第20話
彼女が、助かったとでも言わんばかりの表情で笑う。その横で小さくて可愛らしい火の精霊が、心配そうな顔で私を見ていた。
「ねえ、クロエ。大丈夫なの」
優しく、そして本当に不安な目で私を見上げる火の精霊の目に、私の考えは揺らいだ。……何も言えない。火の五大精霊が何に困っているのかもわからないまま、頷いてしまったのだから。
「大丈夫よ、危険ではないわ」
私の手を握る彼女が、机の上で小さな星のようにキラキラと光りながら飛ぶ、小さな精霊に向かって笑いかけた。危険な頼みではないと聞けて安心だ。けれど、本当に私でいいのだろうか。私にいったい何ができるというのだろうか。
「クロエちゃん、あなたの力が必要なの」
私を安心させるように笑う彼女の前で、私も笑顔を作る。ぎこちなく見えるその笑顔は、作られたものであることは隠せないが、私は少し嬉しかった。
必要とされたのはいつぶりだろうか。皆求めていたのは王子の婚約者としての私で、誰も私自身を見てくれる人はいなかった。それは、実の家族や家族になるはずだった婚約者でさえも。
友達なんてろくにいなくて、ひとりぼっちで生きているような気分だった。たった1人しかいない世界で息をしているような、そんな感覚。
けれど、ここではそんなことにはならないのか。多少難しい困りごとでもいい。私の力を必要としてくれている人がいるのであれば、私を必要とし、助けを求めてくれる人がいるのなら、できることを全力でやってみるのもいいかもしれない。
「わかりました、できることをやってみます」
無理は禁止。自分にそう言い聞かせながら、私は私に手を差し出す家主さんの手を握り返した。
再びお茶を口にしながら、これからどうするかについて話す。まずは火の五大精霊に会うことが先だろう。
「あのお方は人間の国にいらっしゃるわ」
五大精霊の次に力を持つ彼女がいうには、火の五大精霊は私がいた人間の国の平民に紛れて暮らしているらしい。
「詳しいことはよくわからないの。けれど、あのお方が困っていることは確かだわ」
まるで勿体ぶっているように、彼女はニヤニヤと笑う。とにかく行って見てくれないかしら。そう言われて頷いたはいいものの、私には一つ心配なことがあった。
私の見た目についてだ。別に見た目が悪いとか、そういう話ではない。私は精霊の森に生贄として送られた身なのだ。堂々と国に帰るわけにも行かないし、まず国に入ることが難しいだろう。冒険者の持つギルドカードなどの身分証も、何も持っていないのだから。
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