第67話 春休み


 春休みまであと三日。ホワイトデーが終わった翌日の放課後。


「じゃあ、雫さんまた明日」

「雫また明日ね」


 俺と若菜は真理香、優里奈と別れた後、家に向かった。


「雫、今日雫の家って誰かいるの?」

「へっ?!花音がいると思うけど」

「そう、じゃあ私の家に来ない」

「良いけど、ご両親は?」

「うーん、居るかも。でもいいじゃない」

「まあいいよ」

いるならいいか。


ピンポーン。

「若菜来たよ」


ふふっ、雫が来た。


「上がって。私の部屋行こう」

「久しぶりだな。若菜の部屋」

「そうだね。いつも雫の部屋だから。たまに来ると新鮮?」

「うん」

「ちょっと待ってお茶入れて来る」


 俺はローテーブルの前に座って久々に若菜の部屋をクルリと見た。可愛い部屋だな。俺の部屋とは大違いだ。


「お待たせ」

 若菜は持って来た紅茶の載ったトレイをローテーブルの上に置くとゆっくりとカップに注いだ。いい香りがする。俺の隣に座ると


「ねえ、雫、この前春休みの事聞いた時の事覚えている?」

やっぱり。


「うん」

「じゃあ、約束通りで良いよね」

「いや、若菜のご両親がいるんでしょ」

「うんさっきまで。二人で外に行っちゃった」

「そ、そうか」


いきなり若菜が俺の腿の上に乗って来て腕を首の後ろに回して来た。

「ふふっ、嬉しいな」



……………………。



 一杯しちゃった。だって気持ちいいんだもの。もちろん、雫を誘う時は安全日。あれつけるのと全然違うし。


 雫が私の隣で目を瞑っている。毎日でもして欲しい。でも今はいいかな。雫の隣が決まったら毎日だってしちゃうんだから。


 あの二人には雫を婿として迎い入れるしかないはず。私は嫁ぐことが出来る。この有利は絶対だ。だから高校卒業までにあの二人にそれを分からせればいいだけ。


 彼の唇にもう一度口付けをした。あっ起きた。

「あっ、若菜」

彼は私に首に腕を回すと…………。えへへ、もう一回してもらっちゃった。




「じゃあ、雫、気を付けてね」

「ああ、若菜、花音、父さん、母さん、行って来る」

「雫、気を付けてな」

「うん、五泊六日だから。楽しんで来るよ」


 大きな荷物は一週間前に送ってある。俺は中型のスポーツバッグを肩から担いで最寄りの改札を通った。


「去年の夏以来か。前は秋にも行っていたけどちょっと忙しかったからな。楽しみだな爺ちゃんと会うの」




 予定通りに爺ちゃんの家のある駅に着くともう榊原さんが迎えに来ていた。

「雫様、お迎えにあがりました。あの元気なお嬢様方はご一緒では無いのですか?」

「流石に連れてこないよ」

「そうですか。総帥がお楽しみにしておられたようですが」

「そうなんだ。でも今の季節では無理だよ」

「その通りですね。では行きましょうか」



 俺はいつものように山歩き、道場での模範演習そして爺ちゃんの話の相手をした。誰にするか随分聞かれたが決まっていないと言ったら全員嫁にすればいいとか無茶ぶりしては皆と楽しい会話をしていた。


 今年は、山に餌が少なかったせいか、いつもならまだ山籠もりしているイノシイやタヌキやサルが早くも姿を現していた。


 今の時期、畑や田には何も無いからそちらは荒らされないが、麓の住民たちの家にまで入って来る時がある。だから仕方なく遭遇した獣は捉えるしかなかった。


 サルはすばしこくて敏捷性磨く練習にいいがサルは群れを成して動く事も多いのでそこは要注意だ。

 イノシイはまさに猪突猛進なので機敏で体重を掛けた鍛錬にはちょうどいい。


 あっという間に五泊六日の遊びも終わり

「爺ちゃん、また夏来るね」

「雫、夏はまたあの子達を連れて来なさい。あの子達が遊べる場所でも用意しておこう」

「雫様、みんなで用意しておきます。楽しみにしておきますよ」

「あはは、爺ちゃん、榊原さん。分かったよ」


 俺はみんなに別れを告げると榊原さんに送られて駅に向かった。



「総帥、師範代はどの子を選ぶのでしょうね」

「さあな。儂には預かり知らぬ事だ。出来ればここ(神城綜合警備保障)を継いでくれると嬉しいのだが」

「私達全員がそう思っています」

「そうだな」



 そんな事を爺ちゃん達が思っている事も露知らず、

「帰ったら、優里奈に連絡入れないと。それにチョコの件聞き出して、もうしない様にさせないと。あれは俺の私生活に困る」




 俺は家に着くと

「ただいま」


ダダダッ!ツーッ。


若菜が掛けて来て

「お兄ちゃんお帰り」

「ただいま花音」

「どう、これ」

「おっ、素敵じゃないか。似合っているよ」

「エへへ、そうでしょう。学校の制服が出来たのでちょうど試しに着て見た所。若菜お姉ちゃんもいるよ」

「えっ、若菜も?!」


 俺は荷物(ほとんど洗濯物)を洗面所に持って行くと手洗いとうがいをしてリビングに行った。


「お帰り、雫」

「ただいま、父さん、母さん。これ爺ちゃんからのお土産」

「おっ、冷凍イノシシ肉か?」

「それは宅急便で送ってあるでしょ。お酒、山で取れた果物をリカーで漬けて寝かしてあったんだって」

「そうか、嬉しいな。早速お義父さんに連絡を入れるか」

そう言うと父さんはダイニングの方へ行ってしまった。


「雫お帰り」

「うんただいま。でもなんで若菜いるの?」

「雫、若菜ちゃんに花音の制服姿を見せてあげていたのよ」

「そうか」


 それから二時間位、みんなに山の事を話した後、若菜は帰って行った。俺も今日は先にお風呂に入れて貰う事にした。部屋で夕食までの時間に優里奈に電話すると


「優里奈、ただいま」

「お帰り雫、早速会いたいな」

「いいよ」

「明日でも明後日でも。でも疲れているかな?」

「いいよ明日で」

「じゃあ、私の家のある駅に十時でいい。お昼私が作るから」

「いいよ」

「じゃあ明日ね」




夕食を終えて部屋でゴロゴロしているとスマホが震えた。あっ真理香からだ。


「はい」

「雫、わたし真理香。お帰りなさい」

「ああ、ただいま」

「ねえ、帰って来たばかりで疲れているでしょうけど、明日か明後日会えないかな」

「うん、明後日なら」

「分かりました。またショッピングモールのある……いえ、私の家の有る駅で午前十時。駄目かな。昼食作るから一緒に食べたい」

「うん、いいよ」

「じゃあ、明後日十時ね」

「分かった」


なんとかどこかで会話がリフレインしている。でも二人にはチョコの事聞かないと。


―――――


雫大変です。


さて、次回から大竹高校二年になった雫が出て来ます。

一段と仲良くなったお友達?との楽しい日常です。

そうそう、良太と綾香の事気になっている読者の方もいると思いますが、それも次回以降で。


次回をお楽しみに。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る