第57話 優里奈の気持ち


 優里奈の家の有る最寄りの駅は俺の家の有る駅の隣だ。彼女の家まで歩こうと思えば歩ける。


 でも昨日彼女はショッピングモールのある駅で会おうと言って来た。意味が有るんだろうと思って改札で待っていると


「雫、待った。あっマフラーしてくれているんだ。嬉しいな」

「優里奈、おはよ」

「ふふっ、嬉しいな。久しぶりだね。二人でデートするの。最近いつも誰かいるからさ」

「そうだな。ところで今日は?」


「うん、雫と一緒に居たいなと思って。雫が何かしたい事あるならそれでもいいよ」

「うーん、何もない」

「じゃあ、映画でも見に行く?」

「えっ!」

「どうかしたの?」

「い、いや。そうだな映画いいな。行こうか」

「?…………」



「雫、恋愛とアクションどっちがいい?」

「アクション」

「じゃあ、そうしましょう」


 流石に昨日と同じ映画を見る気にはならないからな。


アクション映画は、アメリカの有名な俳優が主演で中々面白かった。優里奈も嫌いじゃないから結構盛り上がった。



「雫、今日は少し辛いお昼食べたいけどいい?」

「いいよ。この辺あったっけ?」

「うん、駅の反対側のビルの中にある」




「雫はどれにする。私は海鮮で三辛がいいな」

「じゃあ、俺は海鮮で四辛にする」

「ふふふっ、嬉しいな。雫と一緒。二人だけでお昼」


 やはり雫とは二人だけがいい、高校に入ってから早瀬さんや下坂さんだけじゃなくて琴平さんまで雫の前に現れた。


 早瀬さんや下坂さんと関係を持ったと知った時とてもショックで捨てられるのかなと思ったけど、私との関係も続けてくれているし、私への思いも分かる。


 登校も下校もそして昼食も三人で雫に接する事が多くなってしまったけど、今はこのままでいい。最後は私が彼の隣に居ればいいだけ。


 でも気を緩めるわけにはいかない。あの二人は女性から見ても魅力的だ。それに最終手段を使う事も出来る。それを使われたら勝負がついてしまう。責任感のある雫なら間違いなくそうするだろう。


 だけど今はそれほど三人の間で緊張感がある訳ではない。ある意味とてもいい友達でもある。この状況で最終手段を取るとは思えない。


失敗という事はあるかもしれないけどそれは自身に取ってもマイナス面が多い。それが分からないような人達じゃない。

 緊張感が高まった時、最終手段を取るのは、この私。



「優里奈、優里奈」

「えっ?」

「どうしたの何かぼうっとしてたけど」

「ううん、何でもない。雫の事考えていただけ」

「そうか、でも俺ここにいるけど」

「ふふっ、いいの」

 何だろう、気になるけど。



 注文が来てから二人でふうふうしながら食べた、有頭海老やホタテ、牡蛎などが入っていてグツグツしている。結構辛くて熱かったけどとても美味しかった。



「雫、この後私の家に行こう。外の散歩も良いけど寒いから。ねっ、いいでしょ」

「うんいいけど」

「どうかしたの」

「いや何でもない」

なんか昨日と全く同じだ。良いのかな。でも断るのはかわいそうだし。





「雫、お父様に思い切りきつく言って私の部屋の監視カメラは全部取って貰ったから」

「へっ!そ、そうか」

「だから、ねっ」



 ふふっ、幸せ…………。




髪の毛が腰まで伸びている。おでこに流れている髪の毛をそっとどかしてから真上から見ると、閉じた目が少し吊り上がっていてとても綺麗な顔をしている。

 

優里奈とは中学の時からこうしている。一時は俺の誤解で離れていた時も有ったけど、今こうしているとその時が無かった様に感じる。

 

 俺はやっぱり優里奈が一番好きなんだろうか。他の二人も好きだけど、優里奈に対する感情はちょっとだけ違う気がする。


 はっきりした方が良いのかな。でも…………。


「あっ、雫」

優里奈が俺の首に手を回して来た。


「ねえ、私だけじゃ駄目?」

「分からない。俺も優里奈は好きだよ。あの二人とはちょっと違う。でも今はこのままでも良いと思っている」

「…………雫がそうしたいなら強制はしない。でも最後には私を選んでね」


少し顔を上げて唇を合わせた。




 雫が帰った後、お父様に呼ばれた。


「神城殿の孫とは、その後どうだ?」

「はい、とても上手くいっております」


「そうか、彼の側には他に中々の子達が三人もいる。内、一人は早瀬殿の一人娘、もう一人は生まれた時から一緒の幼馴染。どちらも強敵ではないか。大丈夫か」


「はい、今は問題なく。あの方達とも大変仲良くしております。もしもの時は最終手段を取っても私が彼の側に居れる様にと考えております。お父様宜しいですよね」

「お前がそこまで考えているなら私は何も言わない」

「分かりました」





「ただいま」


パタパタパタ。妹が廊下を掛けて来た。


「お兄ちゃんお帰り」

「うぉ!」

いきなり抱き着かれた。


またじっと見られた。


「ぶっぶーっ、お兄ちゃん、若菜お姉ちゃんと違う女の人の匂いしている。すけべ!」


ぱたぱたぱた。


「お母さん、お兄ちゃんがねーっ」

「おい、花音ちょっと待てーっ」


 はあ、父さんと母さんに思い切りニヤニヤされてしまった。全く花音は。



昨日と同じように夕食後、風呂に入りベッドの上でゴロゴロしていると


コンコン。


「いいよ」


「お兄ちゃんちょっといい」

「花音何か用事か?」

「うん、ねえお兄ちゃん、今日一緒に寝ていい」


「だめ」

「じゃあ、今日の事若菜お姉ちゃんに言っちゃうよ」

「脅しか」

「そう」


「じゃあ、一時間だけ側に居ていよ」

「ほんと?!」

「ああ」


いきなり花音が毛布の間に潜り込んで来た。頭だけむっくり出すと


「ねえ、お兄ちゃんの彼女って何人いるの?」

「はっ?!何聞いているんだ」

「そのままだよ。お兄ちゃんってモテ顔じゃないのに何故か女の子の友達多いよね。それも飛び切りの美少女が」


「そんな事無いだろう」

「自覚無いの?そういうの天然の女たらしって言うんだよ」

「はぁ、そんな言葉どこで覚えたんだ」

「常識だよ。お兄ちゃんが知らないだけ」

「そんな事より勉強の方どうなんだ」

「何も問題ないよ。A判定だし。来年から同じ高校だよ。ふふふっ、楽しみだな」

「…………」


「まあいいや。もう私自分の部屋に帰るね。お休みお兄ちゃん」


勝手に入って来て勝手に出て行った。あいつ何しに来たんだ。

女たらし。俺が?ありえないだろう。何処と言って取り柄無いぞ。顔だったら良太や徳山のがよっぽどいいし。

まあ、いいか。明日は自分の部屋でも掃除するか。


―――――


最終手段って?


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

  

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