第68話 二年生になりました
「お兄ちゃん、見て」
「おう、可愛いな似合っているぞ」
妹の花音が大竹高校一年生の制服を着て見せている。今日から妹も高校生だ。上着は紺のブレザー、プリーツの有るスカートに白いブラウス。
首元のリボンには大竹高校女子の赤をベースに金のストライプに紺のストライプが描かれている。
「「行って来まーす」」
「行ってらっしゃい」
母さんが嬉しそうな顔をして俺達を見送ってくれた。
「ふふっ、嬉しいな。これからずっとお兄ちゃんと一緒に学校に行ける」
「中学の時もそうだっただろう」
「でもこの一年はいけなかったよ」
「それは仕方ない」
そんな会話をしていると隣の家から若菜が出て来た。
「おはよう、雫、花音ちゃん」
「おはよう若菜お姉ちゃん」
「おはよ若菜」
若菜もリボンのカラーが変わった。金色のストライプに挟まれている色が紺から緑に変わった。
俺もネクタイが変わった。女子のリボンの色が紺のネクタイの中央に斜めに描かれている。
まだ少し肌寒いが、花音は全く意に介していない様だ。
高校のある駅の改札で真理香と優里奈と会う。例によって若菜、真理香、優里奈は俺の後ろを歩くが、花音は俺の隣を歩いている。
ふむっ、この状況は非常に良くないのでは。はっきり言って逃げたいが…………。
「花音ちゃん、私と一緒に歩かない」
若菜が声を掛けて来た。
「何で?」
「雫は朝、駅から学校までは一人で歩くから」
「知らないよそんな事。お兄ちゃん良いよね」
これは困った。どうすればいいんだ。妹を追いやる訳にも行かないし。仕方なく俺は後ろを振り向かずに
「若菜、今日だけでも。家で花音に理由話すから」
「雫がそう言うなら」
結局下駄箱の手前まで花音と一緒に歩いた。花音はA組になったらしい。俺は早速、下駄箱の先に有る掲示板に行ってクラスを確認する。
分かってはいたが、俺、良太、若菜、真理香、優里奈がAクラスになっていた。二年から成績順になるので当たり前だ。
しかし、これはますます…………。
花音はもうクラスに行ったみたいだ。
2-Aとかかれた教室に入り、取敢えず一年の時と同じ場所に座る。ちらりと見ると
えっ、白百合綾香がいる。学年末テストで三十八位、一学年二百十名だから基本一クラス三十五人で六クラス。あの子何故いるんだ?
もう、良太の側で話している。良いのかな?俺は席に鞄を置いて良太に近付くと
「良太おはよ」
「おはよ雫」
「おはようございます神城さん」
まあそうなるわな。
「おはよう白百合さん」
その後の言葉が続かずに自席に戻った。やがて予鈴が鳴ると
教室の前の扉が開いて、えっ!
「皆さん、おはようございます。一年間皆さんの担任を務める桃神桃花(ももかみももか)です。文芸部の顧問をしています」
「「「おおーっ」」」
男子生徒から一斉に声が上がった。分かりますよその気持ち。少し小柄ながら金髪で眼鏡を掛け、見た小動物な可愛さがある、その上やたら胸の大きい。絶対的なアンバランスだ。
「皆さん、始業式が始まります。全員体育館に行って下さい」
始業式では校長先生の長ーいお話の後、生徒会からの挨拶がある。壇上に上がったのは、聰明奏先輩だ。
去年の秋の生徒会長選で文句ない票数で選ばれた。その後俺にまた生徒会へ入るよう声が掛かったが、意地でも固辞した。
始業式も終わり教室に戻った俺達は駄弁っていると
ガラガラガラ
桃神先生が入って来た。
「それでは皆さん席決めをします。この箱の中に席順の入った札が入っています。廊下側の一番前の人から取って行って下さい」
順番からすると優里奈、琴平さん、若菜、俺、真理香、良太の順だ。あっその前に白百合さんがいる。どうなる事やらと思って見ていると優里奈、琴平さん、若菜が何となく複雑な顔をしている。
さて俺の番だ。教壇の所に行き箱の中に手を入れた。ごちゃごちゃとかき交ぜてサッと取ると
おっ、やったぜ。窓側後ろから三番目まずまずの位置だ。
良太まで引き終わると
「それでは皆さん、自分の席に移動して下さい」
俺は引いた席に行くと隣が優里奈だ。
「雫の隣の席。嬉しい」
ニコニコしながら鞄を机の上に置いた。後ろは良太だ。
「良太宜しくな」
「ああ雫こっちこそだ」
良太の気分が少し戻ったのか顔が明るい。
なんと前の席に琴平さんが座った。
「えへへ、また神城君の前になったね。宜しく」
若菜は廊下側二列目の前から三番目、真理香は窓側から三列目の前から二番目だ。二人共複雑な顔している。
白百合さんは、廊下側一列目の後ろから二番目だ。
「皆さん、席に着きましたね。それでは学級委員を選んで下さい」
学級委員は男子は名前を知らない人。女子は俺にバレンタインデーの時チョコをくれた人だ。確か所沢明菜さんとか言っていた。
「学級委員も決まりましたね。後は学級委員宜しくお願いします」
そう言って桃神先生は手をヒラヒラすると教室を出て行った。三限からは普通授業だ。
午前中の授業も終わり昼休みになると隣の優里奈が、
「ねえ、雫お弁当持って来ていない。学食行こう」
いつの間にか来たのか真理香と若菜も同じ顔をしている。琴平さんも今日は行きたそうだ。
「良太」
俺は振り向いて良太を誘うとしたが、あいつあっという間に白百合さんの側に行っていた。仕方ないか。
学食に行くと一年生が驚いた顔をしている。
「凄いな、噂には聞いていたが美人揃いだ」
「あの人が噂の神城先輩だろう」
「すげえな。俺もああなりてえ」
「まあ無理だな」
後輩諸君聞こえているぞ。
「あっ、お兄ちゃん」
花音が俺の側やって来た。
「花音か、一人か?」
「ううん、友達と一緒」
「そうか」
「じゃあね」
中学からの友達の様だ。色々聞かれているが、上手くやっている様で良かった。
「雫、食券買いましょう」
今日のB定食は生姜焼きだ。やったぜ。女子達はみんなA定食だ。俺達は隅の六人掛けのテーブルに行くと周りからの視線が凄い。
「雫、やっぱり今年もお弁当作るね」
「悪いな若菜」
「雫さん、私も」
「雫、私も作るわ」
「じゃあ、早瀬さん、東条さん、前と同じで良いですか」
「待って、私も」
「えっ、琴平さんも」
「はい、神城君いいでしょう」
二年からは少し積極的に行かないと。この三人に私を意識させるようにしながら一歩引いていれば…………。
「いいけど」
参ったなあ。これで良いのかなあ。
周りを見ても良太と白百合さんがいない。何処で食べているのかな。
―――――
中々賑やかに始まった雫の二年生です。
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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