第3話

 結局、私とアレグザンダー様は婚約破棄をすることとなった。いじめをした、していないの平行線が続き、お互いに一つも譲らずに戦っていた最中、それは決まった。

 マリア様が私の犯行を裏付ける証拠を何も持っていなかったおかげで、私は罰せられずにすんだ。当然だ。私はマリア様に対して暴言や暴力なんて、一度もふるったことはないのだから。

 けれど、私とアレグザンダー様の仲を元に戻すの難しいだろうという国の判断から、私達の婚約は解消されることとなったのだ。アレグザンダー様がマリア様と婚約し、結婚できるかはまた別の問題として、だ。

 私達の婚約について、決定が下されるまでに長い時間はかからなかった。未来の王様の婚約事情というだけあって、王様や貴族の皆様方で真剣に話し合ったらしいのだが、それでも一週間が立つ頃には、私は晴れて自由の身となっていた。

 私は今、黙々と家族を目の前に朝食を口に運んでいる。婚約について話している間、私は実家で謹慎となっていたのだ。何もしていない私にこんな仕打ちをするなんて。少し腹立たしい思いもあるが、仕方がない。周りから見れば、私がいじめをしていた可能性だってあったのだろうから。

 誰も言葉を発さない朝食が続く。私達家族、私と、お父様とお母様の仲は元々あまり良くなかったのだが、私が王子様の婚約者でなくなった途端に、私に対する期待を失ってしまったようだ。私の両親は今の地位だけでは満足できないらしい。民のように生活に困っているわけでもないのに、人間とは恐ろしいものだ。

 朝食を終えて部屋に戻ると、私は鏡の前の椅子に座って自分の顔を見つめた。この1週間の間にある程度心の整理はできたと思っていたのだが、まだ少し完璧ではないところがあったようだ。

「私はクロエ……。だけど」

 雪菜でも、ある。それを理解し、受け入れるのに3日はかかった。3日間、私は自分自身と戦い続けた。あなたは誰、私は誰、私達は、誰、と。最後にはこうやって受け入れられたわけだが、やはりしんどいものがあった。他にも私と同じような人がいるのかはわからないが、私は案外受け入れるのが早い方なのではないだろうか。

 雪菜という私の死と、クロエという新しい生。これをきちんと受け入れられたのだから、私はすごい。かなりの自画自賛だが、そうでもしなければ私は2人の自分を受け入れられそうになかった。辛かったのだ。当然だ。普通の人ならしないような経験を、私今味わっているのだから。

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