第57話
どうすればいいのか、結局わからないまま日は暮れてきて、私達は一度解散することとなった。宿を探さなければとスィーのいた部屋から出ようとすると、誰かに腕を掴まれ立ち止まる。
「待って」
少年は、どこか苦しそうに私の腕を掴む。
「スィー……様」
思わず出てしまったその名前に、慌てて敬称をつける。私が驚いてスィーを見ていると、彼は少し寂しそうな顔で私を見上げた。
「スィーでいいよ。敬語もいらないから、ね」
自分より長くを生きた精霊だと分かってはいても、子供の姿をしているものはどうにも愛らしく見えて仕方がない。
「わかったわ、スィー」
私が少し戸惑いながら答えると、お腹周りの服がぎゅっと引き締められるような感覚がして飛び上がる。背中を振り返ると、その正体はエラだった。
「わ、私のお姉ちゃんだよ」
エラは賢い。だから、冬菜やスィーの地位も、私やエラの立場も理解しているだろう。自分には敬語や敬称を使わなくていいことを許可されていないと言うことも、エラならきっと理解しているはずだ。その上でこの態度ということは……スィーはそんなに嫉妬の対象になっているのだろうか。それだけ愛されているのかと思うと、嬉しくも感じるが。
「おい、お前達」
びくっと肩を跳ね上がらせ、声のした出入り口の方を振り返る。先ほどから驚いてばかりだ。
「部屋の用意ができた。名目上は俺の友人ということになっているから、そのように振る舞え」
相変わらず偉そうな王子様は、不機嫌そうに私たちを見ている。見ている、というよりも、見下していると言った方が正しそうな態度だ。
「ついてこい」
こちらのことなどお構いなしにスタスタと歩いて行ってしまった王子様について行こうとしたところで、思い出す。今だに私の手を掴んで離さないスィーは、俯いて顔を上げない。気がかりなのは、先ほどの苦しそうなこの子の顔。
「……冬菜」
先に王子様について行った冬菜に話しかける。冬菜は足を止めて私の方を振り返った。
「私、残るわ」
冬菜は一瞬戸惑ったような顔をしたが、すぐに状況を理解したのか、エラを連れて部屋を出て行った。ゼラ達も私と一緒に残ってくれるようで、心配そうにスィーの近くを飛んでいる。
大丈夫かな、とスィーの顔を覗き込むと、スィーはどこかほっとしたような顔で笑っていた。
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