第86話

 結局4人部屋に泊まることになった私達は、大きな一室に足を踏み入れた。2階にあるその部屋は、予想通りの豪華さで、冬菜とエラは目を輝かせている。4人部屋であることに関しては、エラはあまり気にしていないようだ。子供だからなのか、聖霊に育てられたからなのか。どちらにせよ、人間としての常識に乏しいことは間違いない。

 精霊とはいえ男性と一緒の部屋に泊まることになるのは気になるが、節約にもなるし、仕方ない。着替えの時は出ていって貰えばいいだけだ。

「綺麗な部屋だねっ」

 エラは嬉しそうに部屋の中を走り回っている。こんなに喜んでいるのなら、良かったのかもしれない。

「ねえ、フゥ。お金は大丈夫なの」

 私はフゥのお金事情が心配になってしまって、ついつい声をかけてしまった。わざわざそんなこと聞かなくてもいいことはわかっているのに、人というものはついついやってしまう生き物なのだ。

 私がお金が足りずに追い出されないか心配しているかと思ったのか、フゥは楽しそうにニヤニヤ笑っている。

「ダイジョーブ。これでも僕、稼いでるから」

 言っちゃった、とでもいうように私の方を見ながら笑うフゥは、ズボンのポケットに手を突っ込むと一枚のカードを取り出した。免許証のように顔写真のついたそのカードには、大きくSという文字が書かれている。

「僕、冒険者やってるの」

 エラは食い入るようにカードを見ている。それに気がついたのか、フゥはエラにカードを渡すと自慢げに私を見た。

 冒険者。それは、世界各地に突如出現するダンジョンに潜り、ダンジョンから現れる魔物を倒して生計を立てる。魔物がダンジョンからあふれ、人々に害をなさないようにするその仕事は、この世界ではかなり有名な職業だ。

 危険なため、魔物の素材を持って帰ってきた冒険者には、高い対価が渡される。成功さえし続ければ、かなりの高額を貰うことができるのだ。

 Sランク、というと、この世界である限りの最高のランクだ。何人しかいないわけではないが、何百人もいるわけではない。世界的に見れば、かなり希少で、なるのが難しいランクだ。

 冒険者には強さだけでなく、魔物の知識も必要なため、精霊の力だけでSランクまで上り詰めたわけではないだろう。

「すごいわね、フゥ」

 私が素直に本音をこぼすと、フゥは少し照れながら嬉しそうに笑っていた。

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