第3話 早瀬さんと一緒に昼食


 翌朝、食事を終えた俺は家を出た。昨日の件を思い出すと嬉しいというより何故という気持ちの方が大きい。


 彼女とは過去接点が無い。何か意図して近づいて来たのか。そんな事を考えながら歩いていると今日も同じ声が後ろから聞こえる。


「おはよ雫」

「おはよ若菜」

「どうしたの朝から難しい顔しているよ」

「そ、そうか」

こいつでも分かる顔していたのか不味いな。考えるの止そう。


「何考えているか当てようか」

「えっ、分かるの」

「ふふっ、可愛い幼馴染の若菜ちゃんにいつ告白しようかと悩んでいる」

「はぁ、ぷっぷっ、外れー」

「ちぇっ、冗談でもいいからそうだよ位言えないの」

「えっ、何で」

「何でって。もういい」

若菜が顔を膨らましてそっぽを向いてしまった。どうしたんだ。最近こいつおかしいな。


「若菜は俺に言って欲しいのか。本番の時の心構え練習か」

「そ、そうだよ。だから言ってみて」


そんな話をしている内に駅に着いてしまった。

「残念、もう駅だ。今度な」

「ここでもいいじゃない」

「だって人一杯いるし、周りの人に誤解されちゃうと若菜が困るだろう」

「私困らない」

「え、でも。やっぱり今度にしよう」


結局そのまま電車に乗って学校のある駅に着いた。改札から同じ高校の学生服姿の生徒が一杯出てくる。


 学年によって女子はリボン、男子はネクタイの色が違う。一年生は赤をベースに紺のストライプが金のストライプで挟まれたデザインだ。男子は同じデザインでネクタイだ。


 若菜とは下駄箱で別れてB組の教室に入った。入ってすぐ右を見ると既に早瀬さんが来ている。自分の席に向かうと


「雫おはよ」

「おはよ良太」


 いつもの様に鞄から教科書を取出し机の中に入れると鞄を机の脇のホックに引っかけた。

良太が俺に話しかけようとした時、早瀬さんがこちらにやって来た。良太が目を丸くしている。


「神城さんおはようございます」

「おはようございます早瀬さん」

「神城さん、昨日はどうもありがとうございました。またお話しましょうね」

「あ、はい」

 そう言うと早瀬さんは自分の席に戻って行った。


「「「えええ」」」

「どう言う事、早瀬さんが神城君に声を掛けている」

「昨日はありがとうって、何」

やっぱり外野が五月蠅くなった。


「雫、どうしたの。早瀬さんがお前に声を掛けて来た」

「いや、まあ、クラスメイトとしての挨拶だろ」

「クラスメイトの挨拶って言ったって、お前だけじゃないか」

「いや、良太と俺で…」

「雫、昼に話してくれ」

「それが…………」


喋っている内に担任が入って来た。願力先生今日は女神に見えますよ。心の中で祈りたくなった。


今日に限っては午前中の授業が少しでも長く続けばと思ってしまった。だがこんな時は何故か早く終わった気がする。


ふと、早瀬さんを見ると手にランチボックスを持ってやって来た。

「神城さん、食堂に行きましょうか」

「「「え、え、えええ」」」

「「「どう言う事、どう言う事」」」


「あの早瀬さん、俺購買に行って来ます。ちょっと待っててください」

「はい、お待ちします」


やばい、やばい完全に注目を浴びている。俺は急いで教室を出ると購買に向かった。案の定混んでいる。何となくホッとしながら順番待ち。


「雫、どう言う事」

「良太か、見ての通りだ」

「いや、どうして早瀬さんが、お前と昼を一緒なんだ」

「昨日約束させられた。昼食一緒に食べたいって。良太も一緒でいいんだ」

「そうなのか。良く分からんが、早瀬さんと一緒に食べれるのは嬉しいな」


俺は焼きそばパンとかつパンを買うと自販機でお茶を買って、良太と一緒に教室に戻った。教室に入ると早瀬さんが自分の席で待っている。


「神城さんの席の側で食べましょう」

「良太いいか」

「ああ、俺は問題ないよ」

「早瀬さん、じゃあ俺の席で」

「はい」


早瀬さんは、前の席に横座りになり、俺の机にランチボックスを広げた。とても美味しそうだ。

「凄いですね。これ早瀬さんが作ったの」

「はい、今度神城さんの分も作って来ましょうか」

「え、いや迷惑でしょ」

「一人分も二人分も同じです」


良太が目を丸くして話を聞いている。

「神城さん、それでは食べましょうか」

「はい」


「あっ、居た居た。食堂に居ないから来て見れば、教室で食べてたんだ。どうしたの」

「あっ、若菜か」

「あれ、あなたは」

「早瀬真理香です。下坂若菜さんですね。今日から神城さんと一緒に昼食を食べる事にしました。ご一緒にどうですか」

「どうですかって。当たり前じゃない。私が雫と一緒にお昼食べるのは。どう言う事なの雫」

「若菜、取敢えず食べないか。早く食べないと此処に座る生徒が戻って来る」

「分かった」


 なんで早瀬真理香が雫と一緒にいるのよ。雫いつの間にこの人とこんな風になったの。家に帰ったらしっかり聞かせて貰うわよ。

 ここでこれ以上拗らせても思うと仕方なく雫の隣の席に座った。もちろん席をくっ付けてね。


 今日も若菜は美味しそうなお弁当だ。

「はい、雫」

そう言って俺の口にから揚げを箸に挟んで持って来た。


「いや、ちょっと」

「何が、いつもやっているじゃない」

「やってない」

「やってる。はい食べて」

「若菜、ここは取敢えず菓子パンの袋の上に乗せてくれ」

膨れ顔しながら仕方ないと言う顔で置いた。


「神城さん、私のもどうぞ」

そう言って、早瀬さんが同じようにたこウインナを置いて来た。


「手が汚れますので楊枝を使って下さい。はい」

「ありがとうございます」

「雫、私の箸使う」

「嫌流石にそれは」


良太が蚊帳の外の様になって一人で食べている。ごめん。こんなはずじゃなかった。

心の中で手を合わせながら謝った。


四人共お昼を食べ終わると

「神城さん、明日からお弁当作ってきますね」

「えっ、雫どう言う事」

「先ほど神城さんにお昼をご一緒するのでお弁当も作ってきますと言って了解して貰いました」

「え、ええ、雫本当なの?」


「早瀬さん、嬉しいけど今度にしよう」

「そうですか。残念です。私の手作りを神城さんに食べて頂こうと思っていたのですが。ではまた今度の機会にしましょう」


そう言うと早瀬さんは、ランチボックスをまとめて自分の席に戻って行った。



もう、下坂さんが現れなければ、明日から、いえ今日から私の手作りお弁当を食べて貰えたのに。下坂さん幼馴染と言っていたけど私も負けないわ。神城さんは絶対譲らない。



―――――

第7回カクヨムコン応募中。アクセスご評価頂けると大変ありがたく思います。


あらあら、早くも早瀬さん、下坂さんとの間で、雫の胃の奪い合いが始まっています。


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


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