第27話
感動か、懐かしさか。目から涙が溢れそうになるのを抑えながら、私は冬菜と名乗るその女性に手を伸ばす。
「冬菜、冬菜なの」
彼女は黙ったままこくこくと頷く。その目からは抑えきれなかった涙がこぼれ出ている。
「私っ、雪菜がしんじゃっ、て。ぼーっとしてて、く、車がきてるのに気がつかなくてっ……っ……」
息をする暇もないほど苦しそうに泣く冬菜。申し訳ないことをした。咄嗟にそう思った。私のせいで、冬菜は死んだんだ。
「ごめん、ごめんねっ……」
私はもう感情を抑えきれずに、ポロポロと溢れ出る滴を拭い取ることしかできない。
私達は互いの肩を抱き合って泣いた。何度も何度も謝りながら、何度も何度も互いの存在を確かめ合いながら、泣き続けた。思い出してしまった死んだ時の恐怖。また会えた感動。泣かない理由なんて、どこにもなかった。
2人がやっと落ち着く頃には、もう夕方になっていた。火の精霊さんが、私の頭上なら心配そうに私達を見下ろしている。
冬菜に声をかけようと口を開けると、乾燥を感じる。喉もカラカラに乾き、声も少し掠れている。きっと目も腫れていることだろう。
「本当にごめんね、私のせいで……」
私が死んだせいで、冬菜まで死なせてしまった。それが悔しくてならない。
「そんな、雪菜は悪くないよ。ほうけてた私が悪いんだから」
やっと笑顔を作れるようになった私達は、ふふふと笑う。今でも信じられない。姿形は違えど、また冬菜に会える日が来るなんて。
火の精霊さんが私達の間を飛んでいる。彼女は頭の上にクエスチョンマークを浮かべながら、私と冬菜を交互に見ていた。
「ねえ、クロエちゃんは火の五大精霊様と知り合いなの」
質問の意味が分からず、静かな時間が流れる。どうして今、火の五大精霊が出てくるのだろうか。
「あ、言ってなかったね。私が火の五大精霊なの」
……え。うそ、でしょ……。
私達はとりあえず最初に、とこの世界に転生してからの互いの生い立ちを話し始めた。
冬菜はかなり昔にこの世界に精霊として転生し、もともとなぜか持っていた力で五大精霊の地位を手に入れたらしい。長くを生きる精霊にとって時間とはあまり重要視すべきものではなく、いつ生まれたのかはわからないが、ある日突然森の中で気がついたらしい。その日から100年は経っているのはわかるのだけれど、と、自分の年齢すらもわからなくなるくらい長い時を生きた冬菜は、大人びた表情で笑っていた。
「へえ、じゃあ、ここゲームの世界だったんだ」
私が話をすると、何となくそうかなとは思っていたんだけど、と冬菜は頷く。予想はしていたのだが、確信は持てなかったらしい。
「そっか、雪菜もその姿は本当の姿じゃないんだね」
そう言って笑う冬菜はどこか残念そうだ。けれど仕方がない。私達は一度死んでいるのだから。
「それで、冬菜は何に困っているの」
私は危うく忘れてしまいそうだった本題を切り出す。思い出話なんて、後からいくらでもできるのだから。
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