………」
彼は何も言わなかった。でも拒否されている雰囲気は感じられない。今日の事もある。今回がだめでも何回かすれば必ず。もうお父様には認めて貰っている。
俺は次の日からまた若菜と夏休みの宿題を片付けている。後三日大方片付いた。
「ふう、若菜のお陰で随分消化出来たな。これならもう少しで終わるな」
「私と一緒にやってよかったでしょう」
「ああ、とってもそう思うよ」
「そう思う。本当に。だったらご褒美ほしいな」
「えっ、小遣い厳しい」
「ううん、買って欲しい物はない。優里奈さんにした事して。分かっている。し・ず・く」
うっ、女って怖い。
それから自由研究を除いた教科毎の宿題が終わった次の日の午後、
「嬉しい。雫」
……………………。
絶対二人には負けない。
「じゃあ、行って来るね。若菜。真理香と優里奈それに琴平さんの事頼む。駅には塚原さんが迎えに行くから」
「任せておいて雫。気を付けて行ってらっしゃい」
今回は二週間。ほとんどが着替えだが先に送ってある。それでも肩に大型のスポーツバッグを担いで出かけた。
「しかし、お兄ちゃんも凄いよなあ。若菜お姉ちゃん、真理香さん、優里奈さん、それに新しく琴平さん。噂ではわが校の生徒会長も気が有るとか。お兄ちゃんの将来の嫁としては複雑な気持ち」
「花音ちゃん、諦めなさい。雫のお嫁さんは私よ」
「若菜お姉ちゃん、譲らないよ」
「ふふふっ、二人とも中に入って。冷たい紅茶でも飲みましょう」
「「はーい」」
俺は九時の東京発の特急に乗り、六つ目の駅で乗り換えて普通電車で二つ目の駅で更に山の中に入る電車に乗る。そして最終の駅に着くと
「雫様、お待ちしておりました」
「塚原さん、いつも済みません」
「いえいえ、雫様を迎えに来られる喜びでいっぱいです。お嬢様達は九日からと聞いておりますが」
「うん、もう申し訳ないけど迎えに来てあげて」
「喜んで。総帥も楽しみにしておられます。あの方たちの為に遊び場も作っておきました。着いたらご案内します」
「お願いします」
車で山道を走る事十五分。爺ちゃんの家に着いた。いつ見ても大きい。
「爺ちゃん来たよ」
「おお、雫か待っておったぞ」
爺ちゃんが俺を抱きしめてくれる。
「雫大きくなったな。何センチあるんだ」
「この前の学校の身体検査で百七十八センチになった」
「そうか、もう少し伸びそうだな。儂も抜かれるな」
爺ちゃんは、百八十センチはある大きな体をしている。
「師範代。お久しぶりです。今年も各国からのリーダー含め百二十名の者達が鍛錬に励んでおります」
「亀石さん。久しぶりだね」
「そうだ、雫。荷物を置いて昼食を取ったらお嬢さん達の遊び場を案内させよう。塚原頼むぞ」
「はっ!」
俺は昼食を取った後、若菜達向けに作ったという遊び場に連れて行ってもらった。
「これは!」
山を半分利用してアスレチックコースを作っている。でも本当に簡単な子供向けのコースだ。これならあの子達だけでも楽しく遊べそうだ。
「塚原さん。ありがとうございます。あの子達も喜ぶと思います。でもこれあの子達が帰ったらどうするの?」
「大丈夫でございます。様相を変えて山歩き鍛錬用にする予定です。来年も来られましたらこの様に戻します」
「そうなのか。何か申し訳ないね。僕があの子達を連れて来たばかりに」
「何を言っておられます。雫様の未来の妻殿になられるお方達です。皆楽しそうに作っていました」
「そ、そうなの」
完全に俺のお嫁さんはあの中からになっているらしい。でもなあ。
今回は去年より倍は楽しめる。俺は翌日から道場での模範演習、山歩きや川遊びを楽しんだ。
猪もいつも通り居た。亀石さんやリーダー達も相手するようにさせたが、まだ大変なようだ。
熊も出て来たが、何故か逃げられた。熊の胆のうは傷薬として重宝するからみんな残念がっていたけど。
猿達とは一緒に遊んだ。攻撃をしてくる様子が全くなくむしろ遊んでくれという感じだった。覚えられてしまったのだろうか。俺は猿じゃないぞ。
川ではヤマメやハヤが一杯泳いでいる。一緒に泳いだりした。水の中は、地上と違って負荷が異常に大きい。いい鍛錬になる。鍛錬の結果は申し訳ないけど膳に乗って貰う事にした。
夕飯で
「雫、随分山のモノ達と仲良くなった様だのう」
「良く分からないけど。遊んでくれって感じだった」
「そうか、そうか。それは上々だ。皆と遊ぶがいい。自然と鍛錬になる」
「分かった」
しかし、山のご飯は美味しい。今日も猪肉、ヤマメの煮付け、川海苔のつくだ煮、ゼンマイやわらび、すかんぽの塩漬け、その他の山菜の天ぷら等色々膳の上にあった。
「雫、明後日、お嬢さん達が来るのう。一日鍛錬休んで相手してあげなさい」
「そうだね。ありがとう」
―――――
雫は将来の事どう考えたのでしょうか。
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価(★★★)頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます