第110話

 冬菜のおかげでどうにか落ち着くことはできたものの、どうすればいいのかはいつも通りさっぱりわからない。

 冷静になって考えてみよう。まず、あてになるのは今のところ私の聖女の力のみだ。魔国の魔人達の多くにかけられている呪いを解くことは、私の持つ聖女の力以外では成し遂げられない。けれど、例え1人1人確実に呪いを解いて回ったとしても、また呪いをかけられて仕舞えばおしまいだ。となると、呪いをかけられないように対策をしてから、呪いを解くことが鍵になってくるのか……。

「呪いを弾くような、何かが……」

 必ず、必要になる。私が小さな声でそう呟くと、冬菜とフレンはそれに反応し、ハッとしたような目で私を見た。

 よく考えればわかる話だ。けれど、その方法がまたわからないのだ。

 例えばどんなものならいいのだろうか。呪いを防ぐ、つまり無効化するためには何が必要なのだろう。前世のファンタジー小説で言うなら結界のような……。そうよ、結界よ。それがこの世界に存在すれば。

「冬菜。この世界に結界ってないの。それに私の力を付与すれば、あるいは……」

 聖女の力が付与できるかさえわからないのだが、希望があるとすればそこだ。私は藁にもすがる思いで冬菜に問いかけた。冬菜は驚いたような顔で私を見る。この顔は、やっぱり。

「あるわっ。そうよ、結界よ。スィーも使ってたじゃない」

 人魚の国に満たされる水が汚れないようにする魔法。どんなものなのだろうかと疑問に思っていたのだが、結界だったのか。だとすると、問題点が一つ。

「五大精霊であるスィーでさえ魔力が足りなくなるくらいなのよね……」

 私の発した声に、5人は落胆の顔を見せた。スィーでさえ魔力が足りなくなると言うことは、かなりの魔力が必要になると言うこと。いつまでこの状況が続くのかわからない今、その現実はかなり厳しいものだ。誰かが調査に出るにしても、その間ずっと、誰かが結界を維持し続けなければならない。それはしんどく、辛いことだ。

「……るわ」

 フレンが言葉を発した。俯いていたその頭は、もう下を向いてなどいなかった。その顔は、不安と決意で満ちている。交わるはずのないその想いが、確かにそこにあった。

「私が、やるわ」

 フレンは不安に押し殺されそうになりながらも、確かにそこに立っていた。決意を胸に。

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