第98話 ホワイトデーの翌日


 ホワイトデーの次の朝、紗友里と花音と一緒に家を出ると

「雫、おはよ」

「若菜か。おはよ」


 良かった。若菜の泣き顔は見たくない。武道だってこの子を守る為に始めたんだ。


 信号に来ると

「神城君おはよ。振られちゃったね。でもいいよ。これからも友達でいよ」

「まどか、ごめんな」

「ううん、いいよ。ライバルが強敵過ぎたかな?」

「まどかも可愛いよ」


どすっ。

いきなりお腹を殴られた。避けちゃいけないよね。


「ごめん、どうしても一発入れたくて」

「痛いよ」

「嘘つきなさい。充分避けられたでしょ。それにこんなんで痛い訳ないでしょ」

「ソンナコトナイヨ」

「あはは。神城君らしくていいや」

 あっ、でも下坂さんと柚原さんそれに花音ちゃんが凄い顔して見ている。でもこの位いいでしょ。



 やがて学校の最寄りの駅に着くと優里奈も真理香も居なかった。

「あれっ、お兄ちゃん。真理香さんと優里奈さんがいない」

「いいんだ。花音」

 仕方ない。



 下駄箱で花音と別れ上履きに履き替えて教室に入ると真理香だけがいた。俺が席に座ると


「雫さん、これすぐ読んで」

 それだけ言うと席に戻ってしまった。


 手元には白い封筒。これって責任取れって事だよね。仕方なく急いで廊下に出て、三階の階段の踊り場に行った。もう三年生は卒業している。


 封筒を開けると手紙が入っていた。


 今日の放課後話が有ります。校門に家の車が迎えに来ています。一緒に乗って下さい。


 なんと目立つことを。


教室に戻り、少しすると担任の桃神先生が入って来た。

「東条さんは今日お休みです。もうすぐ二年も終わりますが、気を抜いて怪我などしない様に」


 それだけ言うと出て行ってしまった。実際もう授業は時間消化だけだ。生徒も先生も気が入っていない。



昼食を食べ終わると

「雫さん、今日は水やりの日です。行きましょう」

「雫私も行く」

「下坂さんは水やりのお役目ではないですよ」

「いいの」

 雫と柚原さんの二人で行かれたら不味い。これからは二人だけになるのを防がないと。


「雫さん!」

「良いよ紗友里。三人でやろう」


そんな会話も有ったが、何とか水やりを終えた。




 放課後、

「雫さん、行きましょう」

「えっ、雫どういう事?」

「いいんだ若菜。今日だけ」




 若菜と紗友里が思い切り心配しているが仕方ない。

下駄箱から校門まで真理香と歩いて行くと大きな黒塗りの車が少し校門を外して止まっていた。みんななんだろうという顔で見ている。



 俺達が近づくと運転席からサングラスを掛けしっかりとスーツを来た男の人が降りて来て

「お嬢様」

そう言って後部座席のドアを開けてお辞儀をしている。どういう事?


「雫さん乗って下さい」

先に乗ると真理香も乗って来た。


「真理香これどういう事」

「お話が有ります」


 俺達が乗ると男の人は何も言わずに車を走らせた。




三十分位走ると車が止まった。男の人がドアを開ける。真理香が降りた後、俺も降りると

「えっ、真理香ここって」

「付いて来て下さい」


大きな家の一室に連れて来られた。

「ここは?」

「早瀬家の別邸です。座って下さい」



 しばらくすると女性の人が紅茶を運んできた。ティーポットからカップに注ぐと直ぐに部屋を出た。


「雫さん、誰を選んだかなんて他の方の行動を見ればすぐに分かりました。それはあなたの判断です。今更復そうとは思っていません。ですが責任を取ると書いてありました。どういう事ですか」

 はっきりした顔で言っている。


「それは真理香が望む事をしようと思っている。俺が押し付けても仕方ない」

「そうですか。私の思う事ですか。では私と結婚して下さい」


「いやそれは」

「嘘です。

 私が大学を出るまで今の関係を続けて下さい。出来れば一緒の大学に行って下さい。

 そして大学を卒業したら私に雫さんの子供を宿して下さい。早瀬産業は私が継ぎます。その子を跡継ぎとします。

 もちろん雫さんには子供を認知して頂いた上、早瀬産業の役員になって貰います。 

 その子が一人前になるまで。子供は複数人が嬉しいです」


「えっ!」

 なんて事を言うんだ。


「そんな事、真理香のご両親が許す訳ないだろう」

「昨日、両親に話をしました。最初呆れていましたが、私が家を出ると脅して……いえ説得しました。但し、お父様がその証拠が欲しいと言っております。

 お父様と雫さんのお父様と雫さん、それと弁護士立ち合いの元で証書を作成します。

 これが私の雫さんへのお願い、雫さんが取って欲しい責任です」


「…………」

 参ったな。これは俺も父さんも予想外だ。


「話は分かった。父さんにも話す必要がある。考えさせてくれ」

「考える必要は有りません。実行だけして下さい」

「真理香」

「雫さんが私を選ばなかった償いです」




「なあ、どうして別邸なんだ。これなら真理香の家でも良かっただろうに」

「駄目です。これからの事も考えて」

「えっ、これからの事?」

「はい」



 俺はその後風呂に入らされた。真理香も入った。


「雫さん。関係を続けると言う事はこの事も含まれていますよ。私は雫さん以外の男と結婚する気は有りません。覚悟して下さい。それに……高校を卒業したらミスっても良いですよ。ふふふっ」

「…………」



……………………。



家に帰って来たのは午後十時を過ぎていた。


―――――


 うーーん。真理香さん。恐ろしき!!


次回をお楽しみに。


この作品と並行して下記の作品も投稿しています。読んで頂ければ幸いです。

「九条君は告白されたい。いや告白はあなたからして(旧題:告白はあなたから)」

https://kakuyomu.jp/works/16816927860661241074


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします


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