第112話
大丈夫、怖くないよ。動物に微笑みかけるように、幼な子をあやすように。私は呪いに向かって手招きをした。
冬菜とゼラ達が送ってくる魔力を頼りに、私は薄い膜で集まった大量の呪いを包み込んだ。呪いは一つにまとまり、私を期待する目で見上げている。
エラの呪いを解いた時とはまた違った感覚がする。あの時は憎くてしょうがないと、睨まれているような感覚だったが、今回は違う。まるで、救いを求めているようなのだ。
もう呪いたくないと、助けてくれと言っているように、呪いはするすると私達の魔力に溶けていく。集められたその呪いは、一瞬のうちにこの世から姿を消した。魔力探知で国中を探してみても、呪いの反応はない。
やった、できた。この国の人々は、救われたのだ。まぎれもない、私達の手によって。
「やったわね、雪菜」
けれど、この件はまだ終わっていない。現況を突き止めなければ、いつまでも結界を張っていなければ、また呪われてしまう可能性が高い。魔力を大量に消費し続けているフレンのためにも、なるべく早く解決しなくてはならない。
「みんな、行きましょう」
私が声をかけると、真剣な顔で冬菜とエラがうなずいた。ゼラ達は緊張したような顔で笑っている。
フレンの魔力補給のためにも、誰かが残った方がいいかとは思ったのだが、それは応援を呼んでなんとかするとしよう。私達も敵地へ乗り込むのだから、それなりに自衛ができるようにしておかなければ。
「エラはどうする。残る」
エラに聞こうと思ったその言葉を、1番にかけたのは冬菜だった。冬菜はエラが危険な場所についてきてもいいと思っているのだろうか。
「行く。私、行くよ」
どうやらエラの中で覚悟は決まっているようだ。もしかしたら、どこかで感じているのかもしれない。この国の人々に呪いを誰かは、自分に呪いをかけた誰かと同じなのかもしれないと。私もそう思う。だからこそ、エラ自身の目で確かめてほしいと思ったのも事実だ。
「そう言うと思った」
冬菜は心配そうにしながらも笑っている。私も賛成だ。犯人がエラを追いかけて呪ってきた以上、どこにいても危険なのは変わりないし、ゼラ達に護衛について貰えばそう簡単に怪我をすることはないだろう。それに、エラもわかっているはずだ。危険だと。それでも行くと言うのだから、子供だから行かせない、では済ませたくない。
連れて行きたくないのは山々だ。親友の大切な娘なのだから。エラは私にとっても大切だし、それは尚更だ。
「その代わり、危ないことはしないこと。それと、お宿でゼラ達と待っていること。約束できる」
エラは大きく頷いた。
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