第43話 文化祭の初日
今日は文化祭。俺はいつもより少し早めに家を出た。例によって俺が家を出ると若菜も玄関を出てくる。
「雫おはよ」
「おはよ若菜」
「雫は構内循環警備するんだって」
「うん、なぜかそうなった。まあ、何も無ければ文化祭楽しめるんだけどな」
「そうだね。でも雫らしいじゃない」
「いや、俺は何も無いよ。若菜たちのお陰で少し成績が良くなっただけじゃないか」
「ふふっ、そうかな。まあいいや」
「若菜の所の準備はもう出来たのか。大変そうだけど」
「うんまあね。でもまさかお化け屋敷とは。想定外だったわ」
「それも面白そうじゃないか。若菜は何をするんだ。」
「受付。私がいると集まりが良いって言われて」
「うん、それは言えるな。若菜可愛いからな」
彼女の方を見て言うと
「いきなり言わないでよ。もーっ」
顔を赤くして下を向いてしまった。本当の事言っているだけなんだけど。
学校の最寄りの駅に着くと、いつもの様に優里奈と真理香が待っていた。
「おはようございます。雫さん、下坂さん」
「おはよ雫、下坂さん」
「おはよ真理香、優里奈」
「おはようございます。早瀬さん、東条さん」
真理香はあの時の約束を守る様に、あの後は要求してこなかった。あういう事は、やはりきちんとした仲になってからにしたい。
優里奈は、月一回位で誘われる。俺も彼女に対しては抵抗が薄れている。仕方ないのかな。
若菜も要求しなくなった代わりに二人でいる時の密着が多くなった気がする。本人はそんな事ないよと言っているけど。
この三人の誰を選ぶなんて俺にはまだ全然分からない。もしかしたら三人とも俺に愛想尽いて離れていくかもしれないし。それはそれで寂しいけど。
「雫、学校着くよ。何考え事しているの」
若菜は後ろ歩いていても分かるか?
下駄箱で履き替えると教室へ行った。ほとんどの人が教室の中に居た。
「みんな、開始まであと二十分。準備して待ちましょう」
女の子の学級委員が元気な声を出している。午前中メイドする子は、着替え室に行ったようだ。
「雫さんに見て貰えなくて残念です」
「雫私もよ」
「真理香は今日の午後からだろう、優里奈も明日の午後からだろう。合間に見に来るよ」
「うん、そうして」
「お願いします」
俺達は裏方だ。優里奈と真理香は午前中はフリーらしい。二人で文化祭を回るようだ。
構内放送が始まった。
「レディースアンドジェントルマン。大竹高校の生徒達。これから第八十七回大竹祭の開始だー。楽しもうぜ!」
「「「「おーっ!」」」」
クラスも盛り上がっている。でも、生徒会長、キャラ違うくないか?
俺も早速、エプロンを付けると裏に入る前に隣のクラスを見た。若菜が入り口にのぼりを出している。
「若菜がんばれよ」
「あっ、雫もね」
思い切り可愛い笑顔を見せてくれた。
開始直後は、注文もまばらだったが、十時を回った頃から忙しくなり始めた。俺はコーヒー作成係。コーヒーメーカー三つを使って言われた通りに淹れていくが、提供がぎりぎりだ。
「神城、コーヒー三つ。宜しく」
「おう」
「神城コーヒー二つ」
「おう」
中々忙しいもんだな。また注文が来た。
「神城コーヒー二つ。お前が淹れてくれたコーヒー評判いいぞ」
「そ、そうか」
俺は言われた通りにしているだけなのだが。
約束の十二時になると
「神城交代だ。ご苦労さん」
「おう」
エプロンを丁寧にたたんで、椅子の背もたれに置くとそのまま後ろのドアから出て行った。
昼飯は生徒会室で用意していると言われたので行ってみると
「神城君か。昼は用意してある。食べてくれ」
何故か、豪華な幕の内弁当だ。
「これいいんですか」
「そうだ。二つ食べてもいいぞ」
「いえ、一つ貰います」
ゆっくり食べていると聡明奏生徒会副会長が
「神城君、これ生徒会巡回の腕章。これ付けて私と一緒に回りましょう」
「副会長とですか」
「神城君。その副会長は止めて。私も聡明という名前が有るから。あっ、奏(かなで)でも良いわよ」
吹き出しそうになった。何言っているんだこの人。
「いえ、聰明先輩で良いですよね」
なぜか、会長がニコニコしている。
午後一時、校舎内から回り始めた。一年のクラスから中に入って一通り見て回る。
「聰明先輩、ここも入って見るんですか」
「当たり前です。規則に違反していないか見るのも生徒会の役目です」
「そうですか」
なぜか、若菜がジッと睨んでいる。
中に入るといきなり聰明先輩が腕を掴んで来た。
「聰明先輩」
「あの、こういう所は腕を組んで歩くものでしょう」
「そ、そうなんですか」
その後は何か出るたびに思い切り俺の腕を掴んで来た。その度に思い切り先輩の二つのお山がムニュグニュと当たる。これ精神的に辛い。
お化け屋敷を出たのにまだ掴んでいる。
「あの先輩。腕」
「あ、ああ。もう確認は終わりましたね。うん何も問題ありませんでした」
先輩の方が何か変だけど。
その後、二年生の教室、三年生の教室を回った。例の二年D組にあの三人はいなかった。
体育館でもイベントを行っていたが、特に何も問題なかった。女の子の声がキャーキャーと凄かったけど。
「神城君、グラウンドを見ましょう」
「はい」
大竹高校のグラウンドは、野球、サッカー、陸上が別々にある。最初に陸上部のトラックの真ん中で行われているステージに行くと何やら騒がしい。
「神城君!」
「はい」
駆けつけるとステージの前で歌を歌っている女の子に文句を付けている様だ。並べられている椅子なども荒らされている。
「君達止めなさい」
「おうや、生徒会副会長様かい。如何したんですか?」
「せっかくのイベントを邪魔しない!」
「俺達は何もしていないよ。この下手な女にブーイングしているだけだ」
ステージを見ると女の子が涙している。好きじゃないなこいつら。
「おい、お前達。副会長様にご挨拶しろ」
「あの、あの兄貴あいつです」
「うん、誰だ。このボケは」
「こいつですよ。俺達が一瞬でやられた」
「ふん」
どうも三年生が二人、二年D組の馬鹿が三人でいる様だ。少し酒の匂いもする。
俺に近付いて横を見るといきなり殴りかかって来た。お粗末だ。
「ぐえっ」
顔を押さえている。顔の骨は折れない様にしたけど。
もう一人の三年生が思い切り俺につかみかかって来た。馬鹿か。
「えっ、どこに行ったあいつ」
後ろから急所を蹴ってやった。軽くだけど。
「ぐえっ」
こっちは股を両手で押さえて動けない。
「先輩達、やる?」
「い、いえ」
何故か手を上げている。俺銃とか持っていないよ。
「おい、お前達何している」
聰明先輩が連絡したようだ。先生と腕章をつけた警備員数人が駆け付けた。
「大丈夫だったか」
「えっ、まあ」
「神城、この二人お前がやったのか」
「済みません。手は抜いたのですが」
ステージの子が降りて来た。
「先生、この人凄すぎです。一人倒すのに0.1秒かかっていないんです。二人目の時なんか。私この人の動きが見えなかった」
「うん、そうだ。俺も見えなかった」
「「「俺も」」」
「聰明先輩、早く行きましょう」
「あの、ありがとうございます。名前教えてください」
「神城だけど」
「えーっ、あの噂の」
「先輩やばい、行こう」
「そ、そうね」
去り際に警備員の人達が俺にお辞儀をしていた。爺ちゃんの所の人かな?
それから、他の所も見て回ったが、特に問題がなかったので、聰明先輩に言ってそのまま自分の教室へ向かった。確か真理香がメイドしているはず。
急いで行くと
「あっ、雫さん。待っていました。もう来ないのかと思って着替えようかと思っていたところです」
「良かった。俺も真理香の姿見たくて」
「ふふっ、嬉しい。どうですか。似合いますか」
「うん、とても似合って可愛いよ」
「嬉しい」
真理香が抱き着いて来た。
「ちょ、ちょっと。駄目」
優里奈が真理香を俺から引きはがした。
「場所考えなさいよ。周りを見てごらん」
真理香が顔を真っ赤にして下を向いてしまった。周りの生徒が目を丸くしている。男子生徒からの視線が痛い。
平穏な?文化祭初日も終わり四人で帰路についた。
「雫、お疲れ様。グラウンドでやったんだって」
「えっ、もう若菜の耳に入っているの」
「雫さん、私も聞きました」
「雫、私も」
「向こうは大丈夫だったの?」
「力加減はしたから。って、俺の心配は?」
「ふふっ、心配して欲しい?私の胸に飛び込んできたら思い切り心配してあげる」
「下坂さん、ずるいです。雫さん私の胸にも」
「雫、私の胸にもよ」
「お、俺用事思い出した」
サッと俺は駅に向かって駆け出した。
「あーあ、下坂さんが変なこと言うから雫さん行ってしまいましたよ」
「早瀬さんだって」
「ふふっ、雫可愛いわね」
「何その余裕」
「別にー」
ふふっ、雫は私のものよ。お二人には渡さないわ。
雫さんは、譲りません。
もうこの二人は。雫早く私を…………。
―――――
第7回カクヨムコン応募中。アクセスご評価頂けると大変ありがたく思います。
文化祭初日でこれですか。明日はどうなる事やら。
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます