第90話 将来の事その二
俺は、その週の土曜日学校から帰って来るとリビングにいた父さんに話しかけた。
「父さん、今いい?」
「いいけど、なんだ?」
「将来の事なんだけど。今どこの大学に行くか迷っている」
「雫の行きたいところへ行けばいい。学費を心配する事はない」
「ありがとう父さん。実言うと私大、国立で迷っているんだ」
「何を迷っているんだ?」
「実はまだ大学を出た後の事は考えていない。でも方向性だけでも決めておきたくて」
「そうだな。お義父さんの所はどうするんだ?」
「それも悩んでいる。爺ちゃんは当然俺が継いでくれれば喜ぶだろうけど、あれだけの会社を切り盛りするほどの器量は俺には無いと思っている。でもサラリーマンはちょっと向いてない感じ。だから決めていない」
「そうか。まあ雫の行きたいと所へ行けばいいし、好きな事をすればいい。それに大学に行けば四年有る。今はまだ高校二年だ。時間はあるだろう」
「うん、実は地葉大に行こうか、宗慶あたりに行こうかと思っている」
「地葉大は良いけど、通うのに遠くないか。宗慶なら何とか通えるだろう」
「一人暮らしは覚悟している。バイトもしないといけないけど」
「バイトはともかく一人暮らしは大変だぞ。それにあの子達の事どうするんだ?下手すると大変な事になるぞ。高校の間に一人に決められるのか?」
「決めないといけないと思っている。でも決める事が出来ない」
「それでは家から通える大学出ないと無理だな。収集がつかなくなる」
「分かっている」
「だが、いずれ決めないといけない。出来るのか」
「するしかない」
今は全く分からないけど。
「雫、もう一度よく考えなさい」
「分かった」
父さんはこういう時は本当に父親という立ち位置でいてくれる。俺も頼れる大人になりたい。
日曜日
ピンポーン。
ガチャ。
「あっ、若菜お姉ちゃん。おはよ。上がって」
「ありがとう。雫起きている?」
「まだ夢の中。起こしてくるね」
ふふっ、紗友里お姉ちゃんが来てくれたおかげで朝お兄ちゃんを起こすのは私だけの役目になった。
前はドアを開けていたけど紗友里お姉ちゃんが来てからしっかりとドアを閉じる様になった。
ガチャ。
そうっと覗くと、ふふっ、まだ毛布にくるまっている。
そっと、毛布を上げるとあっ、まだ寝ている。毛布を上げてと
すっと毛布の中に入った。お兄ちゃんの匂いが一杯幸せ。
コンコン。
「うん、誰って。あっ花音。起きて」
「うーん。あっ寝ちゃった」
「どうしてこうなっているの?」
「さっき若菜お姉ちゃんが来たから起こそうと思ったら。えへへ」
「もう、起きるよ」
「誰、入っていいよ」
「花音ちゃんが起こしに来たはずだけど。あっやっぱり」
「えへへ。ごめん寝ちゃった」
「花音ちゃんずるいよ。私も」
「待ちなさい。下坂さん。あなただけにいい思いはさせません。私からです」
「何いているの。雫の部屋に入ったのは私が先よ」
「そう言う問題ではありません。私も雫様が起きるのをずっと待っていたんです」
「待って二人共。朝から揉めないで。それから花音も早く出なさい」
「はーい」
ふふっ、役得役得。
「三人共着替えるから下に行っていて」
「雫様、着替えるならお手伝いを」
「紗友里!」
なんとか三人を部屋から出して着替えて下に降りて行った。まだ九時半だよ。顔を洗ってダイニングに行くと
「雫、早く食べて」
母さんがいつものフレーズを言っている。
テーブルにはもうご飯とお味噌汁も盛ってあった。食べていると二人がじっと見ている。
「どうしたの?そんなに見られると食べずらいんだけど」
「雫、おじさんとのお話はどうなったの?」
「そうです、雫様。私も気になって」
「後で説明するから、そんなに見ないで」
朝食を食べ終わるとリビングで
「結局、何も決まっていない」
「「えーっ!」」
「おじさんと話したんでしょ」
「話したよ。父さんは俺の自由にしろって」
「雫、もうすぐ進路ガイダンスあるよ。決めてくれないと私も決められない」
「雫様私もです」
「…………。二人共俺を一人にしてくれないか。考えたいんだ」
「「でも」」
「ちょっと散歩に行って来る」
俺は、一人で川の方へ歩いて行った。風がだいぶ冷たくなった。河川敷を歩いて川沿いまで来ると
ふーっ、どうしようかな。そろそろ決めないといけないよな。将来の事。あの子達の事。
でも難しい。どうすれば決められるのかな。
そのまま散歩していると
「雫」
声の方を振り向くと腰まである長い髪を後ろで一つにまとめて切れ長の大きな目がはっきり俺を見ていた。
「優里奈。どうしたんだ。こんな所もう寒いだろう」
「うん、でもちょっと歩きたかったから」
「そうか」
「手を繋いでいい」
「いいよ」
そっと手を出して来た。恋人繋ぎだ。
何も言わずに二人で歩いた。
「雫、決められないんでしょ。将来の事も私の事も」
「ああ、その通りだ」
「雫、信じているから」
「……優里奈」
結局そのまま優里奈を家まで送って行った。電車は違うが歩けばそんなに遠くない。学校の駅からはV字みたいに路線が別れているだけだ。
戻って来たのは午後一時を過ぎていた。
取敢えず理系にしておくか。
―――――
悩む雫です。
次回をお楽しみに。
この作品と並行して下記の作品も投稿しています。読んで頂ければ幸いです。
「九条君は告白されたい。いや告白はあなたからして(旧題:告白はあなたから)」
https://kakuyomu.jp/works/16816927860661241074
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます