第51話

 エラの手を握って冬菜達を待っていると、また頭の中で声が聞こえてきた。

ついたわ。呼び寄せるわよ。

 エラにも聞こえていたであろうその声に私はうん、と返事をすると、エラの手をしっかり握りしめる。エラも私にしがみつくように、私の手を握り返してくれた。頼りにされているのかと思うと、なんだか嬉しい。

 瞬きをした瞬間に、景色が変わる。そこは整理された珊瑚の庭園で、たくさんの色の珊瑚が、花のように咲き誇っていた。おそらく魔法で管理しているのだろう。

綺麗なところだね。

 エラが目をキラキラと輝かせて、あたりをキョロキョロと見渡している。目を奪われるほどのその絶景は、ゆっくりみたいほど美しいのだけれど、今は時間がない。

行きましょう。

 冬菜の念話に反応して、小さく頷く。なるべく音を立てないように、なおかつ早足で。私たちの姿が見えていたら、さぞ怪しかったことだろう。

 階段を登っていく。泳ぐ人魚族に階段は必要ないものだが、魔法でやってくる人間や獣人、魔族のために作られたのだろう。

 最上階まで登っただろうか。裏道のようなところもくぐり抜けて、奥へと入っていく。王様のいそうな部屋も通り越し、そのまた奥に彼はいた。体に似合わない大きな椅子に腰掛けたその少年は、目を閉じてじっと何かを堪えている。周りには何人もの人魚達が控えていて、護衛のように武器を握りしめていた。

 私は驚いて、オロオロと冬菜の方を見た。冬菜もまた、どうすればいいのかよくわからないとでも言うふうに目を見開いている。

 精霊が、生物の前に姿を現しているなんて。私たちが驚いたのはそこだ。ここまで丁重な扱いをされていると言うことは、おそらく精霊であることは明かしてしまったのだろう。精霊が、人間達に紛れ込み暮らしていることがよくあることがわかっている以上、余計にこの場面が奇妙でならなかった。

「……いらっしゃい。待ってたよ」

 ゆっくりと開いたその目は、とても綺麗で。海のように青く、透き通っているその髪は、水にゆらゆらと揺られていた。

「侵入者ですか」

 腰にある剣に手をかけ、兵士達があたりを警戒する。私達も攻撃されるのではないかと、ついつい緊張してしまう。あちらからはみえないとわかっているのに。

「ちがうよ。僕の友達さ」

 少年の見た目をしたその精霊は、私たちの方を見てにっこりと笑った。

「さあ、姿を見せてよ」

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