第111話

 驚きしたものの、それは驚愕、と言うほどのものでは無かった。先ほどのこの国の状況を話すフレンの表情から見ても、フレンがこの国を愛しているのは確かだ。危険だとわかりきっているこの国にとどまり続けるくらいなのだから。

 何か力になりたい。たとえそれで、自分が苦しむ羽目になっても。フレンがそんな選択をするのは目に見えており、当然と言ってもいい現実だった。

 苦しいと思う。辛いと思う。けれどそれでも、五大精霊でそれなりの魔力を持つ以上、死にはしない。私達の魔力を譲渡しておけば、しばらくはそこまで苦しまずに済むだろう。離れていても魔力を送ること可能だし、今回の件は決して不可能なことではない。

「……いいの、フレン」

 冬菜は深刻な顔をしてフレンに尋ねた。スィーは本当に苦しそうだった。結界を張り続けることにより、魔力失調になっていたからだ。もしかしたらフレンもそうなるかもしれない。けれどもそれは、覚悟の上なのだろう。

「いいの。そのかわり、犯人をみんなの手で突き止めてね」

 フレンは穏やかな顔をして微笑んでいる。優しさと希望に満ちた聖女のようなその顔に、私は少し眩しさを覚えた。

 犯人はどこにいるのだろう。そんなあて、あるわけがない。それでもやるしかないのだ。

「よし、まずは結界を張るところからね」


 フレンが空に向かって手を掲げると、フレンの魔力は国中に浸透していった。温かく包まれるようなその心地に、私達は安堵する。ほっとするような気持ちに満たされながら、私は自分の仕事をこなそうと、フレンと同じように空に手を伸ばした。

 フレンの魔力に自分の魔力を滲ませていく。それは次第にフレンの魔力と混ざり合い、そして一つになった。光を放っているのではないかと思うほど、強い力を身につけ、それは国を覆い尽くす膜となった。

「で、きた……」

 私は未だかつてない感覚に襲われていた。まるで体から大量の血が流れ出し、貧血に陥ったような。これが魔力失調の感覚なのだろう。エラは、この国の人はこんな苦しみに耐えているのか。

「頑張って、もう一仕事よ」

 冬菜は私の肩に手を置き、魔力を勢いよく譲渡してくれる。私はその魔力を取り込むと、大きく息を吸った。

 次は、国民にかけられている呪いを解くのだ。なんとなくの感覚はわかっている。呪いを迎えにいくのではない。呪いの方から来てもらうイメージだ。

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