第71話 琴平さん危うし


GWに入る前の話です。


―――――


 私琴平まどかはバレーボール部に入っている。中学からやっていたので自然と高校に入ってからもこのクラブに入った。


 私も二年生になり、先輩達と一緒に新しく入学した一年生の勧誘をしなければいけない。この部は男女別れてはいるが基本一つのクラブだ。別々に勧誘するが、クラブ全体としては一つになって勧誘する。


 今も見に来ている一年生に入って貰う為、練習風景を見せている。


「どうだ琴平。女子は集まりそうか」

「あっ、後藤先輩。中学時代からやっていた子は入って貰えそうですが、他の子達はまだ分かりません」


「そうか、頼むぞ。琴平みたいに優秀な新人が取れると良いんだがな」

「後藤先輩、褒めても何も出ませんよ」

「ははは、まあな」

何しに来たんだろう。勧誘の話なら他の先輩に声掛ければいいのに。


 今日は、中学時代バレーボールをやっていた女の子二人の入部確認が出来た。まだ日にちが有るから大丈夫だと思うけど。でもまあ、私の責任じゃないから。


 

 残り二週間。今日も放課後、部室で着替えていると


「琴平さん、今日部活終わったら皆で新人勧誘の作戦会議を開きたいの。良いかな」

「今日ですか。いいですよ」

「じゃ、部活終わったらここに集合」

「はい、あの何人くらい来るんですか」

「うーん、二年生と三年の一部かな」

「分かりました」


何か気が入っていないような気がする。


練習が終わり体育館脇にある部室で待っていると


「皆集まったか」

「あっ、後藤先輩。誰も来ていません」

「どういう事だ。琴平悪いがそっちの部長に連絡して見てくれ。放課後だからスマホ大丈夫だろう。俺はこっちの部長に連絡する」


「部長、琴平です。今日新人勧誘の作戦会議ですよね」

「あっ、ごめん。今日出れないわ。上手くやっておいて」

新人勧誘の作戦会議ってなあに?


「えーっ、そんな」


「琴平どうだった」

「出れないって言われました」

「そっちもか。どうなってんだ。二年も三年も集まらないじゃないか」

「後藤先輩、今日は中止しましょうよ」

「そうだな。帰るか」


良かった。二人じゃ嫌だからね。


私は鞄を取って入口に向おうとすると


ガチャ。

「えっ?!」


後藤先輩が入り口を背にしている。


「なあ、琴平。お前俺の事どう思っている?」

「先輩です。それだけですが」

「俺はな。お前の事が好きになってしまって。だから」

「止めて下さい」

手を掴まれそうになってサッと身を引くと横に退いた。


「さすがだな。二年でレギュラを掴むだけある。いいだろう」

「先輩、何いているんですか」


 掴まれた終わりだ。力が違い過ぎる。そうだこれだ。モップを手に持つと直線的についた。これなら。


「おい、何しているんだ」


一回目はよけられた。二回目に突いた時、モップ側を持たれてしまったので思い切りそのまま体重掛けて前へ押し出した。

「ぐわっ」


先輩がよろけたおかげで、入口のノブが見える様になった。そのまま、走り出そうとした時、足首を掴まれた。よろけそうになったが手をついて堪えた。でもこの格好だと。


「ははっ、そう簡単に逃げれると思うなよ。こっちからパンツ丸見えだな。いい尻しているぜ」


足首を掴んだ手を取ろうとしたが全く動かない。それどころか手も掴まれてしまった。

「観念しろよ。もう逃げられねえよ」


 そのまま押し倒されると苦し紛れに思い切り顔を引っ掻いてやった。ひるんだついでに目の周りも思い切り引っ掻く。

「馬鹿、止めろ」


 先輩が両手で顔を覆った隙を狙って体を起こすと部室のドアに思い切り体をぶつけて飛び出した。


「くそ、待ちやがれ」


 私は思い切り走る。走るだけなら負けない。だけど、先輩のが早かった。

「ふふっ、今度は逃がさないぜ」


 血だらけの顔で私を連れ戻そうとしたのでもう仕方ない。叶わないかも知れないけど。


「雫、助けてー!助けてー!」

大声で叫んだ。


「誰だ、それ?」


私は先輩の後ろに現れた人を見て微笑んだ。次の瞬間、先輩は気絶した。


「どうしたの琴平さん?」

聞いて来たのは東条さんだった。


「え、えっと。襲われた後藤先輩に」


 東条さんが先生を呼びに行ってくれてる間に

「大丈夫。琴平さん?」

「遅いんだから雫は!」

「えっ?!」


思い切り神城君に飛びついて泣いた。

「遅いよー。もっと早く来てよー」

「ちょっ、ちょっと」


「琴平さん何しているの。雫にそんな事しないでよ」

強引に離された。


 その後来た先生達に事情を話した。結局職員室に行かされてもう一度事情を聴かれた。後藤先輩は別室で聴取をされている様だ。



 職員室にいる間、神城君には待って貰った。一人で帰るのが怖かったからだ。東条さんには悪いけど駅までは三人で行って、家のある駅からは私と神城君の二人になった。


「神城君、ありがとう。……こんなんじゃ足りないね」

「琴平さん、別にいいよ。花壇の水やりが終わって優里奈と帰ろうとしたらいきなり名前呼ばれるから驚いたけど。でも何も無くて良かったね」


私はグイっと彼の腕を掴んで思い切り胸を押し付けた。

「お、おい」

「こうさせて。ねえ、今日の事あったけど、もし、もしだよ神城君が私の事……してくれてもいいよ。助けられなかったらとんでもない事になっていたんだから。あなただけ、私の初めてを貰う権利がある」

「……い、いや。駄目だよ。そんな大切な物」

「大切だから。あげても良いと思った人にあげたいの」

「…………」



いつもの信号に来ると

「家まで送って」

「分かった」


 信号を曲がって直ぐに私は彼の前に行ってちょっと背伸びして強引に唇を奪った。


「あなたは始めてじゃないかも知れないけど、私は初めて。

 もうここでいいよ。さっき行った事本当だから。いつでもいいよ。じゃあね。今日はありがとう」



 後々、聞いた話だが、新人勧誘作戦会議なんて元々なく、後藤先輩と女子部の先輩がグルになって私を貶める為の陰謀で、女子部の先輩が私の事を妬んでの事だったらしい。


 それから間もなくして後藤先輩と共犯の先輩女子は停学処分を受けた。今、私はバレーボール部に戻るか悩んでいる。


―――――


ふーむ、こうなるのって、雫の運命なんですかね。

次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


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