第131話

 ぐいぐいと引っ張られ、どんどん進んでいく。暗視の魔法を使っていても、拭えない何かに包まれながら、私達は走っていた。

 冬菜の表情を見れば、何か大変なことが起こっていることくらいはわかる。その顔は、魔力を大量に消費していたスィーを見つけた時よりも、深刻だ。

ここよっ。

 冬菜がいきなりピタリ足を止める。冬菜が指さした先にあったのは……いや、いたのは、牢の中で鎖と黒い魔法陣に包まれた、綺麗な金色の髪を持つ少年だった。


 少年は目を閉じて静かに息をしている。まるで、安静にして体力を消費しないようにしているようだ。

「ライ……。ライっ」

 冬菜が牢の柵をバンっと大きな音を立てて叩くと、少年の目がゆっくり開いた。慌てる冬菜を横目に、牢にかけられているであろう魔法を探る。

 ……かけられている魔法はおそらく、呪いの類だ。これなら、私の聖女の力で解くことができる。私が呪いの相手をしている間、冬菜は少年に話しかけている。冬菜の知り合い、つまり、この少年は精霊、冬菜の仲間なのだろう。

 解呪がおわると、私は牢の扉を破り、少年の元へ駆け寄った。少し冷静になったのか、冬菜も私の後に続いて入ってくる。

 ここは気持ちの悪い空間だ。まとわりつくような呪いの気配が、私たちの周りを漂っている。何度もここで呪いが使われたのだろう。それに、この少年にも呪いがかけられている。そして、この少年はそれに対抗しているがために、体力と魔力を消耗しているようなのだ。

「今、呪いを解きますね」

 体が触れていた方が解きやすい。そう思って握った彼の手は、簡単に折れてしまうのでは無いかというほど細く、弱々しかった。

 呪いもかなり強烈なものだ。当然だろう。それくらい強力なもので無いと、精霊を呪うなんてできない。

「ライ、大丈夫、大丈夫よ」

 冬菜は少年の反対の手を握って励ましている。ライと呼ばれるその少年は、私の方を細くしか開かない目で見上げている。生きたいと思う気力さえも感じられない、闇の篭った目で。

 私の中の焦りが、解呪の邪魔をする。早く解いてあげなければならないのに、手が、心が震えて、できない。

 状態を確認しないと、と少年の顔を見ると、彼は微笑んでいるように見えた。大丈夫、ゆっくりでいいよ、と言うように。辛いだろうに、苦しいだろうに、そんな人に慰められて。

 私は震える心を無理矢理立ち上がらせ、集中するために目を閉じた。

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