第46話 東条優里奈の婚約
東条優里奈は、父、東条玄信から呼ばれ今母屋の奥にある父の書斎にいた。
普段、優里奈が父と会う事はほとんどない。同じ母屋に居るというのに母とお手伝いとの生活だ。
「優里奈、どうだ学校生活は」
「はい、不自由なく過ごしております」
「中学の頃の様な事はないか」
「はい、学友にも恵まれ楽しく過ごしております」
「そうか、今日呼んだのは他でもない。お前に見合い話が有ってな」
「えっ!」
「一度会って見てくれないか。気に入らなければそれでいい」
「しかし…………」
「どうした。会うだけだぞ」
「私には、心に決めた人がいます」
「ほう、誰だ」
「それは…………」
「なぜ言えない。本当はいないのではないか」
「い、いえいます」
「それでは、ここに連れてくるが良い。見合いの相手とその男とどちらがお前に相応しいか私が見極めよう」
「……分かりました」
「日付は追って連絡する。都合つくようにしておけ」
「はい」
私は、いつもの様に高校の有る駅で雫を待っている。もうすぐ下坂さんと改札を出て来る頃だ。私の隣には早瀬さんも居る。
いつもの挨拶を交わした後、学校に行った。私、下坂さん、早瀬さんは、雫の後ろを歩く。約束された事だ。
雫の為に三人で決めた事は多い。だから父の依頼を伝えるのは難しい。私は、父から言われた後、考えた。言うとしたらあの時しかない。
今日も授業が終わった。
「雫さん、今日は水やりですね。私も図書室の当番なのでお時間が合えば一緒に帰りたいのですが」
「いいよ。でも真理香の方が遅いんじゃないか」
「そうでしたね♡」
下坂さんは今日は雫が水やりの日だと知っているからか顔を見せに来ない。私としては助かるけど。
「雫行こう」
「うん」
私は水やりをしながら彼に話しかけた。
「雫、もう来週からは昼の水やりだけでいいわ。陽も短くなって来たし、土の渇きもゆっくりだから」
「そうか」
「ところで雫お願いがあるのだけど、今日の帰り話す時間ない?」
「うん、良いけど」
俺達は水やりの後、まだ陽もあるので近くに公園に行った。ベンチに座ると
「優里奈、何話って?」
「…………」
「どうしたんだ。話にくい事なのか」
優里奈が頭を縦に振る。
少しの後
「雫、私のお父様に会って欲しい」
「えっ!なんで急に」
「私、お父様からお見合いの話をされたの。……それでもう心に決めた人がいると言ったら連れてこいと言われて」
「…………。優里奈それって、俺がお見合い相手の代りになるって事だよね。つまり婚約者って事?」
「そうではないの。雫を見てお父様がその婚約者とどちらが私に相応しいか見極めると言って」
「うーん、なんか気乗りしないな。俺人に品定めされる様な事されたくないし」
「雫、ごめんなさい。本当にごめんなさい。でも私見合いしたくない。私は雫と決めているの。だからお父様に会って」
「俺、まだ何も決めて無いよ。優里奈ことは好きだよ。でも結婚とかまだ考えられない」
「分かります。でもこのままではお見合いをしなくてはいけないの」
「断れないの?」
優里奈は首を横に振った。
優里奈とは今後どうなるか分からないけど今の寂しそうな顔見るのはいやだ。
「分かった会うよ優里奈の為に。でも俺まだ優里奈に決めてない事ははっきり言うけどいい」
「……分かった。ありがとう」
えっ、雫が東条さんのお父様と会うの?!どういう事。でもあの様子。何か意味ありの様な。でもいつとか言ってなかったわよね。
今日の放課後、私が雫の教室に行かなかったのは、彼が水やりの日だという事と友達と話をしていたから。
少し遅くなったので水やりの終わった雫と一緒に帰ろうと思ったら何やら意味深の二人が歩いている。案の定公園に寄った。
隠れて聞いていたら東条さんが大変な事を言っている。見逃すか追及するかどうしよう。でもここで私が出て行く雰囲気ではなさそう。ここは様子見するか。
俺は翌々週の日曜日。優里奈の家に行く事にした。優里奈からは駅で待っていて欲しいと言われている。歩いても十分程なんだけどな。
約束の午前十時になると駅前に黒の頑丈そうな車が現れた。人魚がお辞儀している飾りがボンネットの先頭についている。
車が止まると後部座席のドアが開いて
「雫、乗って」
「えっ、これに?!」
「早く乗って、人に見られたくない」
「わ、分かった」
急いで乗ると
「ごめんなさい。これで家に行く」
「…………」
どういうことなんだろう。歩いて行けばいいだけなのに。
優里奈の家も大きい。真理香の所とは違って、日本の屋敷と言う感じだ。門の前の車止めに止まると外に居るサングラスを掛けた男の人がドアを開けた。
そのまま、二人で降りるとそのまま男の人について行く。あれ、右手首が包帯を巻いて固定されている。まさかな。
玄関でサングラスを掛けた人が二人両脇に立っている。一度しか来ていないけどあの時はまだ中学生で優里奈の家に遊びに来たという感じだった。今日はなんか厳重。
俺達は玄関を通るとそのまま廊下を通って中庭を過ぎて奥の襖のある部屋の前で止まった。
サングラスの男が襖の横にずれてお辞儀をしている。
「お父様、参りました」
「入れ」
優里奈が襖を開けると俺も一緒に入った。サングラスの男が襖を閉める。
和式の部屋に大きな黒塗りのテーブルが有って向こう側に男の人が座っている。後ろには本棚やローテーブルが置かれていた。
俺と優里奈はその男の人と向い合せに座るよう言われた。
「お父様、来て頂きました。この方が神城雫さんです」
髪の毛は白いものが混じっているがきっちりとまとめられている。体ががっしりしていて身長は俺より少し大きい。眼光が鋭い。じっと俺を見据えたままだ。
俺も相手の目を見ている。隙がない事が直ぐに分かる。結構強いな。色々考えながら見ていると
「君が神城総一郎殿の孫か」
「えっ、お父様、なぜその事を」
「お前が神城殿の屋敷に行った時、言っていなかったか。私の事を知っていると」
「そう言えば、私の事を東条殿の娘殿と呼んでいました」
「神城殿とは色々と縁が有ってな。しかしその孫殿が優里奈の婿候補とは」
「えっ、優里奈どういう事。婿って何?」
「雫ごめんなさい。お父様の勘違いです」
「優里奈どういう事だ。もうお互い名前呼び迄している仲の様だが」
「お父様、今日彼はお会いして頂くだけです。婿の件とか何も話していません」
「どういう事だ。お前が今回の見合いを断って神城君と連添うなら私も良いと思うがそれが叶わなければ、他の者を婿に入れるのは当たり前ではないか」
「お父様、お話が違います。今日は彼とお会いして雫の人となりを見て頂き、お父様が考えているお見合いの人とどちらが相応しいか見極めるというお話のはずです」
「その通りだ。だが、優里奈にいくら思いが有っても神城君が婿に入る気持ちが無かったら意味がないぞ」
「雫…………」
優里奈が俺の方を縋る様な目で見て来た。
「優里奈のお父さん、俺は優里奈が好きだ。だがまだ高校一年生だ。今の俺に将来の結婚の約束なんて責任は取れない。今約束しても守れないかも知れない約束はしない」
そう言って俺は優里奈のお父さんの目をしっかりと見た。
「雫…………」
…………。
「ほほほっ、さすが神城殿の孫だ。気に入った。過日の事といい、優里奈に申し分のない男と言える。
君が成人になって優里奈を妻としてくれることを楽しみにしている。そうだ、謝らなければならない事がある。お前達!」
襖が開いて三人の男が入って来た。一人は先程右手首を包帯で固定した男、もう一人は頭に包帯を巻いた男、そしてもう一人は、何故か歩き方がおかしい男だ。
「あっ、あの時の!」
「「「神城様、申し訳ございません」」」
畳に頭を擦り付けて謝って来た。
「神城君、申し訳ない。娘から山での事を聞いて、私も君の器量を見て見たくなったのだ。そこで頭を下げているのは、うちでも四天王と呼ばれた男達の内の三人でな。まさか目にも止まらない内に倒されるとは思わなかったよ。まずはこの通りだ。申し訳ない」
優里奈のお父さんが頭を下げている。
俺は三人の方を見て
「あの、手は十分抜いたつもりなんですけど大丈夫でした?」
「「「!!!!!」」」
三人の顔が青ざめて来た。
「神城君、あれは手を抜いていたのか」
「はい、人には十分の一位しか力を入れてはいけないと爺ちゃんからの言いつけです」
三人共泡を吹いて気絶した。
「…………。優里奈。お父さんから頼みがある。神城君を離すでないぞ」
「お父様分かっております」
この後、久しぶりに優里奈の部屋に行った。いつ見ても大きな和風の部屋だ。
「優里奈。もう少し気を付けて言えば良かったかな」
「ふふふっ、あれで良いわ。お父様も少しは雫の事理解したみたいだから。それより雫…………」
「今日は駄目。障子に目ありじゃないけれど。この部屋監視カメラだらけだから」
「えっ、もうお父様は!」
―――――
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何とか危機を切り抜けた優里奈でした。
ちなみに優里奈のお父さんとは、
父東条玄信は東条家第十二代当主。東条家は武士の時代から草の者とは別に主君を守る役目を担い、その流れで今でも武士の時代から受け継がれている名家の当主の警護の他、世界中の要人の警護を行っている。
但しその存在は表ではなく裏の話。神城一族が表の警護だとすれば東条家は裏の警護を行う。
当然各国政府公安組織情報部との繋がりは強く、敵対する国のそれぞれの要人も警護している。
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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