第95話 二回目のバレンタインデー


 放課後、みんなで相談した時はあんな風に決めたけど、実際雫の心情を考えると中々言い出せないまま日にちが過ぎてしまった。


 誰も雫に何も言えない雰囲気だ。でもこのままでは雫も私達もどうにもならないまま三年生になり、そのまま卒業してしまいそうな気がする。


 雫は、お爺様の事を私に話してくれた。だから雫は私とこんな時でも話してくれるはず。


 思い切って雫に連絡してみた。隣なんだからいつもと同じように何も言わずに押しかけてしまえばいいのだけど今回はそうはいかない。柚原さんも居る。


 スマホを手に取ると自分の部屋から雫に連絡すると意外にも直ぐに出てくれた。


「雫」

「なに若菜?」

「いま、会いたいけど行って良いかな」

「もうすぐ夕飯の時間だけどいいよ」

「うんすぐ行く」



 二分もしない内に私は雫の部屋にいた。紗友里さんが玄関で悔しそうな顔をしているけど今は仕方ない。


「どうした若菜」

「うん、雫の顔見たくてさ」

「学校で見てるじゃないか」

「ううん、こうして二人で」

「そうか」



 雫は珍しく本を読んでいる。

「雫」

「なに?」

「……ずっと一人で考えている。お爺ちゃんのことでしょ。私じゃ相談に乗れないかな?」

「……ありがとう。若菜」


……………………。


「若菜」

「なに?」

「誰を選んでも他の人が傷つく。俺には誰を選ぶかなんて選択肢が無いんだ。いくら考えても何も出てこない。

だから思い切って全員と別れるのもありかなと思う様になっている。みんな悲しむだろうけど他の人を選んで自分は選ばれなかったって傷つく事無いし」


「雫、それは駄目。誰も選ばない方がみんな傷つく。誰もが自分は選ばれる価値も無かったんだって。私もそうよ。雫から別れるって言われたら生きていけない。死んだ方がまし。

 早瀬さんも東条さんも柚原さんも同じだと思う琴平さんは分からないけど」


「そうか。じゃあみんなと一緒になる……って言うのは駄目か」

日本は一夫多妻じゃないからな。


「雫、もうすぐバレンタインデー。私も他の子もチョコをあげるわ。ホワイトデーの時、みんなとこれからかどうしていくか返事に書けば?」

「難しいよ。そんな事」


「今、選ぶんじゃなくて今後その子とどうしていきたいかって書くの。……友達のままで居ようとか、結婚を考えているでもまだ決まっていないとか、明確な意思表示じゃな無くて」


「でもなあ」

「みんな雫の事心配している。私も。だから今行った事実行して」

「…………」


「じゃあ、私帰るね」

「あっ、若菜」

「えっ?」

「ありがとうな」

「うん、私は生まれた時から雫と一緒だよ」


 私は翌日、他の子達に雫に言った事を伝えた。




 バレンタインデー当日、俺は一人で教室に入り自分の席に着くと良太が白百合さんからチョコを貰っている。そう言えば彼女がB組に言った理由も聞いてなかったな。


「雫おはよ」

「おはようございます。神城さん」

「おはよ良太、白百合さん」

「雫、少しは元気出たか」

「ああ、大分な」


 良太と話をしていると

「あの神城君、チョコ作ったの。貰ってくれる?」

「「私のも」」


 去年もくれた女子達だ。

「ありがとう。喜んで貰うよ」


タタタと自分達の席に戻って行った。


「雫、これ私から。手作り。思い切り本命チョコ」

「若菜ありがとう」


「雫さん、気持ちを思いっきり込めて作りました」

「真理香ありがとう」


「私から。雫の事ずっと思いながら作ったから」

「優里奈ありがとう」


「雫さん、手作りです。口に合えばいいのですが」

「紗友里ありがとう」


「神城君。私も手作り。貰って」

「まどかありがとう」



「はあ、やっぱり神城ズは顕在か」

「まあ、仕方ないな」

「「貰いたかったなあ」」

「義理くれるかも」

「「そだね」」

 


 雫、お願いした事やってね。もちろん私だよね。若菜曰く

 雫さん、私ですよね。真理香曰く

 あなたが居ない日なんて考えられない。雫お願い。優里奈曰く

 雫様、お願いします。紗友里曰く

 神城君、私じゃ駄目かな。まどか曰く



 その後も授業の間の休み時間にチョコを持って来てくれた女子達がいて、どうすればいいんだ。


 放課後、

「雫、はいこれ」

「ありがと。」

 若菜がくれたのはどこかの有名なショップの紙袋だ。俺はその袋に貰ったチョコを入れると


「帰るか若菜」

「えっ!」


「雫!」

優里奈が声を掛けて来た。


「優里奈も」

俺は教室に残っている真理香、紗友里、まどかにも

「みんな帰ろう」

「「「はい」」」


 何だ私だけじゃなかったのか。でもいいや。



みんなと別れて家に戻ると、と言っても紗友里は一緒だ。


玄関を上がると


「雫様、お話が有ります」

「なに?」

「着替えたらお部屋に行って宜しいですか」

「良いけど」


 俺は何だろうと思いながら、着替えてローテーブルの前で座っていると、紗友里も部屋着に着替えて俺の部屋に来た。そのまま俺の横に座ると


「雫様、少しだけでいいです。こうさせて下さい」


俺の肩に体を向けるとそのまま抱き着いて来た。

「どうした紗友里」

「寂しいです」


 紗友里は自分の顔を俺の右肩に乗せながら少しして


「雫様、私は至らないですか?あなたの妻として相応しくないですか?

 私は奈良の実家を出る時、両親に言われました。

 雫様の事一生お支えするようにと。だから、……だからあなた様に断られる様な事が有っても実家には戻れません。ずっとお傍でお仕えします。

 手伝いでも良いです。妻となる方のお支えもします。だから私を捨てないで下さい」


「紗友里…………」

 そこまで俺の事を。


 やがて俺に跨る様にすると思い切り抱き着いて来た。そして正面に自分の顔を持ってくるとそのまま目を瞑った。



―――――


 何と言えばいいのか。


次回をお楽しみに。


この作品と並行して下記の作品も投稿しています。読んで頂ければ幸いです。

「九条君は告白されたい。いや告白はあなたからして(旧題:告白はあなたから)」

https://kakuyomu.jp/works/16816927860661241074


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします

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