第78話 雫の夢
一杯楽しんだ。
爺ちゃんと一緒に山歩きもした。
その時爺ちゃんが、
「雫、儂も長くはない。そろそろ孫は見れないかのう」
「爺ちゃん、俺まだ高校二年生だよ。子供出来たら退学だよ」
「じゃが、学校やその筋に認められていればいいんじゃろう。そんな事他愛無い事だ」
「爺ちゃん、気持ちは分かるけど」
「あの娘子達の事か。雫、自分の気持ちに素直でいればいい。どんなことが有っても身を挺して守ろうとする人ならば、それが雫の選んだ人だ」
「……。爺ちゃん、分からないだ。皆いい子だし大好きだよ。でも俺だってこれから色々あると思う。そんな時あの子達に迷惑を掛けたくない。一人じゃ駄目なのかな」
「ほほほっ、そうか、そうか。じゃが神城家をお前の代で無くす訳にはいかないだろう。ここは選ぶしかない」
「決められないんだ」
「爺に任してみるか」
「えっ、でも」
「一度位、爺に嬉しい苦労させてくれ」
「分かった」
明日、若菜達が来る。一人になって将来の事を考えたいなんて偉そうな事言ったけど何も考えていない。
布団の上に寝ながら天井に描かれている自然の木の模様を見ている。何も答えは見出せていない。
若菜と良太と一緒に大竹高校に入った時はそのまま何も無く三人で楽しい高校生活を過ごせると思っていた。
そりゃ、優里奈の事はいいよ。俺だって優里奈の事忘れられなかったし。今だって。
でもそれからがおかしくなった。真理香が現れ、まあ俺が忘れていたにしてもだ。まさかこの三人が、何の取り得も無い俺を…………。
そして気が付いたら琴平さん、聰明先輩。それに学校中に知れてしまった俺の存在。
こんなの俺らしくないよな。中学までは良太や若菜で楽しかったのに。
俺だって普通に高校生だよ。女の子の体に興味は一杯ある。
優里奈とは中学時代、お互いに多分怖いもの知らずと興味でしてしまった。でもそれだけだった。
それが高校生になってから真理香と若菜。
若菜は……。俺も大好きだけど恋愛とかじゃなくて守らなければいけない人だった。鍛錬始めたのだって若菜を守る為だ。
お父さんや爺ちゃんから大切な人守る為には男は強くならなければいけないとか言われて。
まあ今から思えば爺ちゃんが話し相手欲しかっただけなのかも知れないけど、俺は爺ちゃんの事が大好きだから。
コンコン。
「誰?」
「塚原でございます。雫様、至急総帥の枕元に」
「えっ!」
俺は気が付いたら爺ちゃんの枕元に居た。一瞬の事だ。血の気が無い。
「爺ちゃん」
うっすらと目を開けて
「雫か、大した事は無い。大方塚原が大袈裟に言ったんだろう」
「そんな事ない。塚原さんは爺ちゃんの所に来てと言っただけ」
「雫様」
今塚原さんが着いた。
「ごめん塚原さん。爺ちゃんの事聞いたら体が動いてしまって」
「いえ、一瞬で目の前から消えたので」
「塚原、修業が足りんぞ!」
「ははっ!」
塚原さんが廊下に頭を擦り付けている。
「爺ちゃん、駄目だよ。塚原さんは爺ちゃんの事を思って」
「そうだな」
少し目を瞑った。
「雫、儂は長くない、最近体の調子が悪くてな」
「何言っているの。この前だって一緒に山歩きしたじゃないか」
「あの時が限界じゃよ。直ぐには逝くとは思わないが、頼む爺が生きている内にせめて先の嫁を見せてくれ。ごほっごほっ」
「爺ちゃん!」
「雫様、少し横に」
目を瞑っている。よく見れば去年の夏から随分やつれた様な。
俺はそのまま、爺ちゃんの側で横になった。
「雫!」
「うん?」
「もう、こんな所で寝ているんだから」
「えっ!」
よく見れば爺ちゃんの寝室だった。あのまま寝てしまったのか。あれ爺ちゃんは?
「塚原さん」
「はい、雫様」
「爺ちゃんは?」
「朝の鍛錬に」
「えっ、でも。若菜今何時?」
「もう午前十一時よ。ここに来ても私がいないと起きれないの!」
「いや」
どうなっているんだ。昨日塚原さんに呼ばれて爺ちゃんの枕元に来たのは午後九時。それから爺ちゃんと話して。
「雫様、如何なさいましたか?」
「塚原さん、昨日俺の部屋に呼びに来たよね」
「何を仰っているのか分かりません。昨日雫様は、総帥と夜遅くまでお話をしてそのまま寝てしまったと聞いております」
あれは夢。そんな事は無い。でも塚原さんが嘘を吐く理由は全くないし。
「雫様、朝の膳を用意しておりましたが、お嬢様達と一緒に昼の膳になさいますか?」
「うん、お願いします」
「雫、どうしたの?」
「雫さん。昨日遅くまで起きていらしたのですか?」
「雫、大丈夫?」
「神城君」
「あっ、みんなおはよう」
「「「「おはようじゃない」」」」
―――――
はて、雫も夢を?
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価(★★★)頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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