第22話 若菜のお泊りイベント
三人からの計画を拒否した翌日から朝の通学時間で三人が積極的に絡んでくることは無くなった。
若菜はいつもの様に俺が家を出た後、後ろから声を掛けて並んで歩く。高校のある駅では、三人は普段後ろに居て偶に誰かが俺の隣を歩いては話しかけて来た。
この位なら別に良いと思う。同級生だし。これでも目立っていたけど。
運動部からの勧誘は流石に丁重に断っている間に鳴りを潜めた。お昼休み時間、水やりの日以外は三人と一緒に食べるが、その後良太も入れて話す事も多くなった。
俺にとっては穏やかな日が続いていると言って良いかもしれない。
そんな時だった。若菜から今週末の土曜日一緒に勉強したり遊んだりしたいと言って来た。あの二人はどうなんだろうと思ったが、中学までは良くしていた事だ。いつもの様に良いよと返事した。
そして土曜日。午後一時、若菜が訪ねて来た。
「雫、来たよう」
インターフォンの向こうで若菜が喋っている。
「おう、上がれよ」
「へへ、おじゃましまーす」
あれ、勉強だけするんじゃなかったっけ。なぜか荷物が多いような。
「いらっしゃい。若菜ちゃん」
「おばさん、おじゃまします」
なぜか、母さんと若菜が目で語っている様な気がした。
「直ぐに勉強するか」
「うん」
「じゃあ、二人だから俺の部屋でやろう」
「そうだね」
ベッドの横にある小さなテーブルに参考書と問題集を置いて二人で床の上に座る。
「雫、何処から始める」
「数学がいいな。ちょっとてこずっているし」
「分かった。授業の復習から始めよう」
始めて一時間もしない内にテーブルの反対側に居た若菜が俺の横に座っている。
「若菜近くないか」
「隣にいた方が一緒に出来るじゃない」
「まあ、そうだな」
一時間も過ぎる頃、若菜が俺の肩に寄りかかって来た。何気なく問題集から顔を外して隣を見るとそして俺の顔をじっと見ている。
視線が合うと目を瞑った。どうしたんだろう。疲れて眠いのかな。じっと見ているとやっぱり若菜は可愛い。そのまま見ていると目を開けた。
「疲れたの?」
「えっ、う、うん」
顔を赤くしているどうしたのかな。
「じゃあ、休憩しようか。下から飲み物とお菓子持ってくるよ」
雫が一階に行ってしまった。
なんで、普通あそこは唇を…………。もう。私って魅力ないのかな。でも私の事可愛いって言ってくれるし。
やっぱり今日の夜だよね。お母さんとおばさんにはお泊りの了解取っているし。東条さんだけに既成事実を持たせる訳にはいかない。
その後、二人で休憩を挟んで四時まで勉強した。
「雫、もう終わりにしよ」
「いいよ。俺も疲れたし」
「今、何読んでいるの」
「そこの棚にあるから見ていいよ」
「見て不味いものはある」
「ない」
雫は昔からそう。あっち系には興味が無いのだろうか。友達からは高校にもなって興味を持たないのがおかしいと聞いているんだけど。
若菜にバレる訳には行かないからな。今は皆電子本。PCを開けない限り無理だし。フォルダはロックしてあるから無理だよね。
「お兄ちゃん、そろそろご飯だよ。あれ?若菜お姉ちゃん居たの。静かだから分からなかった」
「花音ちゃん。こんにちは」
花音が一階に降りてくると直ぐに上がって来た。
「若菜お姉ちゃん。お母さんがご飯食べなさいって」
「うん、ありがとう」
うん、どう言う事?
二人でダイニングに行くと
「若菜ちゃん、久々ね、一緒に夕飯食べよ」
「はい、楽しみにしています」
父さんは明日帰って来るらしい。今日のご飯は母さん、花音に若菜と俺だ。何ともアウェイ感が強い。
「若菜ちゃん、今日泊まって行けば」
「えっ、いいんですか」
「お父さんもいないし、ちょうどいいわ」
へっ?!
「お母さんに聞いてみます」
私は既にお母さんの許可は取ってあるが連絡する振りをした。話を合せてくれている。
「お母さん、良いって言ってました」
「そう、良かったわね」
何故か言葉に白々しさを感じる。
食事が終わり花音は部屋に行ってしまった。俺と若菜はリビングで紅茶を飲みながらテレビを見ている。もう九時過ぎだ。
「若菜ちゃん、お風呂入ってね」
「はーい」
「若菜、着替え取りに行くのか」
「ううん、大丈夫」
「えっ?」
「ふふっ、いいの。じゃあ雫先にね。覗いちゃだめだよ。あっ、覗いても良いよ」
「する訳無いだろう!」
「ふふふっ」
あいつ何考えているんだ。
一時間位して出て来た。女の子は時間が掛かるな。へっ!
「お前なんて格好してるんだ」
「えっ、何かおかしい」
「嫌だって、タオル一枚って」
「ああ、パジャマを脱衣所に持って行くの忘れたから。それに雫この後入るんでしょ?」
「えっ、いや花音を入れようと思って」
「お兄ちゃん。先入って」
なんで二人の会話聞こえるの?
仕方なく部屋に一度戻って着替えを取って来る。普段は俺が若菜の恰好で出てくるが今日はそうも行かない。
風呂のドアを開けると
うっ、これは!女の子の匂いが…………。きつい。
要らぬところが元気になりそうなのを抑えてサッと体を洗った。
湯船に入りながら、なんかおかしいな。母さんや若菜の動きがもう決まった事の様にしている。……。まさかな。
あれ?ゆっくりと湯船に入ったあと体を拭いて風呂場から出ると誰もいない。若菜はもう客室かな。取敢えず、水飲んで自分の部屋に行こう。
「あれ、若菜どうして俺の部屋に居るの?」
「だって、ここで寝るんだもの」
「はっ、何言っているの。お前客室でしょ」
「だって、一人じゃ寂しいし」
「いやいや、じゃあ俺が客室に行くよ」
出ようとする俺に腕をがっちりつかまれた。じっと俺の顔を見ている。
「雫、私あなたの事好きだって言ったよね。男の人として好きだって。
今日の事も一杯考えたわ。でもいくら好きだと言っても手も繋いでくれなければキスもしてくれない。
口では可愛いと言ってくれているのに。
私じゃダメなの。東条さんには出来て私にはしてくれないの」
「…………」
思い切り若菜が俺に体を付けて来た。ブラをしていないのか柔らかい物が体に押し付けられる。
若菜は俺がそこまでしないと心配なのか。俺は若菜の事を大切だと思っている。一生大切にいけない人だと思っている。幼馴染として。
それだけで、若菜の大事なものを貰っていいのか。優里奈の時とは違う。彼女の時はお互いにそうしたかった。だからした。でも若菜は。
「雫お願い」
そのままベッドに倒された。上に若菜がいる。そのまま彼女の唇が…………。
ガチャ
「お兄ちゃん、大きな音が…………。あっ、ごめんなさい」
バタン。
「もう」
若菜が俺の胸の上に顔を付けて何か文句を言っている。
「若菜、今日は良いよ、ここで寝て。でもしないよ。心の準備が出来ていないんだ。若菜が嫌いとかじゃ絶対ない。とても大切な人なんだよ。
でもその気持ちと若菜とする事は一致してないんだ。ごめん。若菜の気持ちは良く分かった。もう少し待って」
「待ったら。本当にもう少し待ったらしてくれるの」
俺は首を縦に振るしかなかった。
「じゃあ、じゃあさ。その気持ちが有るならキス位出来るでしょ」
「ちょっと、それもうっぷ……」
強引に唇を合わせて来た。離してくれない。
「ふーっ。ふふふっ、キスしちゃった。じゃあお休み」
「あ、ちょっと」
あっという間に毛布の中に入り込まれてしまった。
―――――
第7回カクヨムコン応募中。アクセスご評価頂けると大変ありがたく思います。
若菜の雫攻略作戦でしたが成功しなかったですね。でも若菜からしてみれば一歩進んだ感あるかもです。
次回をお楽しみに。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます