第72話 下駄箱にメモが


 私は下駄箱で一度雫と別れ上履きを取り出す為に蓋を開けると

又あるわ。こんなものおいて有ったって仕方ないのに。メモを手に取るとそのまま手の中でクチャッとさせてポケットに仕舞った。


「どうしたの東条さん」

下坂さんに見られてしまったようだ。


「ううん、何でもない」

「でも今白いメモが」

「気にしないで」



 次の日も入っている。同じ字だ。これで三日目しつこいな。仕方ない。

教室に行くと隣に座る雫に

「ねえ、雫お願いがある」


彼がこちらを向いて何という顔をすると

「これ見て。もう三日連続同じ字の人。仕方ないから行って断るけど、これだけしつこいからちょっと気になる。付いて来て」


「……付いて行っていいの?」

「これだけしつこいんだもの。何か有りそうで。ねえお願い」

「分かった。いつ?」

「今日の放課後」



 放課後になり、優里奈が先に行く。何故か、若菜と真理香と琴平さんも付いて来た。


優里奈が校舎裏に曲がった所で俺達は様子を見る。


「俺は三年の藤原健司。東条優里奈さん好きです。君が神城雫が好きだという事は知っています。でも俺にもチャンスが欲しい。友達からでいい。付き合って下さい」


「断ります。私は神城君だけです。他の人とお付き合いする気は全く有りません」


「神城は強いと聞いている。でも俺も剣道三段だ。俺があいつに勝ったら付き合ってくれ」


「無駄な事はしない方が良いわ」


「やってみないと分からないだろう。明日勝負する」

そう言うと俺達と反対方向に走って行った。呆れた顔して優里奈がこちらに歩いてくる。

結構イケメン、高身長の三年生だ。


「あっ、あの人剣道部の主将だよ」

「琴平さん本当?」

「うん、結構人気が有るらしい。悪い噂もあるけど」

「そうなんだ」


優里奈が俺達の所に戻って来た。

「ごめん雫。変な事になっちゃった」

「困ったな。あまりこういう事したくない」

「本当にごめん」


 東条さん付き合ってしまえばいいのに。そうすればライバルは早瀬さんだけ。最近琴平さんが積極的だけど、まだ雫の眼中にない。




 翌朝、教室に行くとざわついている。どうしたんだ。

教室に入って自分の席に行くと前の方から昨日優里奈に告白した人がやって来た。


「君が神城君か。俺は三年の藤原健司だ。俺は東条さんが好きだ。東条さんに相応しい男が君か俺か決着をつけたい。

 俺は剣道三段だ。君は強いと聞いている。俺は防具を付けて木刀を持つ。君も防具を付けて来てくれ。真剣勝負だ」


「「「きゃー。聞いた。真剣勝負だって」」」

「「東条さんをめぐる男達の争い。きゃーっ」」


「藤原先輩。あなたとその勝負する気は全くない」

「なんだと。では東条さんは俺が貰う」

「優里奈はものじゃない。本人の意思が大切だ」

「私は雫が好きです。愛してます。藤原さん諦めて下さい」


「きゃーっ、聞いた。東条さんはっきり言ったよ。好きです。愛してますって」

「聞いた。聞いた」

「東条さん積極的―!」

「でも早瀬さんも下坂さんも琴平さんも同じでしょ」

「そうなのよねー」


「神城、き、君はこんな綺麗な人たちを四人も騙しているのか?」

「はっ?!」

「「「「そんな事ない!!!!」」」」


「うわぁーっ、凄い。四人で公開告白だよ」

「駄目だー。私神城君好きだったのに」

「「「私もー」」」


えっ、俺そんなにモテたの?!


「とにかく今日放課後、剣道部道場で待っている。来てくれ。部員を放課後よこす」

「えっ、駄目ですよ」

藤原先輩いってしまったよ。


「雫、どうすんだ?」

「良太か。逃げようかな。だってこういう為に鍛錬している訳じゃないし」

「それは不味いだろ」

「良太、代わりに行ってくれ」

「馬鹿言うな。相手は剣道三段だぞ。かなう訳ない。仲裁も無理だ」

「先生に行って止めて貰うか」


がらがらがら。


桃神先生が入って来た。眼鏡をかけて金髪をキラキラさせている。

「はーい。皆さん何を騒いでいるんですか。HR始めますよー。席に着いて下さい」


 昼休み、剣道部の顧問に相談に行こうとしたが、職員室に居なかった。何故か柔道部の願力先生や空手部の顧問も居なかった。

どういう事?


 もう五限目だ。どうしようかな。絶対迷惑かけるし。剣道の防具ってどの位丈夫なのかな。壊したら弁償かな。


「雫、授業終わったわよ」

「えっ!」

「ほら、廊下で剣道部の子が待っている」

「はぁーっ」


 仕方なく、剣道部員に案内されて剣道部の道場に行った。四人共……だけじゃない。皆ついてくる。参ったな。


 

 道場に入ると神棚のある方向に藤代先輩が正座して防具を付けて座っている。周りは剣道部員かな。それにしては多い。あっ、柔道部や空手部の人もいる。


「神城君良く来てくれた。ルールは簡単だ。どちらかが一本取った方が勝ちだ」

立ち上がった。


「藤代先輩。お願いが有ります」

「なんだ。今更ハンデ欲しいなんて言わないよな」

「いえ、その防具を触ってもいいですか?」

「そんな事構わないが」

こいつ何考えているんだ。


 俺は剣道の防具の厚さと上部を確かめた。結構固いな。上手くできるかな。一つ聞いておくか。

「済みません。ここにAED置いてあります」

「あるがそれがどうした」

「いえ、確認だけです」

「では準備してくれ」

「いえ、これで良いです」

「これって、学生服のままじゃないか」

「大丈夫です」


「「「えーっ」」」

「神城って奴、剣道三段の藤原先輩に素手だぜ。それも学生服だ。靴下脱いだだけだぜ」

「諦めてんじゃないか。始まったらごめんなさいとか」

「いや、あいつはそんなレベルじゃない。俺は見たんだ校門で」

「どうだかな」


先輩が面を着けた。


「では、お互い前へ」

審判らしき人が言った。



「神城君、どういうつもりでそんな恰好か知らないが遠慮はしないよ」

「いつでもいいですよ。先輩」


取敢えず自然体。


 うっ、全く隙が無い。どういう事なんだ。それにあの目。見た事ない。くそっ、上段の構えで。


シュッ。ボコ。ドタン。


「「「「「……………………」」」」」



 俺は防具の一点だけ穴が開いて倒れている藤原先輩の顔を覗いた。心臓は外したけど。

「先輩大丈夫ですか」


審判みたいな人が倒れている藤原先輩に駆け寄った。


「お、おい面を外せ。泡を拭いている」

「不味い。救急車」


「もう、帰っていいですか」

「ひーっ!」

審判の人に怖がられちゃった。なんか股が濡れているよ。


「わ、わ、分かった。もう帰ってくれ」

先生らしき人が言って来た。


「あーあ、だから藤原さんに止めなさいって言ったのに」

「仕方ないわよ。赤子以前だもの」

「そうね。あいつが百人いても敵う訳ないわ」

「東条さん、早瀬さん。下坂さん。神城君って?」

琴平さんが聞いた。


「えっ、突進してくる猪を一撃で倒し、熊の腕を手刀で切り、飛んでいるサルを足蹴りにする人よ」


「「「「え、え、ええーっ!!!」」」」


「若菜、お喋り!それに大げさ!」

「だって本当だもの」


俺は四人を見ると

「帰ろ」

「「「「うん」」」」


「俺明日から学校来れないよ」

「大丈夫よ。学校の先生はかん口令を引くわ。自分達が雫見たさに興味本位で生徒の私闘を見て見ぬ振りしたなんて表ざたになったら大変でしょ」

「それに人の噂も七十五日。見てない人もいるし」



 翌朝、俺が廊下を歩くと皆壁に張り付いていた。おかげで若菜たちは歩きやすかったようだけど。


 HRで桃神先生がニコニコしながら俺の手を触っていたけどなんでだろ?


―――――


 雫の災難でした。



次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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