第67話
ここには護衛の人たちもいるから詳しくは話せないのだが、イーサン様なら信用できるし、いつかは話してもいいのかもしれない。
「気にしないでね」
今思えば、護衛の人たちからも幽霊と話しているように見えるのだろうが……今更ね。気にしたら負けだわ。
ニコニコと笑う冬菜に押されて、イーサン様は納得できないようではあるものの頷いてくれた。
「王様について、どうしてあまり協力的じゃないのか調べてみようと思ってね」
スィーは目を細めて笑いながら王子様を見た。スィーの笑顔が、無理をして笑っているようにしか見えなくて、何だか痛々しい。イーサン様に本当のことを話せない。それをまた意識してしまったのだろう。
事情があるのだから、罪悪感など覚えなくてもいいと私が言っても、そう簡単にそれがなくなることはないだろう。きっと私がスィーの立場ならそうだっただろうから。精神が強い人なら違ったのかもしれないが、私達はちがう。少し気にしすぎているのかもしれないが、よくいえば相手に気を遣える、ということなのだろう。
「そうか、なら今日は一度お開きでいいか。仕事がある」
私たちの返事を待つことなく、椅子から腰を上げたイーサン様は、出口へと向かって泳いでいく。私達は呆気に取られながらも、その後ろ姿を見守っていた。
「……スィー」
突然、イーサン様が止まったかと思うと、彼は振り返ることなく声を発した。その背中は、少し寂しそうにも感じられる。
「俺は、お前が話してくれるまで待つつもりだったのだが、ご友人もお前の秘密はご存知のようだな」
その頭は少し俯いていて、拳はすこし握り締められている。
「……俺に話す気がないなら、言ってくれ。待つ必要がないなら、言ってくれ」
そう言い残すと、イーサン様は部屋を出て行った。私達は驚き、小さく口が開いたまま塞がらない。スィーの方を振り返ると、スィーも信じられないというふうに、イーサン様の出て行った出口を見つめていた。
きっとイーサン様は気が付いていたのだろう。スィーが何か自分に話せない秘密を抱えていることに。先ほどのようにかなりあからさまな場面もあったし、気づかれてしまうのは仕方ないのだろうが、イーサン様は待っていてくれたのだ。スィーが、自分の口から話してくれるその日を。
けれど、待ち疲れてしまったのか、友人がいることを知り、自分でなくてもスィーの支えになれる人物はいるのだと安心したのか。教えてくれないのなら。そう思ってしまったのだろう。
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