第58話 初詣
優里奈と会った後、琴平さんから会いたいと言って来たが、年内は忙しいと言って断った。でも彼女の勧めてくれた問題集がまだ全部終わっていない。スマホのビデオ通話を使って一緒に問題集を解いた。
その時はもちろん彼女から送って貰ったボールペンを使ったけど。終り頃年明けに会いたいと言って来たので三日なら良いよと言っておいた。
そして今年も除夜の鐘を聞きながら年を越してそのまま寝る予定だったが、
「お兄ちゃん初詣行こう」
「えっ、明るくなってからにするよ。お休み」
強引に寝てしまった。
一年の計は元旦にありと誰かが言ったとか言わなかったとか知らないが、取敢えず元旦は午前八時に起きた。
両親と花音に年始の挨拶をしておせちを食べた後、リビングで正月特番を見ていた。どうせ来るだろうと思って。昼までに来なかったら迎えに行けばいいけど。
ピンポーン。
「花音、出て」
「はーい」
「あっ、若菜お姉ちゃんだ」
ガチャ。
「あけおめ花音ちゃん」
「わー、若菜お姉ちゃん綺麗。あけおめ」
スタスタスタと廊下を歩いてくる。
「おけましておめどうございます」
「若菜ちゃんあけましておめでとう。まあ今日は一段と綺麗ね。お母さんに着付けて貰ったの?」
「はい」
「雫はリビングよ」
「はい」
「雫明けましておめでとう」
「!……。あ、明けましておめでとう若菜」
「どうしたの雫?」
「い、いや何でもない」
若菜の奴、和服着てバッチリお化粧している。めちゃくちゃ可愛くて綺麗だ。
「雫、初詣行こう」
「うん、いいよ。ちょっと着替えてくる」
「あっ、若菜お姉ちゃん、私も一緒に行く。着替えるから待って。お母さーん」
結局、花音も着物を着たので三十分程遅くなった。俺は厚手のスラックスにハイネックのセーターと冬用のジャケットとオーバーコートだ。結構寒い。
若菜は青を基調とした綺麗な着物、花音は薄いピンクを基調とした素敵な着物だ。二人共首周りにファーが巻かれている。
「母さん、父さん、行って来るね」
「ああ、気を付けてな。若菜ちゃん綺麗だな。雫のお嫁さんになる日を楽しみしているよ」
「はい!」
「父さん、余分な事言わないで!」
「そうか?父さんと母さんはそのつもりだが?」
「もう。若菜、花音早く行くぞ」
思い切り若菜が嬉しい顔をしている。
「ふふふっ、雫のお父さんとお母さん公認のお嫁さんだよ。わ・た・し」
「若菜、まだ早いよ」
「そうだよ。若菜お姉ちゃん。私はまだお兄ちゃんを譲ったつもりないですからね」
「そ、そう」
俺達は、隣駅にある有名な神社に行った。優里奈もいる可能性があるが、それは仕方ない。
「うわーっ、お兄ちゃん並んでいる。凄い人手だよ」
「花音、仕方ないよ。今日は元旦だし、こんなに天気いいんだから」
空が抜ける様に青く澄み渡っている。良い正月だな。
「神城君」
まあ、居るだろうなと思ったけど。
「琴平さん、明けましておめでとう」
「神城君、下坂さん、それと神城君の妹さん?明けましておめでとう」
「琴平さん、明けましておめでとう」
「お兄ちゃん、誰?」
「クラスメイトだよ」
「そうか、まだ一人いたのね」
「はっ?花音どういう意味?」
「だってぇ、若菜お姉ちゃん、真理香さん、優里奈さんだけと思ったら、また新しい彼女作ったの?」
「い、いやいや花音。この人は…………」
「花音ちゃんというのね。私は琴平まどか。君のお兄ちゃんの彼女だよ」
「琴平さん!」
何故か、若菜が声を出した。
「良いじゃない。下坂さん」
「二人共元旦から止めて。周りの人も見ているよ」
確かに周りの人がジロジロ見ている。
「琴平さんも初詣?」
「私はもう済ませた。家族と一緒だから。またね」
琴平さんも赤を基調とした着物を着ていた。とても可愛い。
「雫、行こう」
全く、琴平さんは余分な事を。あの子ははっきりと物をいう子だから気を付けないと。そう言えば彼女私達の家から近かったんだ。会っても不思議ないか。
三十分以上待ってやっと参拝が出来た。
「雫、何を願ったの?」
「いや、普通、言わないだろう」
「私は、雫の一人だけの彼女になれます様にって。後、雫の健康も」
「自分の事は?」
「もちろん健康よ」
「お兄ちゃん、おみくじ。今年一年を占おうよ」
「おう」
おっ、中吉だ。まずまずだな。大吉よりこっちがいい。
「あっ、お兄ちゃん、私大吉だよ」
「良かったな」
「雫、私も大吉よ。今年は良い事あるかな」
「そうだな。あるかもな」
「えっ、それって雫が私だけにしてくれるって事」
「ぶ、ぶーっ。若菜お姉ちゃん、それは無い」
「はいはい、花音ちゃんのお兄ちゃんだものね」
おっ、若菜余裕だな。大吉効果か?
参道をゆっくりと門の方に向って歩いていると
「雫、この後はどうするの?」
「うん、家に帰ってお雑煮食べて正月特番見ながらゴロゴロする」
「えーっ、まあいいわ。私も着替えたら行くね」
「ああ良いけど」
何故か花音が少し不機嫌顔だ。
俺達は家に戻ると若菜が着物から洋服に着替えてやって来た。髪の毛がまだ余韻を残しているけど。そして何故か俺の部屋にいる。
「雫、問題集まだ終わってなかったんじゃない」
「若菜、元旦から勉強の事言わないで。今年一年中勉強に追われそうになる。それにあの問題集は去年の内に終わらせた」
「えっ、一人で全部やったの?」
「う、うん」
「あっ、嘘だ。どうしたの?」
参ったなあ。本当のこと言うか。
「実言うとあの問題集、琴平さんが選んだんだ。それで一緒にやるって約束して」
「えーっ、どういう事雫。そんな話聞いていない」
仕方なく、去年琴平さんと本屋で会ったことを話した。琴平さんの事だけね。
若菜が寂しそうな顔をしている。
「雫、琴平さんとそういうことになったのは偶然だから仕方ないし、一緒に勉強するのも仕方ないかも知れないけど…………。私には正直に話して。そういう事されると寂しいよ」
「…………。ごめん。今度からきちんと話す」
「本当にそうしてね」
「うん」
「ふふっ、雫」
いきなりキスされた。
「若菜。正直に言う代わりにそういう事いきなりは無しにして!」
「駄目?」
「駄目、いきなりは駄目!」
「じゃあ、するね」
またキスされた。
「これならいいでしょ」
「…………」
不味い、若菜完全に節操という糸が切れている。
「ふふっ、雫とお正月からキスしちゃったあ」
今度は抱き着いて来た。
「若菜!」
「いいじゃない!」
不味い、一番節操が無いのは若菜だったか。
―――――
地の利を生かした若菜という所ですね。
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます