第85話 幼馴染と親戚と


「雫、私の家に行こう」

「優里奈、今日はお話だけにしないか?」

 行けばしてしまうというのは、あまり宜しくない気がする。優里奈とするのは嫌いじゃない。気持ちいいし、でもある程度節操持つから嬉しさもあると思う。


「雫は、私に飽きたの?」

「そんな事ある訳ない。でも会ったらするっていうのはやっぱり」

「やっぱり私に飽きたんだ」

 寂しそうな目で俺をみる。


「原因は紗友里?」

「なんで紗友里が出て来るの?」

「だって、紗友里私よりスタイル良いし。雫だって気になるんでしょ」

「優里奈!今度そんな事言ったら怒るよ。体だけで選ぶ訳ないだろう。優里奈は俺に優しいし、スタイルだってめちゃくちゃいいし、笑顔だって可愛いし、料理だってうまいし、あの時だって……。でも俺はスタイルで付き合う人を選んでなんかいない」


 雫が本気で言ってくれている。確かに私もただ不安だけで雫を求めていたのかもしれない。ここまで言ってくれるなら。それにまだ分からないけどもしかしたらお腹の中に。


「ごめんなさい。でも雫の周りにはいつも素敵な人が一杯いるのに紗友里まで来るなんて。不安で仕方ない」

「だからって会ったらいつでもするのは止めようよ」

「分かったわ」


 今日は優里奈の家に行く途中の喫茶店で話だけした後、優里奈を家まで送って別れた。




家に戻ると

「ただいま」


タタタッ。


「お兄ちゃん、紗友里お姉ちゃんと若菜お姉ちゃんが大変」

「えっ?」


 俺は急いでリビングに行くといない。ダイニングにもいない。まさか!

急いで二階に上がると俺の部屋で二人が睨み合っていた。


「どうしたんだ。若菜、紗友里?」


「雫、どうもこうもない。私が家に帰って雫の部屋で帰って来るのを待っていようとしたら、この人が雫の部屋を漁っていたの。だから止めたら……」


「何を言っているんです。そもそも人の家に勝手に上り込んで雫様の部屋に来ること自体おかしいです」


「私は花音ちゃんに玄関開けて貰ったの。それに雫の部屋に来るのは当たり前になっている。それこそあなたはどういうつもりで雫の部屋漁っているのよ」


「漁って等おりません。少しでも整理しようとしていただけです」


「とにかく、二人とも落着いて座って。俺手洗いとうがいしてくるから」


 どうなっているんだ?俺は洗面所で気持ちを落ち着けると部屋に戻った。さっきのまま睨み合っている。


「二人共誤解あるようだから。まず紗友里、若菜が俺の部屋に来るのは別におかしい事じゃないんだ。両親も許している。だから今ここにいるのは問題ない事だ」

「ほら見なさいよ」


「若菜!そう言い方は無し。若菜、紗友里は高校卒業までこの家にいる。二階の客間を自分の部屋として使う。これは俺の両親と爺ちゃん、紗友里の両親が決めた事なんだ」

「高校卒業まで!!」


 なんという事だ。隣の家という距離が絶対的と思っていたら、まさか同じ家の同じ階に住むなんて。不味い。不味い。不味い。


「ふふっ、下坂さんそういう事です。だから雫様の面倒も見るのは私の役目です」

「紗友里それはいらない!」

「でも」


「でもじゃない。紗友里、若菜は同じ病院で同じ日に生まれ幼稚園、小学校、中学校、高校とずっと一緒なんだ。だから今日の事も不思議じゃない。そう理解してくれ」

 若菜がどうだという顔をしている。


「若菜、紗友里は住まいこそ奈良だけど、爺ちゃんと紗友里のお爺ちゃんが親戚同士でね。小さい頃から知っている。

紗友里のお母さんは今のお父さん柚原さんと結婚して性が変わったけど、旧姓は榊原と言う訳。それから紗友里が生まれた。

俺も何度か遊びに行っているし、紗友里も何度かこちらに来ている。そう言う意味では紗友里も幼い頃から知っている仲なんだ。だから二人とも仲良くしてくれると嬉しい」


「雫様がそう仰るなら。でも雫様の部屋に勝手に入って来るのは…………」

「雫、私もよ。この人が勝手に雫の部屋に入って来るのは許せないわ」

「なら、二人共もう入らない様にしてくれればいいよ」

 俺の安眠が約束される。


「「駄目です!!」」

「へっ?!どして?」


「休日雫を起こすのは昔から私の役目よ」

「何を言っています。これからは私が雫様を起こします。毎日!下坂さん来なくても結構です」

「何ですって!雫私この人と仲良く出来ない」

「雫様私もです」


 参ったなあ。どうすりゃいいんだ。


コンコン。


ガチャ。


「若菜お姉ちゃん、紗友里お姉ちゃん。二人共しなくていいよ。お兄ちゃんは私が起こすから」

「花音、こじれるから話に入らないで」

「なーんだ。つまんない。私も話に入りたい」

「駄目。花音は自分の部屋に行っていて」

「はーい」


 これで妹が入ったら収拾がつかなくなる……。うんっ。でもそれ良いかも。花音も我儘だけどこの二人に起こされるよりは危険が少ない。


「花音、ちょっと部屋に行くの待って。

 若菜、紗友里。朝は俺一人で起きる様にするけど休日は花音にする。そうすれば二人共揉めないし」

「やったー!」


 ここはいったん引くしかない様ね。

「雫、分かった」


 これ以上話して雫様の印象を悪くしても仕方ないわ。

「雫様、分かりました」


「花音も調子に乗って毎日来なくても良いからね。普段はお兄ちゃん普通に起きているから」

「うん、分かっている」


 これから先どうなるんだ。


―――――


 これは大変です。


次回をお楽しみに。


この作品と並行して下記の作品も投稿しています。読んで頂ければ幸いです。

「九条君は告白されたい。いや告白はあなたからして(旧題:告白はあなたから)」

https://kakuyomu.jp/works/16816927860661241074


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る