第59話 琴平さんは考えた


 正月二日。俺はのんびりと過ごしていた。若菜は友達と会うとかで今日は出かけている。花音は目の前に迫った受験準備に忙しいらしい。


 リビングで菓子を食べながらテレビを見ている。やはり正月はこれでなくては。

スマホが震えた。出たくない。ちらりと画面を見ると琴平さんからだ。仕方ないか。



「はい」

「神城君、琴平です。明日の件なんだけど午後一時にショッピングモールの有る駅の改札口で良いかな」

「いいよ」

 そう言えば、年末に会う約束はしていたけど細かい事は決めて無かったな。


「それだけ。じゃあね」



また、ゴロゴロしていると父さんがやって来た。

「雫、お義父さんが明日来ると言っている。皆にお年玉を渡したいそうだ」


「おっ」


何故か花音がお父さんの後ろから声を掛けて来た。


「お父さん、お爺ちゃん何時に来るの?」

「多分午後からだろう。毎年そうだからな」


いけない。琴平さんの事で爺ちゃんが三日に来るのを忘れていた。


「父さん、爺ちゃんは泊るんでしょ」

「いや、他にも行く所が有るらしくてな。二時間位しかいないらしい」

「えーっ!」


 不味い、琴平さんに直ぐに連絡しないと。父さんと花音がいなくなってから琴平さんに電話した。



「なあに神城君」

「琴平さん、申し訳ないんだけど明日会う事になっているけど中止するか、他の日に出来ないかな?」

「えーっ、ちょっと待って」

何か調べているみたいだ。


「神城君、四日か五日しかないよね。四日の午後一番じゃあ駄目」

「いいけど」

「じゃあ、四日の午後十二時に改札で、お昼一緒に食べよ」

「分かった」


「でも、何か急用が出来たの?」

「うん、爺ちゃんが来るんだ」

「えっ、神城君のお爺様?」

「そうだよ」

「分かったわ。じゃあ明後日ね」


 良かった。爺ちゃんとは夏以来だからな。会わないと。


 翌日午後丁度に来た爺ちゃんは、元気そうだったけど、夏に行った若菜、真理香、優里奈の話をして要らぬ事まで言われたので参ってしまった。俺はまだお嫁さんの話などしたくない。


 でもしっかりとお年玉は貰えたので良かったけど。爺ちゃんのお年玉は諭吉さんが十枚も入っている。俺としては非常に嬉しい臨時収入だ。




 四日も三十分前にショッピングモールのある駅の改札に行った。まだ琴平さんは来ていなかった。

 しかし、最近この改札で待ち合わせする事が多いな。スマホの時計を見ると十一時五十分。そろそろ来るかなと思っていると


「神城くーん」

琴平さんが僕の顔を見つけたのか、改札から大きな声で名前を呼んで小走りに近付いてくる。



「神城君、待った?」

「うんちょっとね。でもまだ十分前だから」

「ふーん。ここ何時に来たの?」

「十一時半」

「えっ、そうなんだ。悪かったね。待たして」

「そんなことないよ。女の子に待って貰うのが嫌だからさ」

「へーっ、なんか慣れてる感じ。まあいいや。ご飯食べようか。何が良い?」

「なんでも」

「じゃあ中華で良い。あのデパートの地下一階に結構美味しい中華飯店が有るんだ」

「いいよ」



二人で、琴平さんの勧めた中華飯店に言ってみると三組ほどのお客さんが並んでいた。

「どうする。私待つの構わないけど」

「そうしようか。せっかく来たんだし」

最近、この辺で昼食取るの多くなったな。まあ軍資金は有るし大丈夫か。


十五分程で中に入れた。男女ペアより家族連れが多い。案内された席に着くと

「神城君何食べる?私はこの海鮮そばセット」

「じゃあ、俺はチャーハンとラーメンセットで」


二人で注文を済ませると早速琴平さんが話しかけて来た。


「ねえ、神城君。いきなりこういう事聞くの失礼かもしれないけど……。君って何者?」

「えっ、どういう意味かな?」

「だって、学年トップスリーと言われる容姿と頭脳を持つ三人の美少女と毎日登下校だけでなくお昼も交代で作って貰っているし一緒に食べている。

 確かに君は腕力は有るのは分かったけど、それだけじゃ何か理解できない」


「……そんな事言われても。若菜は生まれた時からの幼馴染だし、優里奈は中学からの付き合いだし、真理香は……彼女は俺が中学の頃助けたのがきっかけで側に来た感じ。

 理由はそれだけだよ。俺から何を言う訳でもない」


「ふーん。なるほどね」

「でも、琴平さんも席が前になったってだけで、声掛けて来たよね」

「そ、それはクラスメイトだし。クラスの他の女の子が神城君と話したいからっていうんで何とか出来ないかなと思って」


私何言っているんだろう。こんな話をする為に彼に会ったんじゃないのに。


「そうか、そういう理由だったら話しかけられたの分かるけど」


「良いじゃない。今日はとにかく神城君と二人で会いたかっただけだから」

「…………」

何か言っている事矛盾している様な?


 注文の品が来たので取敢えず話を中断して食べる事にした。流石専門店というだけあってめちゃくちゃ美味しかったけど、量は女性向な感じ、でもいいか。あとでも食べれるし。


「どうしたの。何か足りないって顔している」

「いやそんな事ないよ」


「ねえ、さっきの話の続きなんだけど…………。外に出ない。ちょっと寒いけど」

「いいよ」

良かった。これでまた家に来てなんて言われたらどうしようかと思った。


 ショッピングモールに戻ったけどやっぱり寒かったのでモール内のフロアのフリーの椅子に座る事にした。


 二人で並んで座ると俺の方に顔は向けないで

「ねえ、神城君。……。私も貴方と二人でいる時間が欲しい。でもあの三人と一緒に居るのはいや。偶にでいいから二人で居れないかな?」

「えっ!…………。うーん。そう言ってもな。結構あの三人でいる時間長いし」

「土曜の午後とか日曜とかは?」


「ごめん、俺も一人で居る時間が欲しいんだ。あの三人で一緒に居るのは嫌じゃないけど、土日はなるべく開けておきたいんだ」


「そうか。それはそうだね。仕方ないね。私が君の心の中に入り込む隙間は無いのかな?」

「…………」



「分かったわ。あの三人と真っ向から勝負しても容姿でも成績でも負けるから無理ね」

「……でも学校で普通に話しかけてくれるのはいいよ。お昼だってみんなと一緒に食べるのは構わないし」

「お昼は遠慮しておくよ。あの中に混じりたくないから。でも神城君、諦めた訳じゃないからチャンス有ったら遠慮なく行くから宜しくね。あっ、私まだ経験ないから」

「へっ?!」


「ふふふっ、今日はありがとう。じゃあね」

「あっ、俺も家に帰るから。駅一緒だろ」

「ううん、買い物あるから。本当は一緒に行って欲しかったんだけど、君と居ると自分の心の中が未練たらしくて嫌なの。一人で行くわ。それじゃあ、また学校でね」


 俺は琴平さんの後姿を見ながら何か虚しいものを感じた。悪いことしたのかな。でも今の俺ではどうしようも無い。あの三人でさえ困っているんだから




 やっぱり隙は無かったか。仕方ないな。本当は彼女になりたかったんだ。それに私も中学の時から一緒なんだけど。まあそんな事言っても意味ないか。今の状況では。

 どこかであの三人の関係が崩れた時チャンスがあるかもしれない。その時ね。今はじっと様子を見ていよう。それまで神城君誰にも決めないで待っててね。


―――――


誰かが言ってましたね。チャンスは寝て待てって。うんっ?果報でしょ!

三人の一角が崩れるのを待つか?それもありかも。でも崩れるのかな?


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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