第42話 文化祭の前に


 二学期が始まりあっという間に九月が駆け抜けようとしている。


 俺の日常は特にいつもと変りなかった。有るとすれば、俺の席の前に座る琴平さんが何かにつけて話しかけ俺を誘って来るので、優里奈と真理香がその度に彼女と睨み合っていた事だ。出来れば仲良くして欲しい。


 朝の予鈴が鳴り、若菜が自分の教室に戻ると程なくして担任の願力先生が入って来た。


「皆さんおはよう。今日は文化祭について連絡がある。来月第二週の土日に文化祭が開催される。皆で出し物を決めてくれ。

 出し物が決まったら実行計画と予算を生徒会に出す様に。学級委員、前に出て始めてくれ」


 願力先生の指示で学級委員の男女二人が出ると出し物の候補が上がり始めた。俺は文化祭とかには興味ない方なので、クラスで決めたやつを一緒にやればいいという事にしている。


「雫さん、何か希望有ります」

真理香が声を掛けて来た。


「いや特に。決まったものに協力するだけ」

「真理香、何かしたい事あるの」

「私も特には。東条さん、何かあります」

「私もない。個人的に嫌な物は有るけど」

「嫌な物?」

「メイド喫茶とか」

「そうですね。私も嫌です」


「でも、二人り共見てよ。メイド喫茶の票が多いよ」

「「…………」」


黒板の前で学級委員が

「皆さん、メイド喫茶賛成多数で決まりました。生徒会が最終的に決めるので、まだ分かりませんが、これを行う方向で考えたいと思います」


パチパチパチ。

男子は全員喜んでいるが、一部の女子が嫌な顔をしている。


 メイド喫茶か。確かに真理香や優里奈が着たら似合うかものな。あれっ、何故か皆こっちを見ている。


学級委員が

「早瀬さん、東条さんぜひメイドさんお願いします」

「えっ!いえ私はそういう事には向いていなくて」

「私もです」

「早瀬さん、東条さんがメイドをして頂ければ、売上が保証されます。ぜひお願いします」

「「…………」」


「男は川平さんもですね」

「えっ、俺も。だったら雫も」

「おい!俺を巻き添えにするな」

「良いじゃないか雫。俺達親友だろう。いつも一緒だぜ。雫だっていつも言っているだろう」

こいつ、普段俺が言っている事を利用しやがって。


「では、女子生徒と男子生徒が半数ずつ交代でメイドと裏方を割り振りましょう」

全く、学級委員はサラッと流しやがって。


やがて、ロングホームルームも終わり、文化祭の出し物が決まって中休みに入ると

「神城君」


例の神林生徒会長と聰明副会長がやって来た。

「君に文化祭の時お願いしたい事がある。今日の放課後、生徒会室に来てくれないか」

「はい?まあいいですけど」

「では待っている」


それだけ言うと潮が引く様に去って行った。

「何だあれ。雫心当たりあるか」

「良太、俺に生徒会に縁が有ると思うか?」

「無いよな」





 授業も終わり、俺は一人で生徒会室に行こうとしたが、あれっ生徒会室って何処にあるんだ。仕方なく

「優里奈、生徒会室って何処にあるの?」

「雫は縁が無いから仕方ないわね。私が案内してあげる。行きましょう」


何故か真理香も付いて来た。


「ここよ。私は廊下で待っているわ」

「でも、どの位掛かるか分からないぞ。先に帰っておいてくれ」

「雫さん、私もここで待ちます」

「えっ、真理香も?分かった。じゃあ入るね」



 ガラッとドアを開けると生徒会会長、副会長の他に数人の人が机に向って何かしていた。

「神城君か良く来てくれた。そこに座ってくれ」


「今日来てもらったのは他でもない。文化祭が来月第二週の土日に開催されるが、来訪者は、学校外部からも来る。中には良からぬ考えや意図的に悪戯をしようとする者もいる。 

 そこで君に生徒側の警護の責任者と言っても実務上のだが、責任者になって貰い、不測の事態を未然に防いで貰いたい。やって貰えないだろうか」


「いや、いきなり言われても。何が何だか分かりません。そういう事って外部業者がやるんじゃないんですか。それに俺一人じゃどうにもならないですよ」


「もちろん、学校の出入り口は民間の業者に委託しているが、校舎内やグラウンドなどの催し物まで頼むわけにはいかないんだ」


「でも、俺はクラスの役目もあるし」

「それはこちらで調整させてもらう」


「俺一人で決められないのでクラスの人と相談します。せっかくの高校始めての文化祭ですから俺も楽しみたいです」


「確かに。分かった。返事は後日と言っても明後日位までにくれると嬉しい」

「分かりました」


俺はお辞儀をしてから生徒会室を出た。


「会長、あれが噂の強者ですか?」

「そうだ。それにそれだけではない。あの子は神城綜合警備保障の会長のお孫さんでもある」

「えっ、うちの学校も頼んでいる、神城綜合警備保障ですか?」

「そうだ」


 神城君、私の友人が山の中で君を見たそうだよ。私もそれを見たくなってね。チャンスが無い方が良い事ではあるけど。



 俺は生徒会室を出ると待っていた優里奈と真理香に生徒会長から頼まれた事を話した。


「雫さん、それってただで文化祭のセキュリティしろって事ですよね。おかしいのではないですか」

「そうよ雫。そんな事断って私達と文化祭楽しみましょう」

「雫さん、私もそう思います」

「うーん、取敢えず学級委員と相談してみるよ。俺も良太と一緒に楽しみたいし」


 結局、メイドはやらず、裏方を土曜日の午前中だけ手伝う事になった。その時点では、まだ来訪者も少ないだろうから。あまり役に立ちそうもないけど。


―――――

第7回カクヨムコン応募中。アクセスご評価頂けると大変ありがたく思います。

文化祭が楽しみです。


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

  

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