第4話 図書室にて


 昼休みの喧騒が有った日の授業も終わり、俺は今図書室にいる。

若菜が一緒に帰ろうと言っていたが、早瀬さんも同じ気持ちだったようだ。これは不味いと思い、早瀬さんに聞こえる様に若菜に用事が有ると言って図書室に避難して来た。


 図書室は三階の一番端にある。ガラガラと戸を開けて中に入り、何食わぬ顔で窓際の閲覧席に座った。


 まいったなあ。明日からどうしようか。若菜は今日家に来るだろうな。なんでこうなった。

 でもなんで早瀬さん、急に近づいて来たんだろう。あれはどう見ても義理でやっている事じゃないよな。まさか三日たったら、罰ゲームでしたなんて事もなさそうだし。


 どこかで接点有ったのかな。俺、顔普通、頭普通、身長まだこれから伸びるだろうけど、まあ普通。運動能力低い。…………と自分では思っている。


でも早瀬さん、学年一の美少女、勉強出来そう。身長も女の子としては普通やや高め、運動能力未知数。俺が彼女の横に居て釣り合うとは思えないし。

今度どこかで聞いてみようかな。変に俺に何か期待されていても困るし。



 もうすぐGWだ。何とかそこまで騙し騙しで引っ張って休みに逃げ込むしかない。


 はぁと溜息をしながら窓の外を見る。良太はテニス部に入ったらしい。今日から参加だと言っていた。若菜どうするのかな。俺どうしよう。


「雫」


 俺が一番聞きたくない声が背中から聞こえて来た。聞こえなかったように無視をする。

 声の主は閲覧席の机に腰を少し掛けると絹の様にきめ細やかな素敵な太腿がちらりと目に入る。

くっ、目の毒だ。中学時代からスタイルの良さは際立っていた。



「雫、返事をしてくれてもいいじゃない」

「もう別れた。っていうか俺を振ったんだ。他の男のとこへ行けばいい」

「他の男なんていないわ。私は雫だけよ」

「何言っているんだ。あの時はっきりお前は言ったじゃないか。別れましょうって」


「あれは、その時の…………」

「冗談じゃない。どれだけの辛い思いをしたと思っているんだ」

「だからもうしなくていいわ。また元に戻りましょう」

「ふざけるな」


「そこの二人静かにして下さい」

「「済みません」」

図書委員に怒られてしまった。


「雫、出ましょう」


 俺に声を掛けて来たのは東条優里奈。頭が良く、この高校で新入生代表答辞を行っている。つまり入試が最優秀だったという事だ。その上、超が付く美人。


 髪の毛が腰まであり切れ長でスッとした鼻、可愛い唇、細面で胸も出ていてスタイルは抜群だ。

 早瀬と同じように見えるが、その表情には冷たさ感じる。美しさという面では早瀬に引けを取らない。


 ただ、人に対する対応が冷徹で中学時代から氷の美少女と呼ばれていた。早瀬と対極だ。

本当は違うのだが。


 俺と中学三年の時、三ヶ月だけつき合った。俺から告白したが、彼女も俺を好きだと言ってくれた。


こいつと付き合っている時だけは、若菜は口を挟まなかった。理由は分からない。


 別れた理由は他愛無い事だった。だが俺には精神的なショックが大きかった。それからというもの口もきいていない。スマホもブロックした。


俺達は、仕方なく廊下に出た。俺はそのまま帰ろうとすると

「待って雫」

制服の裾を引っ張られた。

「離してくれ。俺には話す事等ない」

「雫聞いて。お願いだから」

「…………」


「私があの時、別れましょうと言ったのは、別に雫が嫌いになった訳じゃない。他に好きな人が出来た訳じゃない。ちょっとその時、気持ちが良くなくてそのままデート続けたら迷惑掛けると思ったから、その時だけ別れましょうって」

「じゃあ、なんであんなひどい事言ったんだ」

「ごめんなさい。頭がふらふらしていて」

「もっと上手い言い訳しろよ」

「本当なんだから。言い訳じゃない」

「…………。とにかく今日は帰る。急にそっちの都合でよりを戻したいと言われても困る。じゃあな」


「雫…………」


 中学三年の春、彼から告白してくれた。私も彼に気持ちが有ったが、もし断られたらと思うと出来なかった。でも告白された時、私も何回もいい直して好きと彼に言った。


 私は人付き合いが苦手だ。人の言う事を直ぐにうまく返せない。考えている内に相手にされなくなる。ツンとしているとか、気取っているとか言われてしまう。


 でも彼だけは違った。私が言葉を言うまでずっと待ってくれた。そして私の言う事を絶対に否定しない。彼と居ると心が和んだ。ずっと側に居たいと思った。


 だから彼を離したくなかった。でもあの時、本当に体調が悪かったけど、大切なデートなので無理に行ったら、結局デートは中止。


その時別れましょうと言った後、その理由が全く自分でも理解出来ない言葉だった。


『あなたと会えない別れましょう。気持ち悪い早く帰って』


意味が違うのに。間に大切な言葉が入っていない。彼はその言葉を聞いて直ぐに帰って行った。

それ以来、スマホもブロックされて、連絡が出来なかった。スマホならうまく言えたのに。


 雫、今でもあなたの事が好き。だから諦めない。あなたがここの高校に入って来た時、天啓と思った。このチャンスは逃さない。絶対に私は彼と一緒になる。


 下坂若菜さえ何とかすればと思っていたが、今日、正確には昨日の帰宅時間から早瀬真理香が彼に寄って来た。何とかしないと。




俺は、東条優里奈と別れた後、一人で家に帰った。今日は疲れた。自分の部屋に入り着替えもしないでベッドに突っ込んだ。


スマホが鳴った。若菜だ。


『雫、今家の前開けて』

えっ、開けない訳にはいかないか。


ピンポーン


「お兄ちゃん、若菜お姉ちゃんが来てるよ。早く入れてあげなよ」

「分かった」


ドアを開けるといきなり

「雫、どう言う事、早瀬さんと何が有ったの」


はあ、俺休みたいのに。




―――――

第7回カクヨムコン応募中。アクセスご評価頂けると大変ありがたく思います。


ふむ、神城君。説明責任ありますね。頑張って。


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。



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