第93話 爺ちゃんの話と
今、俺は爺ちゃんと父さんと一緒にリビングにいる。花音と母さんはダイニングだ。
「雫、儂は今年で七十六になる。まだまだ現役でいれるとはいえ寄る年波には勝てん。持っても後四、五年じゃ。それまでには後継者を決めたい」
「…………」
「そこで雫。儂の後継者になってくれんか」
「爺ちゃん。俺には無理だよ。あんなに大きな企業の経営者になんて成れない」
「儂も始めはそう思った。神城綜合警備保障は世界八十四か国に支部がある。経営と言っても全てに目を光らせなければならない。
だが、一人でやる事は無い。塚原もそうだが、いままで培って来た経営基盤、組織基盤がある。
年に一度の総会は各支部長全員と顔合わせするが、普段は塚原や亀石達に任せておけばよい」
「しかし…………。俺には大きすぎる」
「大丈夫だ。段々慣れてくる。直ぐに切り替わる訳ではない。儂も生きている間はサポートする。それにだ。神城綜合警備保障の跡継ぎは実質お前だけだ。分かってくれ」
「……今決めなくてはいけないの?」
「後一年位だ」
「一年!高校卒業までに決めないといけないの?」
「そうだ」
「もし、俺が継がないと言ったら?」
「儂の代で終わりだ。組織は存続するが神城一族の血は絶える」
「…………」
爺ちゃんは午後七時には帰っていた。塚原さん達も一緒に来ている。
俺は風呂から出るとベッドで横になって天井を見上げていた。
こんなに早く話が来るなんて。父さんと年末話した時は、大学四年までに決めれば良いと言っていたが、そうも行かなくなったのかな。
爺ちゃんの後を継ぐとなると…………。でもどう言えば。それに……責任あるし。
優里奈に言えないよ。真理香にも。
この気持ちを引きずったまま三学期が始まった。紗友里は三日には戻って来ている。
いつもの様に登校して教室に入り自分の席に行くと前に座る良太が
「おはよ、あけおめ雫」
「おはよ、良太」
「雫、なんか元気ないな」
「そうか、そんな事無いけど」
「中学から五年も一緒にいるだんだぞ。分かるよ」
「そうだな」
「やっぱりおかしいんじゃないか。話なら聞くぞ」
「ありがとう。でもいいよ自分の事だから」
「そうか」
雫、どうしたんだろう。三日に遊びに行った時からあんな調子。初詣の時はあんな感じじゃなかったのに。若菜曰く
雫様、三日に帰って来たのにつれなかった。それからずっと変わらない。紗友里曰く
雫、心配どうしたの?優里奈曰く
雫さん…………。真理香曰く
神城君どうしたの?まどか曰く
若菜視点
そんな状況が二週間程続いた日曜日、
今日は私が起こす番
ガチャ、
「雫、起きている?」
スー、スー。
「やっぱり寝ている」
私がそっと雫の側に寄ると毛布と羽毛を首までかけて寝ている。
「し・ず・く」
やっぱり寝ている。ふふっ、左の頬に……チュッ。右の頬にチュッ。そして唇にチュッ。
えっ、雫が毛布から腕を出して抱きしめて来た。
うーっ、唇を離してくれない。嬉しいんだけど。
離してくれた。
「若菜」
「えっ、起きてたの?」
「いや、今起きた」
両手で抱かれたままだ。
「若菜、したい」
「えっ、でも…………。隣に花音ちゃんいるし」
「声出さないで」
「わ、分かった」
……………………。
優しくしてくれた。ちゃんと避妊もしたし。でも声出さないっていつもより…………。
雫の隣で首に腕を巻き付けて
「どうしたの?雫から誘うなんて」
「何か頭の中がもやもやで、ごめん」
「ううん、全然いいんだけど。嬉しいし。雫……相談乗るよ」
「ありがとう、起きるか」
「うん」
部屋から二人で出て俺は顔を洗ってダイニングに行くと何故か紗友里と花音がとても怒った顔をしていた。
「母さん出かけて来る」
「わかった。若菜ちゃんと一緒なの?」
「うん」
「雫さん、私も一緒ではだめですか?」
「ごめん紗友里。今日は二人で」
寂しいです。心の中に風が吹いている様です。朝から下坂さんとして一緒に出掛けるなんて。やっぱり強行手段に出るしかありませんか。紗友里曰く
「若菜、寒いけど散歩で良いか」
「良いよ。暖かいコート来ているから」
「若菜、話聞いてくれるか」
「うん」
俺は爺ちゃんと正月二日に話した事を若菜に話した。
「雫は心が決まっていないのね」
「ああ、今決めろなんて無理だよ」
「私は、雫がどの道を選んでも付いて行く」
「ありがとう」
「でも、柚原さんや琴平さんもいるね。それに東条さんと早瀬さんも」
「…………」
「ふふっ、雫にとっては難しいよね。誰か選べって言われても。みんないい人だし、雫の事思ってくれている」
「若菜…………」
「でも、今までずっと側に居た様に、これからも雫の側に居るのは私だよ」
「若菜を選ばなかったら?」
「そんな言葉聞きたくない。もしそんな事言ったら死んで雫の側にずっといちゃうよ」
「そうか…………」
散歩の後、若菜と一緒に駅の側に有るファミレスに入って暖かい飲み物を取ってから家の前で別れた。
「ただいま」
あれっ、誰も返事しない。誰もいないのかな?
手洗いとうがいをした後、自分の部屋に戻る前に花音の部屋を開けると、あれっいない。何処か出かけたのか?
自分の部屋に入ると
「えっ!どうしたの?」
「雫様」
紗友里が下着だけの姿で抱き着いて来た。胸からの圧迫感が凄い。
「紗友里、何しているの?」
「雫様、抱いて下さい」
「何言っているの」
「朝、下坂さんとしましたよね。私にはしてくれないのですか?」
「いや、そう言う問題じゃなくて」
「どういう問題なのですか」
「お願いです。雫様」
「ちょっ、ちょっと待って。何でこういう事になったの?」
紗友里を体から離そうとしたが、離してくれない。
「私は雫様の妻となる為に転校までして来ました。でもまだ指一本も触れてくれないのに他の女性にはしっかりと。下坂さんだけではないですよね。
私も皆さんと同じ立場になりたいのです。お願いします。このままでは奈良の両親にも神城のお爺様にも顔向けが出来ません」
「しかし、…………」
「雫様、責任取れなんて言いません。あの方達と同じ目線になりたいのです」
紗友里が俺の右手を掴んで自分の左胸に押し当てた。
……………………。
ふふふっ、やっと同じ位置に立てます。
痛いですが相手は雫様です。でも聞いた以上に凄い。これが…………。
「あっ、雫様目が覚めましたか」
「紗友里…………」
またしてくれました。
二人でシャワーを浴びました。
雫様がシャワーを浴びている時、私が強引にお風呂に入ってしまったのですけど。
これであの人達と一緒です。もう負けません。
―――――
紗友里の強引さに負けたね雫、でもこれって後々…………。
次回をお楽しみに。
この作品と並行して下記の作品も投稿しています。読んで頂ければ幸いです。
「九条君は告白されたい。いや告白はあなたからして(旧題:告白はあなたから)」
https://kakuyomu.jp/works/16816927860661241074
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします
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