第97話 ホワイトデーと


 三月十四日ホワイトデー。

 俺は、学年末テストが終わってからみんなに贈るメッセージを書いた。

みんながどう言うかは何となく分かるけど覚悟の上だ。


 駅でみんなと一緒になったが気の所為か緊張しているのが分かる。渡すのは放課後にしよう。


 教室に入ると、あれっ、良太がいない。そうか隣の教室の白百合さんの所に行っているんだ。

 あっ、徳山が所沢さんに渡している。所沢さんが赤い顔をして嬉しそうにしている。良かったな徳山。


 さて俺は人の事は言っていられない。若菜も紗友里も他の子もいつくれるのという顔をしているけど放課後まで待って貰おう。


 良太が帰って来た。

「おはよ良太」

「雫おはよ。どうだ。準備したのか?」

「ああ。でも渡すのは放課後だ」

 みんなに聞こえる様に言ってやった。


「そうか、放課後なんて意味深だな」

「そんなことないよ」




 そして放課後になった。俺は席を動かない。ほとんどの生徒が教室から出ると鞄から五つの箱を取り出した。箱をラッピングして名前を書いてある。まあラッピングは花音に頼んだのだけど。


「はい若菜。チョコありがとう」

 若菜が嬉しそうで緊張した顔をしている。


「はい真理香、チョコありがとう」


「はい優里奈、チョコありがとう」


「はいまどか、チョコありがとう」


「はい紗友里。チョコありがとう」


「みんな家に帰ってから開けて」


 意味が分かっているのかみんな頷くと鞄の中に俺のプレゼントを入れて席を立った。




駅までの帰りは誰も口を開かない。そして若菜の家の前俺の家の隣に来ると


「雫、返事がどんなものであってもいい。開けたら雫のとこ行っていい」

「うんいいよ」


 私は今の雫の返事で少しだけほっとした。ぬか喜び良くないと言われるけど、雫とは長い。彼の表情と言葉の音で分かる。


 直ぐに帰って箱を開けた。チョコの下に手紙が入っている。急いで開けると


 若菜。

これからも一緒に居よう。結婚できるかはもう少し待って。


 雫!

 私には十分だった。


 制服も着替えないままに雫の家に行った。玄関を開ける前、一瞬、柚原さんは?

いい、そんな事関係ない。


ピンポーン


直ぐに玄関のドアが開いた。

「ふふっ、雫が待っているわよ」

「ありがとうございます」

思い切り頭を下げて雫の部屋に行くと


えっ、柚原さん!どうして?


「若菜か。読んでくれた」

「読んだから来たのに。何で柚原さんがここに?」


「若菜。紗友里にも同じことを書いたんだ」

「えっ!」


「雫様から私も聞きました」


「どういう事?」

「若菜が素直に自分の気持ちを書けって言うから書いた」


「じゃあ、東条さんや早瀬さん、琴平さんにも同じ言葉?」


「あの三人には別の事を書いた。内容は言わないよ」

「…………分かったわ。柚原さんと一緒と言うのが癪だけど、雫に捨てられていないってわかったからいいよ」


「下坂さん、私もその言葉そっくりあなたに返します。雫様は絶対に譲りません」

「何を言っているの柚原さん。雫は私のものよ」


 また始まった。いつまで続くんだろう。これ。





 その頃優里奈は


 私は帰宅した後、着替えて気持ちを落ち着けてから雫からの箱をゆっくりと開けた。

チョコの下に手紙が入っている。ゆっくりと開けると


 優里奈。

 中学の時からずっと好きだ。今でも一番好きだよ。

俺、爺ちゃんの所を継ぐ事に決めた。継ぐと決めた以上、俺の相手も決まって来る。

 結婚なんて先の事なんて思っていたけど仕方ない。 

でも、優里奈が責任取れって言うなら取るから。

それについては君のお父さんとも話す必要が有るけど先に君と話すよ。



 雫!

涙が溢れて来た。

ずっと泣き続けた。泣き疲れて眠ってしまった。




 真理香も同じ頃

 

 私は家に帰ると制服も脱がずに雫さんから貰った箱を直ぐに開けた。チョコの下に手紙が入っている。急いで開いた。


 真理香。

 俺の事を好きになってくれてありがとう。

俺、爺ちゃんの所を継ぐ事に決めた。継ぐと決めた以上、俺の相手も決まって来る。

 結婚なんて先の事なんて思っていたけど仕方ない。 

でも、真理香が責任取れって言うなら取るから。

それについては君のお父さんとも話す必要が有るけど先に君と話すよ。


 雫さん!

 目から涙が溢れ出て来た。

分かっていたから。彼の隣にいる事は難しいって。

 でも、でもほんの少しの可能性に縋った。もしかしたらという。

 涙で字がくすんでいるけどもう一度読み返した。


 雫さん、責任って。とにかく彼と話したい。今すぐでも。




 同じ頃まどかも


 私は家に戻り自分の部屋に入ると着替えもせずに直ぐに神城君から貰った箱を開けた。チョコの下に手紙が入っている。急いで開けると


 まどか。

 俺の事好きになってくれてありがとう。これからも友達でいよう。


 あーあっ。やっぱりなあ。あの四人に敵うとは思っていなかったけど。

 

少し涙が出て来た。

 神城君。本当は私だって!!!




雫視点に戻ります。


 俺はみんなに手紙を書く前、学年末テストの前に父さんに相談した。


「父さん話がある」

「そうか」


「俺、爺ちゃんの所継ぐよ」

「そうか。それは良かった。お義父さんも喜ぶ」

「あの子達の事だけど。はっきりする事にした。でも父さんにも協力して欲しい」

「何を?」

「結婚相手は若菜か紗友里に絞った。この二人のどちらかはまだ決められない。真理香と優里奈には結婚できないと断る。でも……する事しちゃっていて……。男として責任取りたい」

「責任?」


「うん、あの二人が望んだらなんだけど…………」


「分かった。二人と話をした後、そういう事になるなら私も雫と一緒に相手の両親に会おう。でもモテる息子を持つと大変だな。雫も経験するだろうけど。なにせ若菜ちゃんも紗友里さんも美人だからな。はははっ」

「父さん済みません」

「気にするな」


―――――


 雫良く決断しましたね。でも責任取るって?


次回をお楽しみに。


この作品と並行して下記の作品も投稿しています。読んで頂ければ幸いです。

「九条君は告白されたい。いや告白はあなたからして(旧題:告白はあなたから)」

https://kakuyomu.jp/works/16816927860661241074


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします


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